翌日登校して腫れぼったい瞼で席に着くと、傍を通った殆どのクラスメイトから声をかけられ、その都度、「大丈夫よ」と返した。
 あの『いけ好かねえ』ヤツはといえば、こちらを遠巻きに、まるで汚れ者でも見る眼差しが、私の心の傷を一層深くえぐり、ご丁寧にも神経を逆撫でしてくれるのだった。
 ──あんなヤツの前に醜態(しゅうたい)をさらす羽目になるなんて!
 怒りに任せ、罵声の一つでも浴びせかけてやりたい衝動に駆られつつも、寸でのところで心の抑制は効いた。
 『人の不幸は蜜の味』
 今まさに彼女の心境そのものであろう。明々白々だ。
 私は彼女の冷酷な視線から逃れるべく必死にソッポを向きながら平静を装った。
 そうこうしているうちに、彼女との距離が日毎縮まって行くような気がした。気のせいか、と自嘲したが、確実に彼女は接近してくる。どんな魂胆があるかわかり兼ねるが、一週間が過ぎた頃、半径二メートルの範囲にピタリと張りついてこちらの様子をあからさまにうかがっている。鋭い冷血な蛇の視線がこの身に突き刺さり悪寒が走る。
 腹に据えかねた私は、あと少しでも近づこうものなら苦言を呈してやるつもりで身構えながらその瞬間を待ち侘びた。

   *

 その日は月曜日で空は朝からどんよりと雲の威勢に押され、私の気分も重苦しい黒雲にでも全身を巻かれたように明るい場所へは這い出ることは叶わなかった。
 登校して席に着くや否や、わざわざ近寄り、横からこの顔を覗き込んだ。恐らく、人の不幸を面白半分に揶揄(からか)いのネタにする魂胆なんだ、と疑わなかった。だから平静を装ってポーカーフェイスを決め込んでいた。
 案の定、彼女は無遠慮にも、根掘り葉掘り問いただしてきた。心の傷跡を土足で踏みにじられ、不愉快極まりなかったものの、あまりのしつこさに嫌気がさし、無愛想な態度で事の成り行きを聞かせてやった。
 すると、彼女は深刻な面持ちで、「私に任せて!」と胸を叩いたのだ。
 私はキツネに摘ままれた(てい)で目を(しばたた)かせながら彼女を見ると、口角を持ち上げ、ニヒルとも皮肉とも挑発ともつかぬ笑みを漏らして私の元を立ち去った。その不気味な表情に私の肌は泡立ってしまう。二の腕を両()でさすりつつ彼女の後姿を見送った。