夏休み最終日の午前10時。社会の宿題を終わらせた私は軽い足取りで階段を下りた。

「ぐぁぁぁ、もうやだよぉぉ」
「自分で撒いた種でしょ。ちゃんと刈り取りなさい」

 リビングのドアを開けると、楓がダイニングテーブルで宿題に奮闘していた。隣には母が座っており、熱心に教えている。

 勉強の邪魔にならないよう、こっそりとキッチンに忍び込む。

 おっ、キャラメル味発見。いただきまーすっ。

「あー! それ俺が狙ってたやつー!」

 棒アイスにかぶりつくやいなや、楓が大声で指を差してきた。

 くっ、見つかったか。もう少し奥で開けるべきだった。

「算数の宿題ですか。最終日なのに可哀想ですねぇ」
「うるせーな。そっちも終わってねーだろ」
「残念でしたー。もう全部終わってますぅー」
「はぁ⁉ 嘘だろ⁉ 毎年最終日の夜まで半泣きでやってたのに⁉」
「今年の私は一味違うんですよーだ」
「一花! 煽らないの!」

 案の定、母の怒号が飛んできた。けれど、今の私は無敵状態。ルンルン気分でアイスを完食してリビングを後にする。

 宿題、教えてあげないこともないんだけど、あいにく今日は予定があるんだ。

 部屋に戻り、ウォークインクローゼットに直行。1番下の引き出しから絵の具セットを引っ張り出す。

 最後に使ったのは、去年の夏休みだったっけ。
 凪くんと同じで、絵を描いてこいって、部活から宿題が出されてたから。だとすると、ちょうど1年経つのか。

 洗面所でバケツに水を汲み、サイドテーブルに置いた後、イーゼルを机の上に置いて絵を立てる。

 こんな素敵な絵に、私みたいな半人前が手を加えていいのかなと思った。

 だけど、凪くんの最後の望みは完成させること。時間がかかってでもやり遂げないと。

 パレットに青と白の絵の具を少量出し、水を加えながら混ぜる。

 砂浜に描いた夢は消えちゃったけど、この夢は叶えるから。何年かかるかは分からないけど、必ず叶えてみせるから。

 大丈夫。だって私は、パワフルな両親から生まれた超パワフルな人間なんだもん。

 完成したら、アイコンの絵と一緒に飾るね。

 心の中で彼に語りかけた後、真っ白い空に淡い青を乗せた。


END