ウィリアムたちの通う学校の創立は古く、数百年以上に遡ると言われているがはっきりとした年代はわかっていない。
歴史を重ねるうちにその記録は時代の波にのまれ紛失してしまった。
しかし少なからずわかっていることはある。
そのひとつが校舎はもとは寺院で、改修、増築を重ね今の形になったということだ。
寺院の原形は講堂と本校舎のつくりなどから見ることができる。
そして本校舎の両脇に増築された木造の校舎が奥へと中庭を囲むように伸び、その中庭を抜けた離れに二階建ての別棟があった。

資料室はその別棟の一階にあった。
この建物も古く、石造りの壁や床は修復を繰り返してきた跡がある。
資料室には授業で使う様々な備品が収納されていて、資料の巻物、標本、化石、年代物の骨董品、鉱石や工具、街の立体模型などもあった。

歴史の授業が終わるとウィリアムは地図の巻物を持って資料室に行き、いつもの棚の前で立ち止まった。
そこには先日導入されたばかりの持ち運び式の投影機が手前に押し込まれるようにして置かれていた。
「誰か無理矢理置いたな」
仕方なくウィリアムはそれを取り出して巻物を置き、それから投影機を持って資料室の中を歩きまわった。
列をなして並ぶ棚を順に見てまわり、ようやく一番奥の隅の棚に空きを見つけて近づいた。
「ここでいいかな」
ウィリアムが投影機を置いて戻ろうとしたとき、冷気がスッと頰を撫でた。
思わず辺りを見回したが窓は締め切られていてどこにも風の通るような場所は見当たらなかった。
しかしその冷気はこの棚の通路から確かに今このときも感じられた。
「どこから?」
不思議に思ったウィリアムが通路を歩いていくとその途中の石床に少し隙間が空いているのに気がついた。
その場にしゃがみこんで手をかざすと風はそこから来ていた。
顔を近づけようとしたそのとき、授業の始まる鐘の音がきこえてウィリアムは慌てて立ち上がった。
そして最後にもう一度その場所を確認してから資料室をあとにした。