翌朝、研究所からの迎えはやって来た。
それはちょうどウィリアムが朝食を食べ終えた頃だった。

リンリン。
外から自動車の砂利を踏む音がしたかと思うと家の呼び鈴が鳴った。
ウィリアムが両親と揃って玄関に向かい扉を開けると、そこには帽子を手にした男が二人立っていた。
一人は背の高い金色の長髪の若い男で、黒い外套を羽織っていた。
もう一人は灰色の短髪に口ひげを生やした年配の男で、長髪の男と同じ格好をしていた。

長髪の男は鋭い眼光を放ちウィリアムを見下ろした。
「君がウィリアムだな」
「そうです」
陽光を背に受けた長髪の男はウィリアムに大きな影を落とした。
「お迎えに上がりました。さあ、こちらです」
影を追いやるようにもう一人の眼鏡の男が言った。
「私もつき添います」
父が前に出てそう言った。
「ダメだ。研究所に部外者は入れない」
長髪の男がそう言ってまた前に踏み込み、影をつくって父を制した。
「数日で必ず息子さんはお返しします」
眼鏡の男が横から補うように続けた。
しかし父は納得できない様子で顔をしかめた。
「なぜです? この子はまだ十歳です。親がつき添う権利があるはずです」
「私がその代理をいたします。それに研究所は国の重要機関で、関係のない一般人は連れて行けないのです」
眼鏡の男は眉をハの字にして残念そうにそう説明した。
「見ず知らずの、それも素性の知れない者に任せるだなんて」
「私は……」
「父さん、僕は一人で大丈夫だよ」
ウィリアムは父の袖を引き、そして長髪の男と眼鏡の男の前に出た。
父は何か言いたそうだったが眼鏡の男になだめるように押しとどめられ、そのあいだにウィリアムは長髪の男の手によって自動車の中へと背中を押された。
(さよなら)
ウィリアムは心の中でふいに湧いて出たその言葉に息が詰まりそうになったが、窓越しの父へ懸命に笑顔をつくった。