「…騙したの」

「だーからごめんて。あ、いる? こちら協力料です。ドゾ」
「馬鹿にしないでよ!!」


 掲げられた手を払い除けたら万札が宵闇に飛び散った。曲がりなりにも人のお金で、それらを提供した男二人が顔を曇らせ西先輩がまあまあ、と手で(なだ)める。
 そして、組んだ足を解いて一気に私の前に踏み込んだ。

 それから耳元でそっと囁かれる。


「ねえ知ってる? マインドコントロール、って自己肯定感低い人間にちおっと手助けしてやるだけで容易にコロッと落ちんのね。案の定秒で陥落、ズガン。わかる、きみの爆弾はすっげーわかりやすかった。那由多くんがいたからだ」

「、っ…」

「…何? それか本当に好いてもらえてるって思ってた? 自分は誰かの特別だと思ってもらえてるって? んなわけねーだろ笑わせんなよだってきみ全然魅力ないじゃんおどおどしてて自分が醜いことわかってんのに変わろうともしないでさあ!! それで人頼りにして変わらせてもらおーって魂胆がそもそも間違ってんだよ腹立つわ。

 で、障がい児(・・・・)のお守りしてかろうじて保ってたんだよなけなしの人間性。だからへし折ってやったの、自分でもわかってたんだろ? 〝私、いつも那由多のお守りしてて可哀想〟って被害者ぶって自分に酔ってる自己陶酔野郎が、それだけがずっと見え透いててマジで気分悪かった」


 あ、ほら僕臨床心理士志望なんで、と笑わない目に嗤われてとん、と指で肩を押される。もう既に目を見張ったまま泣き腫らしていたけれど、それでも更に一歩、一歩と踏み込まれながら指で肩を押されて後ずさる。


「いらないよお前」
「…、」

「地球のゴミ。カス。いらない、消えてなくなっちゃえ」


 尻餅をついた私に「お前みたいのがいるから世間で苦しむ人が増えんだね」、とヤンキー座りで嗤われて、頭を押し退けられた。泣きながらもう何も言えなくて地面にへばったら、男たちが会話してる声をそれでも耳は拾ってしまう。


「圭、あの子どうすん」

「いらんほっとけ。悲劇のヒロインなうだから警察とか拾うんじゃね」
「悲劇ついでにつれてくのはアリ?」
「お好きに」


 顔を傾けた先輩は、私の彼氏だった西先輩は、そんなものははじめからない。それでキャップを被った男の一人がタイトスカートからはみ出た脚を上から舐めるように見て、私の方に手を伸ばす。