那由多のことが嫌いだ
「なあ、あつき! お前新しいゲーム買ったんだって?」
「じゃーん、テストで100点取ったら母さんが買ってくれた」
「やべー! みんなで帰ってやろーぜ!」
「ゲームするですか」
教室で戯れていた三人の男子が、その声に一斉に振り返る。
自分の服の前のところを持っていた茶髪の、キャップを被った少年。那由多はそんな時、露骨に顔を曇らせた男子たちの反応もわからず、にこにこしている。
「あ?」
「ゲームするですか」
「ふは、ゲームするです、はい」
「僕も、する」
「でたよ那由多の興味本位。おい誰ですか———保護者———! 首輪取れてんぞガイジの手綱くらい握っとけよ」
羽柴、と自分の苗字を呼ばれて、それで教室に入るのを躊躇っていたらバシ、と音がした。たぶん、誰か一人が那由多を叩いたのだ。
「ゲームする」
「しーまーせーんー! テストでいい点取んねーとゲームで遊べねーの。お前何点だったの? 見せてみろよ」
「うわっ待ってやば!! 4点!! 4点はやばいクソバカじゃん!!」
「号外号外!! 一ノ瀬那由多くんは4点で———す!!」
もうやめなよ、ひどいよね、那由多くんだから仕方ないじゃん。
そんなクラスメイトたちの声がして、ドアの扉に添えていた手に力が入る。廊下の一点を見つめていたら「あ?」と渡利の低い声がした。
「お前なんでにこにこしてんの? きめーんだけど」
「じーぶーんーの話されてんだよ? わかってるねえ、バカ、脳味噌バカのガイジ、あったまわるいんだからうち帰って母親の乳でも吸ってろよ」
「てか学校やめろまじ」
「ゲームする」
「しねーっつってんだよきもちわりい!!」
ギャアッと悲鳴がして、蹴飛ばされた那由多が教室の後ろの木製のロッカーに頭を打った。帽子が飛んで、頭をぶつけてもにこにこしているから逆上する渡利たちに、また馬乗りになろうとするそいつにクラスメイトは悲鳴をあげるけど、助けない。先生もまだ来ない。
にこにこ、にこにこ。笑ってる那由多に渡利が殴りかかろうとするから、咄嗟にその場に飛び出した。怖かったけど、仕方ない。ごめん、って千円札を放り投げて、那由多の手を掴んで走り出す。
「おい羽柴そいつまじ早く学校やめさせろよ!!」
「行こう那由多」
「いつかぶっ殺すからな聞いてんのかコラ!! おい!!」
手首を掴んで震える身体を叱咤して、滲んだ涙を拭ったら知恵ちゃん、泣いてるの、と後ろから聞こえて来る。
泣いてるよ、そう、泣いてるの。那由多。
大っ嫌いなあなたのため。
私はいつも生きてて肩身が狭かった。