【原文】

あだし野の露消ゆる時なく、鳥部山の煙立ちさらでのみ住み果つる習ひならば、いかに物の哀れもなからん。
世は定めなきこそいみじけれ。
命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。

かげろふの夕を待ち、夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし。
つくづくと一年を暮らす程だにも、こよなうのどけしや。飽かず、惜しと思はば、千年を過すとも、一夜の夢の心地こそせめ。
住みはてぬ世に、醜きすがたを待ちえて、何かはせん。命長ければ辱多し。
長くとも四十に足らぬほどにて死なんこそ、目安かるべけれ。

そのほど過ぎぬれば、かたちを恥づる心もなく、人に出でまじらはん事を思ひ、夕の日に子孫を愛して、榮行く末を見んまでの命をあらまし、ひたすら世を貪る心のみ深く、物のあはれも知らずなりゆくなん、あさましき。

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【現代版訳】

 ――教室にて。

 ――ミーンミンミンミン(蝉の声)

「あー課題やってねー……」
「またぁ? 仕方ないなぁ。あたしの写す?」
「ダル〜。あ〜早く夏休みにならないかなぁ。……てか、さっきから蝉うざいんだけど。あいつらなんなん」
「……一週間の命よ。鳴かせてやれよ」
「いや、一週間じゃないでしょ。あいつらうじゃうじゃいすぎて一週間じゃ絶対静かにならないじゃん! いっそ絶滅してしまえ」
「こらこら」

 ――ミーンミンミンミン……(蝉の声)

「一週間かぁ……可哀想に。生まれてすぐ死亡じゃん」
「それな」
「そもそもうちらって蝉より長生きだけど、蝉ほど一生懸命生きてないよね」
「ほう?」
「見直したわ、蝉。あたしも蝉のように一生懸命生きるわ」
「はいはい。グダグダ言ってないで、早く写しなー。授業始まっちゃうよ」
「うげっ……昨日の課題ってこんなにあったの。そもそもなんで人間ってこんな勉強ばっかすんのかなぁ」
「働かないと食べていけないからでしょー」
「クソ……なんてことだ。人間、食べなくても生きていけたらいいのに! というか、働かなくてよくなれば勉強しなくて済むし、万事解決じゃない!?」
「蝉のいい話どこいったんだよ」
「やばい、あたし天才だ!」
「食べなくていいなら、たしかに働かなくてもいいけど……でも、そうしたらあんた、マジで生きてる価値ないクズだよ? 酸素返せって感じ」(←真顔)
「…………勉強します」
「よろしい」

 ――本鈴。

「次なんだっけ」
「数学〜」

 ※千年生きれば満足かって話。