「理加痛い!」
「だれだれだれだれ、いまの誰っ!」
「…大学院生の…西先輩」
「どういう関係っ!? 彼氏!?」
「ちーがーう! 前に私が教室にスマホ忘れて先輩が届けてくれてから、構内で会ったら話してるだけだよ」
「はあ〜!? 何そのドラマ的展開! 始まらんのかよ恋は!! 恋は!?」
「理加ちょっと落ち着きなよ」
これが落ち着いていられるかい、って興奮冷めやらぬといった感じで鼻息を荒げる理加のテンションは、大学入学当初の時となんら変わらない。こういった不変が唯一私の情緒を安定させているとしたら、彼女の就職内定が決まってしまったとき、私は壊れてしまうのだろうか。
「ま、こんなつまんねーご時世だからこそ知恵さま大先生の恋の行方、この寺本理加全力で応援大臣となります候」
「…就活しなよ」
「全裸進展待機」
「こわ」
進展なんか、ない。普通の人間の生活で、そんなドラマ仕立てなこと。
ただとんとん拍子にはいかずとも、命のきっかけやタイミングが、こういう時って何故か重なることは、ある。
「…いや、助かった、ほんとまじ」
お昼休み、大学の食堂で私の向かいに後から遅れて座る西先輩は今日、申し訳なさそうに一番安い焼き魚定食をテーブルに置く。好きなもの頼んでいいですよって言ったというのに、財布を忘れたのはこっちだから、とあくまで後輩に奢られることを最後まで渋っていたのは、彼だ。
私は人と合わせるタイプなので、本当は今日イチオシの生姜焼き定食にそそられていたけれど、先輩の前で食べるのはなんだか気が引けて同じ焼き魚定食にした。こんがりと焼かれた鮭をお箸でほぐしながら、少しだけ上体を前に出す。
「先輩、意外とおっちょこちょいなとこあるんですね」
「まーたそうやって馬鹿にする」
こら、って片手を上げて怒る仕草をする彼に片眉を上げて笑ったら、でも今日はなんも言えない、と反省する。そういうところが律儀だ。
「絶対入れたはずなんだよ、なのになんでかな。これで道端に落としてたらどうしよ、やっぱスマホ決済に乗り換えるべきだった」
「今度はスマホのCMですか?」
「もういいよーだ。…まいいや 羽柴と昼食べるきっかけ作れたし」