行こうとしたら腕を掴まれた。引き止められた手を見てから、理加を見る。


「知恵、どうしちゃったの? 前までそんなんじゃなかったじゃん、サボったりして釘刺すのはいつも知恵の方だったじゃん! 西先輩と付き合うようになってからあんたずっと変だよ」

「…どうもしてないよ、私、ずっとこうだった。こういう人間だった。みんな知らなかっただけじゃん、無理ないよね、言わなかったんだもん。私の上っ面だけ舐めて知ったようなことばっか、はは、それで今更幻滅? 笑わせないでよ」


 意識が飛んだ。理加が私を打ったのだ。泣き腫らした瞳と乱れた髪の合間から目があって、赤い目で、荒く呼吸をする理加が見える。


「…こんなの、知恵らしくない」
「…」
「しっかりしてよお願いだから。知恵がいなきゃ那由多くんが」

「私らしいって何?」


 涙がこぼれた。わかるか。わかってたまるもんか。お前ら風情に私の辛さがわかってたまるか。


「二言目には那由多、那由多って…みんなして、理加まで!! 私らしいってなに、結局那由多ありきじゃん、那由多の面倒見て毎日自分を犠牲にして生きることがせいぜいお前だよってそういうこと!? 私が私らしく好きなことして生きちゃいけないの!? それで自分らしくいたららしくないって言われて、何、じゃあ私どうしたらいいんだよ!!」

「知恵、そうじゃない、あたしは」

「…何も知らないくせに私のこと。わかるように教えてあげようか。
 那由多なんかいなくなっちゃえばいいって、あいつが生まれた時からずっと、私いつも思ってたよ」


 泣きながら笑ったら、愕然とした様子の理加の手から力が抜けて、私の腕から剥がれていく。だから私は振り返らずに、スマホを持ってその場所を後にした。
















 春目前と言えど、もう空が夜に傾いている。


 西陽が射す町中を歩くと、夕飯の支度に備え買い出しに出ていたと思しき主婦や、連れられた子どもたちが見えた。大学終わりに駅前のコロッケ屋に寄って、2つのコロッケを買って食べたことを思い出す。

 その隣に誰がいたかは、記憶の端に閉じこめてもう鍵をかけてしまった。


 公園のトイレで、泣いたことでよれたメイクや髪を整えてから、先輩からの連絡を受けて約束の場所に辿り着く。そこは前にイベントをやっていたあの総合公園で、特になんの出し物も行われていなかったその日、だだっ広い芝生一面の敷地と入口には総合公園を象徴する石のオブジェクトがあって。

 スマホを耳にあてがうと、斜陽を浴びたオブジェクトの裏から着信音がした。