七夕祭りの一週間は心が躍る。
 七月七日のクライマックスには、町内の十六歳から二十五歳までの男女を対象に自薦、他薦を問わず当年の彦星と織姫の候補者を募り、選出された二人をそれぞれの輿(こし)に乗せ、輿を囲んだ稚児(ちご)行列ともども天の川に見立てた神社の参道を、年に一度の再会の場所と設定された本殿まで練り歩き、そこで初めて二人を引き合わせるという趣向が三十年来の慣わしになっており、中にはこれがきっかけでめでたく結ばれた彦星と織姫もいる。結果的に若い男女の出逢いの場を町ぐるみで提供しているという予期せぬ展開に、実行委員らは殊の外ご満悦だともっぱらの評判だ。
 何ともロマンティックな成り行きに、自分もいつか輿に揺られてめぐり逢いの場所へ、などと妄想に取り憑かれ、仄かな夢と憧れを抱いている。見知らぬ男女が恋の予感を(はら)みつつ初めて出逢う場面ほど心揺さ振られる光景はない。生来の祭り好きの血が騒ぐ瞬間なのだ。祭り好き、というより、人同士がひしめき合う場所が好きなのかもしれない。
 祭りを通して伝統復古と失われかけた昔ながらの人情を取り戻すべく模索する町の姿は、巨大な捕食者に丸飲みされたものの、尚も胃袋の中でしぶとく息衝く小生物に思えてくる。喘ぎながらもささやかな抵抗で確かな存在感を示しつつ、大都市の片隅にこの町はひっそりと根を下ろしているのだ。私はそんな町に育った。