どうしたのよお、と店の奥からおばさんが出てきて、今にも泣きそうな那由多の背中をさすって慰める。それでおばさんがどうしたの知恵ちゃん、と少し笑って聞いてくるから、私は返事をせずに店を出た。















 中学生の頃、気になっていた先輩に付き合う? と訊かれたとき、「あぁでもお前保護者(・・・)だもんな」と言われて叶わなかったことがある。そのあと後ろから現れた那由多に罪はなかったけれど、結局、そういうことだった。

 そのときから、いや、小学生のあの頃から、おそらく那由多と出逢った時から、私は私の人生を過ごせないことを知ってしまった。人並みのレールは二度と辿れないだろう、そう覚悟を決めていた。

 その件があってから不思議に思った。なぜ、誰かのために自分の人生を棒に振らなければいけないのか。私が精一杯那由多に寄り添っていても、那由多は全然返してくれない。幸せすら、願ってくれない。


 それがただただ、腹立たしかった。










「おまたせ」
「あ、羽柴。今日も服可愛いね」

「本当ですか? やったぁ。あ、そうだ聞いてくださいよ先輩、那由多がね…」


 西先輩は、那由多ごとそんな私を受け止めてくれた。それがどれだけ私の心を救ったか、支えになったか、語彙のない私では到底説明の仕様がないのだけれど。

 だから私は西先輩に今まで抱えていた全ての胸の内を打ち明けたし、それに応えてくれるから、次第に那由多の送り迎えにも行かないようになっていって。

 目を合わせれば、笑ってくれる。抱き締めれば、抱き締め返してくれる。たったそれっぽっちで、かけがえのない。




 そんな生活を、一、二ヶ月が過ぎた頃。

 私は、先輩なしでは生きられなくなっていた。