朝食を済ませた日曜の朝。台所で食器を洗う祖母と伯母のお手伝いをする。
「おばあちゃん、これはどこに入れるの?」
「ん? あぁ、その大きい器なら1番下」
「ええ? 下? どこ?」
「奥。ちょっと見えづらいけど、同じのが重ねてあるから」
「あぁ! あったあった!」
棚の引き出しを全開にして、胸に抱えた大きめの器を1つずつ丁寧にしまう。
「この1週間、一花ちゃんには沢山お世話になったわね〜」
「お母さんが言った通り、百人力だったね」
流し台でお皿を洗ってはすすぐ2人。その後ろで顔をニヤニヤさせながら、作業台に積まれていくお皿を布巾で拭いて棚に戻す。
帰省してから、毎日のように感謝の言葉と褒め言葉をもらった。
それだけでも嬉しいのに、アイスをはじめ、大好物が大量に入ったオードブルまでも買ってくれた。
お手伝いする者の特権なのだろうけど、私にとって料理は大好きなことだから全然苦ではなかった。
大好きなことをして、大好きな物を食べることができて……この1週間、好きなものに囲まれて最高に幸せだったな。
「一花ちゃん、本当にありがとう。今日のお昼は特別に、一花ちゃんの食べたい物をごちそうしようかな」
「本当⁉ やったぁ!」
嬉しさのあまり、その場でピョンと小さく跳びはねた。
「甘々だねぇ。孫は目に入れても痛くないってやつか」
「ええ。何人入れても痛くないわよ。それより一花ちゃん、何食べたい?」
「んー……鶏肉がいいな!」
苦笑いする伯母をよそに話を進める私達。食べたい物は山ほどあるけれど、私だけ特別なら大好物が食べたい。
焼き鳥にしようか、唐揚げにしようか。他にも、照り焼きチキンとかフライドチキンもいいなぁ。
「鶏肉かぁ。それなら、隣町のレストランに行かない?」
脳内に鶏肉料理を浮かべていると、思いついたように祖母が口を開いた。
「隣町? 遠いなぁ。まさか私が送迎係やるの?」
「あらバレちゃった。でも香織にもお世話になったから特別にごちそうするわよ」
「そうこなくっちゃ。で、どこにあるの?」
「ショッピングモールの近く。6月にオープンしたばかりの新しいお店よ。今朝のチラシに、今月から新メニューでチキンステーキが登場したって書いてあったから、ピッタリだと思ってね」
「なるほど。じゃあおばあちゃんのお世話はお父さん達に任せるのね」
「何言ってるの、おばあちゃんも一緒に連れて行くわよ」
「ええっ⁉ 4人で行くの⁉」
「あんな男だらけの中で女1人は寂しいじゃない。今日で最後なんだし、思いっきり楽しみましょ! 題して、松川家の女子会!」
「いや、私もう松川じゃないんだけど……」
呆然とする私を置いて、どんどん話が展開されていく。
女子会やら、ひいおばあちゃんも連れて行くやら、気になるワードだらけ。
だけど、それよりも私がまず反応したのは……。
「あの、そのレストランには、何時頃に行く予定なの?」
「そうねぇ、オープンから2ヶ月経ってるけど、夏休みで多いと思うから……11時台かしら」
「お盆だもんね。それに今日は日曜だから、ランチタイムでも多そう。待ち時間も考えると、11時半には着いておきたいかな」
早急に鶏肉料理を消し去り、丸いアナログ時計を思い浮かべる。
ショッピングモールがある町の中心部までは、車でおよそ20分。11時半に到着だとすると、遅くても11時10分にはここを出発しないといけない。
「……あ、何か、予定あった?」
「……はい」
あからさまに沈む顔色を見た伯母が気まずそうに尋ねてきた。
今日の午前は、凪くんとの海水浴の予定がある。
時間は9時から11時で、昨日と同じ2時間。
ここから海まで何分かかるか計ったことがないから詳しい時間は分からないけど、この10分間で、帰宅とシャワーと着替えと準備は、さすがに無理がある。
仮に猛ダッシュしたとしても、信号に引っかからずスムーズに帰れたとしても、間に合う気がしない。
「でも、早めに帰ってくるので! みんなで行きましょう!」
だが、今日は帰省最終日。この日を逃せば、しばらく伯母にも祖母にも、曾祖母にも会えない。
それにチキンステーキなんて、最終日にはもってこいのごちそう。絵日記に描くのにピッタリ。
10分、いや5分ほど早く切り上げてもらえるようお願いすれば、ギリギリ間に合うかもしれない。
ごめんね。せっかく時間作ってくれたのに。
でも凪くんとは、夏休みが終わって友達にパスワードを聞くことができたら、いつでも連絡が取れるようになるから。
電話番号も交換したら、テレビ電話で話すことだってできるから。
「そう? なら、ひいおばあちゃんにも話しておくね。で、道は知ってるの?」
「大丈夫。チラシに住所書いてあったから。ナビは付いてるのよね?」
「もちろん。最初から付いてるわよ」
行くことが決まり、伯母と祖母はくるりと背を向けた。安堵すると同時に手を合わせる。
「おばあちゃん、これはどこに入れるの?」
「ん? あぁ、その大きい器なら1番下」
「ええ? 下? どこ?」
「奥。ちょっと見えづらいけど、同じのが重ねてあるから」
「あぁ! あったあった!」
棚の引き出しを全開にして、胸に抱えた大きめの器を1つずつ丁寧にしまう。
「この1週間、一花ちゃんには沢山お世話になったわね〜」
「お母さんが言った通り、百人力だったね」
流し台でお皿を洗ってはすすぐ2人。その後ろで顔をニヤニヤさせながら、作業台に積まれていくお皿を布巾で拭いて棚に戻す。
帰省してから、毎日のように感謝の言葉と褒め言葉をもらった。
それだけでも嬉しいのに、アイスをはじめ、大好物が大量に入ったオードブルまでも買ってくれた。
お手伝いする者の特権なのだろうけど、私にとって料理は大好きなことだから全然苦ではなかった。
大好きなことをして、大好きな物を食べることができて……この1週間、好きなものに囲まれて最高に幸せだったな。
「一花ちゃん、本当にありがとう。今日のお昼は特別に、一花ちゃんの食べたい物をごちそうしようかな」
「本当⁉ やったぁ!」
嬉しさのあまり、その場でピョンと小さく跳びはねた。
「甘々だねぇ。孫は目に入れても痛くないってやつか」
「ええ。何人入れても痛くないわよ。それより一花ちゃん、何食べたい?」
「んー……鶏肉がいいな!」
苦笑いする伯母をよそに話を進める私達。食べたい物は山ほどあるけれど、私だけ特別なら大好物が食べたい。
焼き鳥にしようか、唐揚げにしようか。他にも、照り焼きチキンとかフライドチキンもいいなぁ。
「鶏肉かぁ。それなら、隣町のレストランに行かない?」
脳内に鶏肉料理を浮かべていると、思いついたように祖母が口を開いた。
「隣町? 遠いなぁ。まさか私が送迎係やるの?」
「あらバレちゃった。でも香織にもお世話になったから特別にごちそうするわよ」
「そうこなくっちゃ。で、どこにあるの?」
「ショッピングモールの近く。6月にオープンしたばかりの新しいお店よ。今朝のチラシに、今月から新メニューでチキンステーキが登場したって書いてあったから、ピッタリだと思ってね」
「なるほど。じゃあおばあちゃんのお世話はお父さん達に任せるのね」
「何言ってるの、おばあちゃんも一緒に連れて行くわよ」
「ええっ⁉ 4人で行くの⁉」
「あんな男だらけの中で女1人は寂しいじゃない。今日で最後なんだし、思いっきり楽しみましょ! 題して、松川家の女子会!」
「いや、私もう松川じゃないんだけど……」
呆然とする私を置いて、どんどん話が展開されていく。
女子会やら、ひいおばあちゃんも連れて行くやら、気になるワードだらけ。
だけど、それよりも私がまず反応したのは……。
「あの、そのレストランには、何時頃に行く予定なの?」
「そうねぇ、オープンから2ヶ月経ってるけど、夏休みで多いと思うから……11時台かしら」
「お盆だもんね。それに今日は日曜だから、ランチタイムでも多そう。待ち時間も考えると、11時半には着いておきたいかな」
早急に鶏肉料理を消し去り、丸いアナログ時計を思い浮かべる。
ショッピングモールがある町の中心部までは、車でおよそ20分。11時半に到着だとすると、遅くても11時10分にはここを出発しないといけない。
「……あ、何か、予定あった?」
「……はい」
あからさまに沈む顔色を見た伯母が気まずそうに尋ねてきた。
今日の午前は、凪くんとの海水浴の予定がある。
時間は9時から11時で、昨日と同じ2時間。
ここから海まで何分かかるか計ったことがないから詳しい時間は分からないけど、この10分間で、帰宅とシャワーと着替えと準備は、さすがに無理がある。
仮に猛ダッシュしたとしても、信号に引っかからずスムーズに帰れたとしても、間に合う気がしない。
「でも、早めに帰ってくるので! みんなで行きましょう!」
だが、今日は帰省最終日。この日を逃せば、しばらく伯母にも祖母にも、曾祖母にも会えない。
それにチキンステーキなんて、最終日にはもってこいのごちそう。絵日記に描くのにピッタリ。
10分、いや5分ほど早く切り上げてもらえるようお願いすれば、ギリギリ間に合うかもしれない。
ごめんね。せっかく時間作ってくれたのに。
でも凪くんとは、夏休みが終わって友達にパスワードを聞くことができたら、いつでも連絡が取れるようになるから。
電話番号も交換したら、テレビ電話で話すことだってできるから。
「そう? なら、ひいおばあちゃんにも話しておくね。で、道は知ってるの?」
「大丈夫。チラシに住所書いてあったから。ナビは付いてるのよね?」
「もちろん。最初から付いてるわよ」
行くことが決まり、伯母と祖母はくるりと背を向けた。安堵すると同時に手を合わせる。