「くっそー、悔しー。」

ソウスケはヤエの言う通り、5分ほどで起き上がった。
2人は闘技場を出てまたあの広場に来ていた。空はすっかり日が暮れている。時間を見るともう午後7時頃だ。

ソウスケはベンチにどさっと座り、空を仰いだ。
アイは遠慮がちに隣に座る。

「…す、すみません。」
「は?なんでアイが謝ってんの?」
「私がいたから満足に練習できなかったんじゃないかと…。」
「そんなこと関係ねーよ。俺の力不足。」
「……。」

珍しく暗い雰囲気のソウスケに、アイはなんと声をかけたらいいのかわからなかった。しかしそんな沈黙をアイが図らずとも破ることになる。

ぐぅぅぅぅ…

「…っ!!」

アイはパッと頬を赤く染めた。ソウスケは横目でアイを見やるとむくっと立ち上がった。

「…昼飯の時間だな。行こ。」
「は、はい…。」


********

「わぁっ!!おっきいですね…っ!!これがラーメンですか…!?」
「んーまあこのラーメンはでかい種類のラーメン。」
「ラーメンにも種類があるんですね…!」

2人の前にドンと置かれているのは大盛りの二郎系ラーメン。
いかにも濃厚そうな豚骨スープに山盛りのもやし、ドンと乗ったチャーシューにたっぷりの脂とニンニク。

一見すればかなりのボリュームで麺も一般的な一人前の倍量。とてもじゃないがか細い14歳の女の子には食べれそうにない。
しかしアイはそのボリュームに臆することなく目をキラキラさせている。お箸を構えて準備万端だ。

「いただきまーっす!!」
「いただきまーす」

(なんか食べてばっかりだなぁとは思いますけど…お腹が空いてしまったんですからしょうがありません!)

アイは余計なことを考えるのをやめてラーメンに食いつく。
そして一口たっぷり食べてから目を細めて宙を仰いだ。

「んーっ!!美味しい〜っ!!」
「だな。」
「もうこれで元気出ました」
「それはそう」

(こってりしたスープにたっぷりのニンニクが罪悪感を掻き立てます…その背徳感こそジャンキーな食べ物のスパイスですよね〜っ!!麺はもちもち、野菜は歯応えが良くてお肉は分厚いのにも関わらず口の中でほろほろととろけていきます…なんて素敵なんでしょうこのラーメンは…!!)


2人は5分ほどで完食した。
食べきれないだろうなと不安げに見ていた店主も、あまりのスピードに仰天する。
呆気に取られているうちに2人はごちそうさまと言って店を出て行った。

「…あの2人、すごかったな。」

隣で見ていた常連客が店主に言った。こちらもまた、ものすごいスピードで大盛りラーメンが2人の口に吸い込まれていくのを呆然と見ていたのであった。

「…あぁ。でも、いい食べっぷりだった…。料理人冥利に尽きるよ。」
「それもそうだな。いつもおっさんがのんびり食ってるだけだもんなぁ?」
「そーゆーことじゃねーよ!」
「いやーそうだよな〜昔からどうせそんなふうに思ってたんだもんな〜?」
「だーかーらー」

2人はガハハと笑った。
最近は何を話せばいいのか掴めず、あまり言葉を交わしていなかった2人だが、アイ達のおかげでまた冗談を言い合えるようになったのであった。