伯母の返答を聞き、再度智とアイコンタクト。2人で冷蔵庫の前に移動し、智が焼酎を取る隙に1番上の棚に置いてある白い袋を取った。
よし、まずは第1段階クリア。
「あのっ、洗い物なら、私達がやりましょうか?」
第2段階に進むため、流し台で食器を洗う祖母と伯母に声をかけた。
「あら、優しいねぇ。でも大丈夫よ」
「ええ。もうすぐ終わるし。ほら智、早く持ってってあげて」
やんわりと断られてしまった。
ううっ、どうしよう、これじゃ準備ができない……。
「なんだよ2人して。あのなぁ、俺らは叔父さんの相手をするのが大変だからこっちに来たんだよ」
すると、見かねた智が助け舟を出してくれた。
「持っていったらお酌を頼まれて、そしたらさらに酔いが回って、間違えてお酒勧めてきたらどうするの? 叔父さん、罪に問われちゃうよ?」
重い言葉を使って脅すように説得する智。
酔っ払っているとはいえ、さすがにお酒は勧めないとは思うけど……。
「おーい! まだかーい!」
ドアの向こうから催促する声が聞こえた。
やばい、痺れを切らしてる。これ以上待たせるともっとうるさくなるぞ。
「俺まだピチピチの高校生なのに、酔っぱらいの相手なんてしたくないよぉ〜」
「あぁもう分かったから! 分かったから静かにして」
泣き落とし攻撃が効いたのか、ようやく折れてくれた。良かった。これで準備に専念できる。
焼酎を伯母にバトンタッチ。台所を後にする2人を笑顔で見送った。
「ありがとう」
「別に。てか、なんかごめん。ちょっと言いすぎた」
「ううん。本当のことだし。じゃあ、早速始めますか!」
襖が閉まる音を確認して、急いで作業に取りかかる。
まずは食器棚に隠しておいた桃を取り、皮を剥いてザクザクと一口大に切っていく。お皿に盛りつけたら、次はメイン料理へ。
「白ゴマと醤油取って」
「ええー、どこ?」
「電子レンジの横」
豆腐の包装を剥ぎながら、洗い物を終えた智に指示を出す。
見て分かる通り、白寿と百寿祝いは、桃と豆腐料理。
何が好きかこっそり観察してたんだけど、野菜もお肉もまんべんなく食べていて。聞いたら、特に好き嫌いはないとのこと。
悩んだあげく、お年寄りでも食べやすい柔らかい物を贈ることにしたのだ。
テーマカラーにも合ってるし、我ながらいいチョイスだと思う。
お皿に出した豆腐の上にかき混ぜた納豆を乗せ、その上にネギと白ゴマ、醤油をトッピング。最後に祝のマークを書いた旗を挿した。
「よし! 完成!」
「おおー! 美味そう! あっ、この旗って、もしかしてひいばあちゃん?」
「うんっ」
この旗は手作り。特別感を出そうと思い、裏に似顔絵を描いたのだ。
おぼんに移し、絵日記用と記念用に写真撮影。スプーンとフォークを添えて居間へ向かう。
この系統の料理は初めて作ったんだよね。お口に合うといいな。
心の中でそう願い、智の後に続いて中に入る。
「ただいまー」
「おー! 智くん! おかえり!」
入って早々、1番に反応した父。智の背中越しに覗くと、赤らんだ顔が見えた。
うわぁ、めちゃめちゃ酔っぱらってる。久々に実家に帰ったからって気緩みすぎ。明日は二日酔い確定だな。
「……ん? なんか変な匂いがするぞ?」
苦笑いしていると、眉間にシワを寄せて鼻息を鳴らし始めた。
なんでこんな時に限って嗅覚が敏感になるんだよ。隣にいるジョニーよりもうるさいんですけど。
ざわつく中、隠し通すのは時間の問題だと感じ、腹をくくって前に出ることに。
「わぁ! 美味しそう!」
「あら! 一花ちゃんが作ったの?」
「おお、よくできてるねぇ」
「もしかして、変な匂いってそれか⁉」
部屋のあちこちから声が飛び交う。
肝心のひいおばあちゃんはというと……む、無反応……。だけど、私達を真っ直ぐ見据えている。
智と再度目配せし、旗に描いた絵を見せるようにおぼんを横に回す。
「ひいおばあちゃん、白寿と百寿、おめでとう……っ!」
深呼吸をした後、意を決して言い放った。
しかし……なぜか全員、目を丸くして固まっている。
サプライズだからビックリするのは当然なんだけど……いくらなんでも驚きすぎじゃない?
一瞬にして静寂に包まれた空気に困惑しつつも、奥にいる曾祖母の元へ。
「あの……改めて、白寿と百寿、おめで──」
「一花」
床に膝をついて言いかけたその時、私の声を遮るように誰かが名前を呼んだ。
「下げなさい」
声の主を探るように顔を動かすと、祖父の隣に座っている父と目が合った。
「えっ……なんで」
「いいから早く下げなさい」
耳をつんざくような声から一変した低い声。顔も、頬は赤らんでいるものの、陽気さは全くなく、目つきも鋭い。
その変貌ぶりは、ほんの数十秒前まで酔っぱらっていたとは思えないほど。
そんなに匂いきつかった……? だとしても、そこまで怒ること?
「…………だよ」
「えっ?」
「なんで黙ってんだよ‼」
よし、まずは第1段階クリア。
「あのっ、洗い物なら、私達がやりましょうか?」
第2段階に進むため、流し台で食器を洗う祖母と伯母に声をかけた。
「あら、優しいねぇ。でも大丈夫よ」
「ええ。もうすぐ終わるし。ほら智、早く持ってってあげて」
やんわりと断られてしまった。
ううっ、どうしよう、これじゃ準備ができない……。
「なんだよ2人して。あのなぁ、俺らは叔父さんの相手をするのが大変だからこっちに来たんだよ」
すると、見かねた智が助け舟を出してくれた。
「持っていったらお酌を頼まれて、そしたらさらに酔いが回って、間違えてお酒勧めてきたらどうするの? 叔父さん、罪に問われちゃうよ?」
重い言葉を使って脅すように説得する智。
酔っ払っているとはいえ、さすがにお酒は勧めないとは思うけど……。
「おーい! まだかーい!」
ドアの向こうから催促する声が聞こえた。
やばい、痺れを切らしてる。これ以上待たせるともっとうるさくなるぞ。
「俺まだピチピチの高校生なのに、酔っぱらいの相手なんてしたくないよぉ〜」
「あぁもう分かったから! 分かったから静かにして」
泣き落とし攻撃が効いたのか、ようやく折れてくれた。良かった。これで準備に専念できる。
焼酎を伯母にバトンタッチ。台所を後にする2人を笑顔で見送った。
「ありがとう」
「別に。てか、なんかごめん。ちょっと言いすぎた」
「ううん。本当のことだし。じゃあ、早速始めますか!」
襖が閉まる音を確認して、急いで作業に取りかかる。
まずは食器棚に隠しておいた桃を取り、皮を剥いてザクザクと一口大に切っていく。お皿に盛りつけたら、次はメイン料理へ。
「白ゴマと醤油取って」
「ええー、どこ?」
「電子レンジの横」
豆腐の包装を剥ぎながら、洗い物を終えた智に指示を出す。
見て分かる通り、白寿と百寿祝いは、桃と豆腐料理。
何が好きかこっそり観察してたんだけど、野菜もお肉もまんべんなく食べていて。聞いたら、特に好き嫌いはないとのこと。
悩んだあげく、お年寄りでも食べやすい柔らかい物を贈ることにしたのだ。
テーマカラーにも合ってるし、我ながらいいチョイスだと思う。
お皿に出した豆腐の上にかき混ぜた納豆を乗せ、その上にネギと白ゴマ、醤油をトッピング。最後に祝のマークを書いた旗を挿した。
「よし! 完成!」
「おおー! 美味そう! あっ、この旗って、もしかしてひいばあちゃん?」
「うんっ」
この旗は手作り。特別感を出そうと思い、裏に似顔絵を描いたのだ。
おぼんに移し、絵日記用と記念用に写真撮影。スプーンとフォークを添えて居間へ向かう。
この系統の料理は初めて作ったんだよね。お口に合うといいな。
心の中でそう願い、智の後に続いて中に入る。
「ただいまー」
「おー! 智くん! おかえり!」
入って早々、1番に反応した父。智の背中越しに覗くと、赤らんだ顔が見えた。
うわぁ、めちゃめちゃ酔っぱらってる。久々に実家に帰ったからって気緩みすぎ。明日は二日酔い確定だな。
「……ん? なんか変な匂いがするぞ?」
苦笑いしていると、眉間にシワを寄せて鼻息を鳴らし始めた。
なんでこんな時に限って嗅覚が敏感になるんだよ。隣にいるジョニーよりもうるさいんですけど。
ざわつく中、隠し通すのは時間の問題だと感じ、腹をくくって前に出ることに。
「わぁ! 美味しそう!」
「あら! 一花ちゃんが作ったの?」
「おお、よくできてるねぇ」
「もしかして、変な匂いってそれか⁉」
部屋のあちこちから声が飛び交う。
肝心のひいおばあちゃんはというと……む、無反応……。だけど、私達を真っ直ぐ見据えている。
智と再度目配せし、旗に描いた絵を見せるようにおぼんを横に回す。
「ひいおばあちゃん、白寿と百寿、おめでとう……っ!」
深呼吸をした後、意を決して言い放った。
しかし……なぜか全員、目を丸くして固まっている。
サプライズだからビックリするのは当然なんだけど……いくらなんでも驚きすぎじゃない?
一瞬にして静寂に包まれた空気に困惑しつつも、奥にいる曾祖母の元へ。
「あの……改めて、白寿と百寿、おめで──」
「一花」
床に膝をついて言いかけたその時、私の声を遮るように誰かが名前を呼んだ。
「下げなさい」
声の主を探るように顔を動かすと、祖父の隣に座っている父と目が合った。
「えっ……なんで」
「いいから早く下げなさい」
耳をつんざくような声から一変した低い声。顔も、頬は赤らんでいるものの、陽気さは全くなく、目つきも鋭い。
その変貌ぶりは、ほんの数十秒前まで酔っぱらっていたとは思えないほど。
そんなに匂いきつかった……? だとしても、そこまで怒ること?
「…………だよ」
「えっ?」
「なんで黙ってんだよ‼」