(なんなんだあの子は。
自分を攫った男に普通帰りたくないから面倒見ろなんて言うか?
つい暴力のぼの字も受けたことないような王女様にこれ以上やったら死んじゃいそうだなと思って許可しちゃったが…。)

悶々としながらアイを攫った青年、ソウスケは部屋を探し回る。

(んー、どこにあったけな…。あ、あった。)

お目当てのダンボールを手にくるりと方向転換をする。

アイはきちんと姿勢良く座って待っていて、明るいグレーの長い髪の毛はよく手入れがされていて床に綺麗に流れている。

(なんか、溢れ出る王族の上品さがやばい…)

でも小さくて痩せ型だからか、どこかあどけなく、ちょこんとしていて小動物のようにも見える。

アイはソウスケに気づき、こてんと首を傾げた。

「なんですか?それ。」
「クローゼット。」
「えっ…?」

その訝しげな言葉にソウスケは焦る。

(え?もしかしてクローゼット知らない感じ?あ、使用人が全部用意してくれるとか、そーゆーやつ!?)

ちなみに言うと、『そ、それが…?』と言ったアイの小さな呟きはソウスケには聞こえていない。

「あー、えっと、タンス?」
(って言えばわかるのか?)
「えーっと…あー、そ、それがですか…?」
「う、うん。えーと、確か下の方に…」

なんとか伝わったらしいことに安堵したソウスケは(クローゼットでもタンスでも同じ意味だとは思うのだが。アイはただダンボールをそう呼んでることにびっくりしてただけである。)ぐちゃぐちゃしたダンボールの中身をかき回し、青緑がかった黒の短パンを引っ張り出す。

「はい。これ。確か女物だから。」
「ありがとうございます。」

と、言ったはもののアイはソウスケの一言に引っかかる。数秒思考停止した後、ようやく頭が働きだす。

「……え?え、なんで持ってるんですか…!?」

何を言っているのか最初わからなかったソウスケだが、ドン引きしたトーンのアイからよくよく考えたら確かに正直キモいことに気づいた。

「い、いや、姉ちゃんがいたんだよ。それ姉ちゃんが着てたやつだから。」
「あー……。そういう…?」
「あれー、上がない。あー、返り血が落ちなくて捨てたんだっけ?….まあいっか。ごめん俺のだけど我慢して。」
「は、はい。」

しかしアイは服を受け取ったまま動かない。どうしたらいいのか分からないようにキョロキョロしている。

「ん?あ、あー……そうか、着替える場所ねーのか。……行くぞ。」
「はい!」

歩き出すソウスケにアイはとことことついていく。

「あー、そうだ俺、ソウスケ。お前は?」
「アイです!」
「ん。俺のこと呼び捨てでいいよ。敬語もいらない。」
「え、でも私、敬語以外で話したことなくて…。」
「マジで…?」


あまりに予想外の言葉に思わずソウスケの足が止まる。
そこにまさか止まるとは思ってなかったアイがぶつかる。

「うひゃっ…」

しかし気づいていないのか驚きすぎてそんなこと構ってられないのか、ソウスケはそのまま話し続ける。

「え、え?ほんとに言ってる?マジで?王族ってそんな厳しいの?友達とかは?兄弟も敬語なの?」
「は、はい…。」
「……そうなのか。じゃ、じゃあそのままでいいよ。……行こ。」
「はい。」