今日も私は、お隣さんのアイツと玄関先で待ち合わせだ。

「おはよ、涼真《りょうま》」

「はよ。香恋《かれん》」

 柔らかそうな金髪頭をガシガシと掻きながら、幼なじみの加納涼真《かのうりょうま》が大きなあくびをした。

「ふぁあ。てゆうか、きょうの期末テスト、俺、欠点だわ」

「え? 受ける前からもう分かるの?」

「まあな。今まで俺言ってなかったけど、予知能力あるから」 

 涼真が形の良い唇を片方だけ引き上げる。

「はいはい、言ってなよ」

「はぁ、信じてねぇんだな。ま、鈍臭くて鈍い田中《たなか》さん家の香恋には、一生俺のすごさわかんねぇかもね」

「何それ。別にどうでもいいけど」

 また私は涼真に嘘をついた。本当は涼真のことなら何だって知りたいし、涼真の言うことならどんなにあり得ないことだって信じたいって思ってるのに。

「可愛くねぇの」

 涼真は両手を青空に伸ばして背中をうんと伸ばしてから両手をポケットに突っ込んだ。 

 私は涼真から顔を背けると、小さくため息を吐き出した。

(本当に予知能力があるなら、私の気持ちも予知能力で察して欲しいわよ……)

 物心ついたら時から、ずっと言えない思いを飲み込みながら、いつもこうやって学校までの道のりを、二人でどうでもいい話をしながら歩いていく。

「あ、涼真。今日の夜、涼真のおじさんとおばさんとうちの親、焼き鳥屋でお隣飲み会らしいよ」

「だな。大体さ、お隣飲み会って何なんだよなぁ?」

「だね、まぁ仲良いのはいいことだけど」

「まぁな。俺らは酒飲めねーから、毎度毎度お留守番だけどな」

 うちの両親と涼真の両親は、高校時代からの友人でいつも四人一緒だったらしい。それは社会人になっても結婚してからも変わらず、マイホームを建てる時には、互いに隣に建てようと約束をしていた両親達は、その約束通り隣同士に家を建てた。

 こうして気づけば、私の隣には幼い頃からずっと涼真がいた。

「てことで、晩飯難民なんで夜いくからよろしくー」

涼真が、ニヤッと笑うと左耳のピアスを揺らした。

「てゆうか、メニューは? 」 

なんてことないように涼真に訊ねるが、この瞬間が私は涼真と話す中で一番緊張する時かもしれない。

「そんなん、決まってんじゃん、香恋のカレー美味いから。あれ?なんか香恋のカレーってウケないダジャレみたいだな」

「何それ、涼真が勝手に言ってるだけじゃんっ。じゃあ、カレー作っとくね」 

「おう、宜しくな」 

 下足ホールにつけば、涼真とは別クラスだ。
上履きを履くと、一階のそれぞれの教室へと入っていく。私は自分の窓際の席に鞄を置くと、小さなため息を吐き出した。

(良かった……涼真のリクエストはいつも通りカレーだった)