やわらかな日差しの下、川面は光の粒できらめき、蝶は草花の周りを気ままに舞い、梢では小鳥が陽気にさえずっている。
学校では休暇明けの生徒たちのざわめきが校内を満たしていた。
講堂に入ったウィリアムは隅の席にいる二人の同級生を見つけて近づいた。
「おはよう、ドイ……」
ウィリアムはもう一人の同級生にも呼びかけようとして声をつまらせた。
「似合ってるわよね?」
ドイがウィリアムを見た。
「どうして眼鏡……」
「視力が落ちたからだよ」
そう言ったレンズの奥のルネの目は静かに前を見つめていた。
鐘が鳴ると生徒たちは講堂正面の弧を描いた壁のくぼみに向かって黙祷した。
朝礼が済んだあと一年生は宗教学の授業を受けるためそのまま講堂に残った。
宗教学では主に世界中で信仰されているコントル教の各宗派の文化的特徴や慣習、戒律、思想について学ぶ。
「この地域の宗派は足を組んで座り、瞑想を行います」
教師のミシェルは両手を広げ目を閉じた。
「そうして精神を統一させ己を見つめなおし、神へと意識をつなげるのです」
コントル教の各宗派は似ている点もあるが、それぞれ異なる多様な慣習や戒律を持っている。
そして祭壇の形式も宗派によってさまざまな姿かたちをとった。
神が分裂して数多存在しているとするもの、偶像を置くもの、それを禁止しているものなど、同じ宗教であるにも関わらずその様式は各宗派で異なっていた。
「無理やりくっつけたような感じだ」
ウィリアムがそう呟くと隣に座っていたルネが顔を上げた。
「なにが?」
「宗派によって違いが大きすぎるなと思ったんだ」
その言葉にルネが頷いた。
「私もそう思う。それぞれの宗派の分布からみて地形や気候がその宗派の慣習や戒律に影響を与えているとわかる。でもそれにしては違いが大きすぎる。それから……」
とルネが言いかけたその時、咳払いがきこえた。
「何か質問があるのですか?」
ミシェルの問いにウィリアムが慌てて前を向くと隣のルネが急に立ち上がった。
「はい、今開いている教科書の内容とは少し外れますがよろしいですか?」
普段とは違うその様子に、横にいたウィリアムは面食らった。
「いいですよ」
ミシェルは笑みを浮かべて促した。
「この講堂は東側に正面があります。ここだけでなく連合国にある歴史の古い寺院の多くは東側に祭壇があります。これには何か理由があるのですか?」
この質問にミシェルは先程までの笑みを引っ込めた。
そして口元に手を当てて話し始めた。
「それにはいくつかの説があります。一つは連合国ができる前、国が分裂していた頃に南部と対立していたためとする説です。他には、昔は大陸と地続きで、最も近くに位置していたのが東側の塔ではないかとする説です。実際に大陸とは地続きであったという証拠がいくつか見つかっています。しかしそれは何十万年も昔の話であって、この説はすぐに否定されましたが……」
その後、ミシェルがいくつかの説について語るのをルネは頷きながらきいていた。
「そうですか。ありがとうございました」
ルネが再び席に着いた頃には授業は終わりを告げていた。
「君は真面目だな」
ウィリアムがそう言うとルネは眼鏡を外してこめかみを押さえた。
「知りたいだけだ」
席を立つルネのあとにウィリアムも続こうとするとドイがサッと二人の間に入ってきた。
「もういいでしょう? ウィル、次は違う授業受けるじゃない」
「もう少し話があるんだ。ルネ、今日の放課後少しいいか?」
ルネが振り返った。
「君に見てほしいものがあって」
学校では休暇明けの生徒たちのざわめきが校内を満たしていた。
講堂に入ったウィリアムは隅の席にいる二人の同級生を見つけて近づいた。
「おはよう、ドイ……」
ウィリアムはもう一人の同級生にも呼びかけようとして声をつまらせた。
「似合ってるわよね?」
ドイがウィリアムを見た。
「どうして眼鏡……」
「視力が落ちたからだよ」
そう言ったレンズの奥のルネの目は静かに前を見つめていた。
鐘が鳴ると生徒たちは講堂正面の弧を描いた壁のくぼみに向かって黙祷した。
朝礼が済んだあと一年生は宗教学の授業を受けるためそのまま講堂に残った。
宗教学では主に世界中で信仰されているコントル教の各宗派の文化的特徴や慣習、戒律、思想について学ぶ。
「この地域の宗派は足を組んで座り、瞑想を行います」
教師のミシェルは両手を広げ目を閉じた。
「そうして精神を統一させ己を見つめなおし、神へと意識をつなげるのです」
コントル教の各宗派は似ている点もあるが、それぞれ異なる多様な慣習や戒律を持っている。
そして祭壇の形式も宗派によってさまざまな姿かたちをとった。
神が分裂して数多存在しているとするもの、偶像を置くもの、それを禁止しているものなど、同じ宗教であるにも関わらずその様式は各宗派で異なっていた。
「無理やりくっつけたような感じだ」
ウィリアムがそう呟くと隣に座っていたルネが顔を上げた。
「なにが?」
「宗派によって違いが大きすぎるなと思ったんだ」
その言葉にルネが頷いた。
「私もそう思う。それぞれの宗派の分布からみて地形や気候がその宗派の慣習や戒律に影響を与えているとわかる。でもそれにしては違いが大きすぎる。それから……」
とルネが言いかけたその時、咳払いがきこえた。
「何か質問があるのですか?」
ミシェルの問いにウィリアムが慌てて前を向くと隣のルネが急に立ち上がった。
「はい、今開いている教科書の内容とは少し外れますがよろしいですか?」
普段とは違うその様子に、横にいたウィリアムは面食らった。
「いいですよ」
ミシェルは笑みを浮かべて促した。
「この講堂は東側に正面があります。ここだけでなく連合国にある歴史の古い寺院の多くは東側に祭壇があります。これには何か理由があるのですか?」
この質問にミシェルは先程までの笑みを引っ込めた。
そして口元に手を当てて話し始めた。
「それにはいくつかの説があります。一つは連合国ができる前、国が分裂していた頃に南部と対立していたためとする説です。他には、昔は大陸と地続きで、最も近くに位置していたのが東側の塔ではないかとする説です。実際に大陸とは地続きであったという証拠がいくつか見つかっています。しかしそれは何十万年も昔の話であって、この説はすぐに否定されましたが……」
その後、ミシェルがいくつかの説について語るのをルネは頷きながらきいていた。
「そうですか。ありがとうございました」
ルネが再び席に着いた頃には授業は終わりを告げていた。
「君は真面目だな」
ウィリアムがそう言うとルネは眼鏡を外してこめかみを押さえた。
「知りたいだけだ」
席を立つルネのあとにウィリアムも続こうとするとドイがサッと二人の間に入ってきた。
「もういいでしょう? ウィル、次は違う授業受けるじゃない」
「もう少し話があるんだ。ルネ、今日の放課後少しいいか?」
ルネが振り返った。
「君に見てほしいものがあって」