なんて(みじ)めなんだろう。


「…っ、なゆ、た」

「…はい」
「全部、見透かされてた。那由多は、全部わかってたんだ。だから止めようとしてたんだ。でも言い訳すると、私だってちょっと変だなとは思ってた。こんな、私が嫌いな私を、誰かが好きになってくれるなんてそんな、都合のいい話あるわけ絶対、ないんだもん」
「…」

「いらない、って言われた」

「…」

「私、いらないんだって」


 地球のゴミなんだって。

 確かにそうだなぁ、と泣きながらぼんやり笑ったら、そのとき、那由多の笑顔が止んだ。見たことのない、やさしくて、つよく、まっすぐな瞳だった。



「大丈夫。きみはいらなくなんかない」



 ぼろ、と涙が落ちる。聞いたことのない、それは那由多の心の声、だったのに。

 握られた手が、惨めさが、こんな時ですら愚かなプライドが先立って、感情がないまぜになった挙句、何かがぷつりと切れてしまって、

 私は那由多の肩を突き飛ばした。


「…なにそれ、同情してんの」


 人は、そう簡単に、変われない。

 やさしさがあったって。向けられたそれが、この苦しみが、全てがあんたのせいだって。あんたは知らないんだろうけど。
 驚いた様子で尻餅をついた那由多に、私は立ち上がって前に出る。泣きながら憤り、一歩、一歩歩み寄る。


「…可哀想だと思って、私のこと見下してるんでしょう。頭が悪くて馬鹿なあんたに教えてあげる、ずっと自分を馬鹿にして来た相手の弱いところ見つけられてざまあみろって思うこと、そう言うの見下してるっていうんだよ」

「…、」

「生まれたときからずっとずっと嫌だった、那由多のこと(かば)って生きていくのが辛かった、なんで私ばっかりってずっとずっと思ってた!! 障がい児なんだから人と同じレール辿ろうとなんかしないでよ、普通に生きようとしないでよ、どっかいってよ、嫌いなの!! 大っ嫌いなんだから!! 私が生きづらいのだって全部全部あんたのせい!! 勉強したって変われない、賢くなんかなれない、誰かに後ろ指さされながら生きてくの、それがどれくらい惨めかあんたにわかる!? 隣で見てきた私だけがそれを知ってるの、笑ってるけど、ねえ、那由多!!」

「知恵ちゃ」


「あんたは絶対、変われない、一生!!!」


 …誰に、言ってるんだろう。

 髪を振り乱し、コートを投げつけて息も絶え絶えに叫んだら、それを頭から被った那由多がずる、とゆっくり衣服の合間から顔を出す。


 そのとき。



 生まれてはじめて、泣いている那由多を見た。



 ぽろ、と瞼から落っこちた涙を頬に落としたまま、その瞬間だけは、笑わずに。

 静かに目を閉じて、乱れた髪の合間から、光が地面に落ちて、シミを作り、消えていく。