「待って」
放課後、ウィリアムは今にも教室を出ていこうとするルネを呼び止めた。
「課外出ないのか?」
「自由参加だろ」
そう言ったルネは眉間にシワを寄せ、目も合わせようとしない。
先日見せた笑みは幻だったのかとウィリアムは落胆した。
「それでも週の何日かはみんな出てる。今日は球技をやるんだ」
めげずに話しかけるウィリアムに対して、ルネは体を斜めにしてすぐにでもこの場を離れたくてその機会をうかがっているようだった。
「ねえ君、少しは運動して筋肉をつけた方がいいよ」
ルネは身長の割に身体が細く、見るからに貧弱だった。
「着替えがないし……」
ウィリアムの壁をすり抜けていくのを断念したルネがボソリと言った。
「僕のを貸すよ。予備があるから」
「用事が……」
「今考えただろ」
ルネは口を開けたり閉じたりして言い淀んだあとようやく観念した。
「……わかった」
校庭にはすでに生徒が集まっていた。
遅れて出てきたルネは自前のものと思われるつばのある帽子を目深にかぶっていた。
「まず何をするんだ?」
「そうだね、みんなに混じって試合をするのはまだ無理だろうからまずは基礎練習をしよう。……やっぱりそのウェア大きかったね」
ウィリアムの貸した長袖の上下は袖も裾もだいぶ余っていた。
「ちょっとこっち来て」
そう言ってウィリアムは近づいてきたルネの腕を掴んだ。
「なにするんだ!」
ルネが叫んだ。
「何って、袖を折るだけだよ。これじゃあ動きにくいだろ」
「離して!」
ルネはブンブン腕を振り身をよじって暴れ出したがウィリアムはその腕を離そうとせず、顔をしかめた。
「君、ご飯食べてる?」
ルネの腕はまるで木の棒でも掴んでいるかのようだった。
「離せ! 自分でやる!」
ルネの剣幕にようやく我に返ったウィリアムは気まずそうに手を離した。
「この球技は手を使わずに足で球を操るんだ。こんな感じ」
両手のひらに乗るくらいの球をウィリアムは足先でポンポンと跳ね上げ、器用に操ってみせた。
「わかった」
ルネは頷きウィリアムのマネをしようとした。
「待って、これは難しいからまずはキックの練習をしよう。こうやって足のサイドを使うんだ」
「わかった」
ルネは目の前に置いた球を見つめたあと足を思い切り前に出した。
「あ」
球はポーンと跳ねてあらぬ方向に転がっていった。
「大丈夫、慣れれば上手くできるようになるよ」
二人は間隔を空けてしばらく球を蹴りあったがルネは球の扱いに難儀し、ウィリアムからの球をよくとり損なった。
「すまない……」
「初めてだし気にすることないよ」
課外が終わり肩を落とすルネにウィリアムは明るく言った。
翌日もウィリアムはルネを課外に誘った。
「今日はこの球とグローブを使おう」
「これは昨日のより小さいな。これも蹴るのか?」
「まさか! これは手を使うんだ」
ウィリアムはルネにグローブを渡した。
「どっちにつけるの?」
「右利きならとりあえず左でいいよ」
ウィリアムは間隔をとって球を放り投げた。
球は放物線を描きながらゆっくりとルネめがけて落ちていった。
「素手で取っちゃだめだ。左手のグローブ使って」
ルネはグローブを慌てて構えたが球はその脇に落ちて地面をコロコロと転がっていった。
ルネはパタパタと球を追いかけて遠ざかっていった。
そのあとも送球と捕球を続けたが昨日と同様、ルネはよく球をとり損なった。
「おーい、僕も混ぜてよ」
ウィリアムが振り返るとポールが手を振りながらこちらへ近づいてきた。
「転入生のルネだね?」
ポールがルネに手を差し出した。
ルネは一瞬迷ってからその手を握った。
「僕はポール、仲良くしよう」
今度は三人でを球を回していったがやはりルネのところでよく滞った。
「ルネって運動音痴だな」
ウィリアムがあえて言わなかったことをポールがズバリと言った。
「というか球が追えてないよ」
その言葉に対してルネは目をクリッと見開きポカンとしていた。
まるでそんなことはじめて言われたとでもいうように。
放課後、ウィリアムは今にも教室を出ていこうとするルネを呼び止めた。
「課外出ないのか?」
「自由参加だろ」
そう言ったルネは眉間にシワを寄せ、目も合わせようとしない。
先日見せた笑みは幻だったのかとウィリアムは落胆した。
「それでも週の何日かはみんな出てる。今日は球技をやるんだ」
めげずに話しかけるウィリアムに対して、ルネは体を斜めにしてすぐにでもこの場を離れたくてその機会をうかがっているようだった。
「ねえ君、少しは運動して筋肉をつけた方がいいよ」
ルネは身長の割に身体が細く、見るからに貧弱だった。
「着替えがないし……」
ウィリアムの壁をすり抜けていくのを断念したルネがボソリと言った。
「僕のを貸すよ。予備があるから」
「用事が……」
「今考えただろ」
ルネは口を開けたり閉じたりして言い淀んだあとようやく観念した。
「……わかった」
校庭にはすでに生徒が集まっていた。
遅れて出てきたルネは自前のものと思われるつばのある帽子を目深にかぶっていた。
「まず何をするんだ?」
「そうだね、みんなに混じって試合をするのはまだ無理だろうからまずは基礎練習をしよう。……やっぱりそのウェア大きかったね」
ウィリアムの貸した長袖の上下は袖も裾もだいぶ余っていた。
「ちょっとこっち来て」
そう言ってウィリアムは近づいてきたルネの腕を掴んだ。
「なにするんだ!」
ルネが叫んだ。
「何って、袖を折るだけだよ。これじゃあ動きにくいだろ」
「離して!」
ルネはブンブン腕を振り身をよじって暴れ出したがウィリアムはその腕を離そうとせず、顔をしかめた。
「君、ご飯食べてる?」
ルネの腕はまるで木の棒でも掴んでいるかのようだった。
「離せ! 自分でやる!」
ルネの剣幕にようやく我に返ったウィリアムは気まずそうに手を離した。
「この球技は手を使わずに足で球を操るんだ。こんな感じ」
両手のひらに乗るくらいの球をウィリアムは足先でポンポンと跳ね上げ、器用に操ってみせた。
「わかった」
ルネは頷きウィリアムのマネをしようとした。
「待って、これは難しいからまずはキックの練習をしよう。こうやって足のサイドを使うんだ」
「わかった」
ルネは目の前に置いた球を見つめたあと足を思い切り前に出した。
「あ」
球はポーンと跳ねてあらぬ方向に転がっていった。
「大丈夫、慣れれば上手くできるようになるよ」
二人は間隔を空けてしばらく球を蹴りあったがルネは球の扱いに難儀し、ウィリアムからの球をよくとり損なった。
「すまない……」
「初めてだし気にすることないよ」
課外が終わり肩を落とすルネにウィリアムは明るく言った。
翌日もウィリアムはルネを課外に誘った。
「今日はこの球とグローブを使おう」
「これは昨日のより小さいな。これも蹴るのか?」
「まさか! これは手を使うんだ」
ウィリアムはルネにグローブを渡した。
「どっちにつけるの?」
「右利きならとりあえず左でいいよ」
ウィリアムは間隔をとって球を放り投げた。
球は放物線を描きながらゆっくりとルネめがけて落ちていった。
「素手で取っちゃだめだ。左手のグローブ使って」
ルネはグローブを慌てて構えたが球はその脇に落ちて地面をコロコロと転がっていった。
ルネはパタパタと球を追いかけて遠ざかっていった。
そのあとも送球と捕球を続けたが昨日と同様、ルネはよく球をとり損なった。
「おーい、僕も混ぜてよ」
ウィリアムが振り返るとポールが手を振りながらこちらへ近づいてきた。
「転入生のルネだね?」
ポールがルネに手を差し出した。
ルネは一瞬迷ってからその手を握った。
「僕はポール、仲良くしよう」
今度は三人でを球を回していったがやはりルネのところでよく滞った。
「ルネって運動音痴だな」
ウィリアムがあえて言わなかったことをポールがズバリと言った。
「というか球が追えてないよ」
その言葉に対してルネは目をクリッと見開きポカンとしていた。
まるでそんなことはじめて言われたとでもいうように。