週明けにルネとジョンはバスに乗って街へ出かけた。
街の中心部の停留所で降りて西へ歩いていくと三階建ての大きな建物が見えてきた。

「ここで服を選びましょう」
「はい」
建物の中に入るとルネとジョンは案内板に近づいた。
一階は食料品、二階が衣服、三階が玩具や雑貨などの売り場となっていた。
「二階に行ってみましょう」

二階に上がって売り場を少し歩いた二人は首をひねって顔を見合わせた。
売り場にはさまざまな銘柄の店舗が入っており、衣服の系統もそれぞれに違っていた。
「どこの店がいいんでしょう?」
「そうですね、ルネはどんな服が着たいですか?」
「着たい服と言われても……。シャツとズボンしか着ないので」
また少し歩いているとジョンが立ち止まって指を差した。
「こういう服を着たいとは?」
ジョンが指した店舗の前には柔らかな生地の布に紗や細い糸で編み込んだ装飾のついたシャツやスカートが等身大の人型の人形に着せられて並んでいた。
それを見てルネは大きく首を横に振った。
「いいえ!」
「わ、わかりました」

それからもジョンがいくつかの店舗を提案したがルネは同じように首を振り続けた。
同じ階を二周してジョンが大きく息を吐いた。
「では仕立て屋に行きましょう」

外に出て街の中心部から離れるように歩いていくと露天や小さな店舗が建つ通りに出た。
「いつもここで買い出しをしています」
野菜や果物、加工肉や魚を売る露店、茶葉や薬草、パン、雑貨などを売る店舗が軒を連ねていた。
露天では店員と客の声が飛び交い活気に満ち、店舗は古い建物が多く趣があった。

「この店は私の行きつけです」
入り口のドアを開けるとチリンと鈴が鳴り中にいた老人が振り向いた。
「おじいさん、こんにちは。この子にシャツとズボンを仕立てていただきたいのですが」
「はい、かしこまりました」
老人は静かにそう言って眼鏡のつるを持ち上げるとルネをまじまじと見た。
「どんなシャツとズボンがよろしいですか?」
「シンプルで動きやすいものがいいです!」
ルネはすぐに答えた。

「では私は少し出てきます」
そう言うとジョンは店を出ていき、あとにはルネ一人が残された。
「では、今から測っていきますね」
「あの……」
ルネは服の袖をぎゅっと握った。
「脱がなくていいですよ。そのままじっとしていてください」
老人がルネの体に軽く触れて一度考えるように動きを止めたが、そのあとはただ黙々と巻き尺を伸ばしては紙に書き込んでをくり返した。
採寸が終わると店内の端にある椅子をすすめられルネはそこに座ってジョンが戻るのを待った。

「手術したこと後悔していますか?」
両手いっぱいの荷物を抱えてバスに乗り込むとジョンがルネに小さくそうきいた。
「後悔もなにも、他に方法がなかったことなので。でも……」
「受け入れられませんか?」
「男じゃないと言われて落ち込みました。今までの自分はいったいなんだったんだろうって。頭にポッカリ空洞ができたようで」
「そうですか」
ジョンはそっとルネの肩に触れ、それ以上は何も言わなかった。