「あ〜腹減った。なんか食いたいな。」

重たい空気を嫌ったのか果たしてただただお腹が空いただけなのか、ソウスケが唐突に言う。

「…ここなら、色んなものがありそうですよね。」
「あ、あれうまそう。」
「ん?どれですか?」
「あれあれ。あのムキムキのおじさんが売ってるとこ。」

スッ、と立ち上がり歩き始めたソウスケについていく。

「中華まんはいかが〜?出来立てほかほか!あったかくて美味しいよ〜!今なら安く、できるかも…?さー見てって見てって〜!」

見た目通りの威勢のいいハリのある声で宣伝をしている。

「すいません、中華まん一つ。」

するとソウスケは隣からものすごい視線を感じた。
ギギギ、と若干目を動かすと、じーっとソウスケを見つめる金糸雀色の目。私も欲しい…っ!と言うアイの訴えだ。

「…やっぱりふたつ。」

ソウスケは押しに弱いらしい。

「あいよっ!ふたつね!小、中、大あるけど、どれがいい?」
「俺は大で…」
「私も、おっきいのがいいですっ!」
「大丈夫?かなりおっきいよ?嬢ちゃんほっそいし、食べきれねーんじゃねーか?」
「私見かけによらず結構食べるんですっ!大丈夫ですっ!」

前に誰かに驚かれたことがあるのかなんなのか、ちょっと気にしてるらしかった。

「そ、そうか!いっぱい食べるのはいいことだ!じゃあ嬢ちゃん可愛いから、嬢ちゃんの分は半額にしてあげよう!」
「え〜っ!ありがとうございます!」
「俺の分は…?」
「んー、お前は…。チャレンジ、してみるか?安くなるかもしれないゲームに。」
「なんだそれ。」
「ちょーっと待ってろー?」

そう言うと店主は屋台の後ろの方から木箱を一つ持ってきた。

「俺は腕っぷしには自信があるんだ。俺と腕相撲をして、勝ったら2人分無料にしてやろう。ただし、負けたら4個分の料金を払ってもらう。さあ、どうする?」
「…いいね。やろうじゃないか。俺も自信あるんだよね。」
「よしっ、じゃあろう!」

2人とも立膝をついて肘を木箱につけ、お互い手をがっしりと掴む。

「じゃ、じゃあ行きますよ…?よーい…スタートっ!」

ふんっ、とお互い思いっきり力を込める。店主は顔を真っ赤にしているが、ソウスケは冷静沈着な顔。かと言って余裕綽々と言うわけではなさそうだ。真剣に勝負はしている。

「すごいっ!頑張ってください!互角ですよ!!」
「……っ、がああぁぁっ!!」

最後のひと吼えと共にソウスケが店主の手の甲を木箱に思いっきり叩きつける。

「やったあ!ソウスケの勝ちです!」
「くそっ…!お前強いなぁー!!」
「まーね。」
「いやぁ、十数年ぶりに負けてしまった…。じゃあ約束通り、中華まん大二つ、くれたやるよ。はい、これがにいちゃんので、こっちは嬢ちゃんの分な。」
「ども」
「ありがとうございますっ!」
「また買いに来てくれよ!」
「はいはーい。」

もわもわと温かい湯気をあげている中華まんを持って、2人は店を離れた。

「よっしゃー無料中華まん!ただより美味いものはないっ!」
「美味しそうです…っ!」

肉まんがかなり大きいと言うのは本当で、アイの両手には収まらない。アイの顔くらいある。

待ちきれない様子のアイは早歩きでソウスケと広場まで行き、ベンチに腰掛ける。

食べていいですか…っ!?と、期待のこもった目でソウスケを見やり、どうぞと呆れ混じりに返す。
待ってましたとばかりに思いっきり肉まんにかぶりつく。


「…っ!!美味しいですっ!!」
「だな。当たりだったわこれは。」
「面白い方でしたね〜!」
「めっちゃ力強かったわ…。」

アイはまたパクッと肉まんを頬張り、へにゃ、と表情を思いっきり緩める。

「嬉しそうだな。」
「…私、攫われてから全部のことが初めてで、ワクワクしっぱなしです!こう言う服も、こんな場所も、食べ物も、人も、全部全部、初めてなんです…っ!!」
「…そっか。」
「まあ、最初はどうなるかと思いましたけど!」

寝てたらいきなり攫われたんですもん、と笑い半分のジト目でソウスケを見る。

「…ごめんごめん。寝てたから取りやすいかなと思ったんだよ。手頃な位置にある宝石がそれくらいだったし。」
「いきなり窓突き破ってくるし…」
「…一番慣れてるんだよ。」
「衛兵さんたちみんな倒しちゃうし。」
「…でも、殺してはいない。」
「なんてすごいことやってて、めっちゃ強いのにペンダントの外し方分かんなくて私ごと攫っちゃうし。」
「…それは想定外だった。」

ぼそぼそと弁解をするソウスケにふふ、と笑って星空を見上げる。

「ここは何もかもがめちゃくちゃです…!でも、私、お城での窮屈なマナーに縛られた食事なんかより、こっちの方が好きです…っ!」
「そりゃよかったね。美味しいものと巡り会えて。」
「……はい。そうですね!」

そう言うとアイは、いつの間にそんな食べていたのか、最後の一口を放り込んだ。