冗談半分で口にすると、視線を逸らしてあからさまに黙り込んだ。

「えっ……まさか図星?」
「……そうだよ。昔から、お小遣いは全部趣味につぎ込んでて。だから万年金欠」

 毎月お小遣い帳をつけて管理してるタイプかと思ってたら、万年だって⁉ 絵関連の本とか、画材を爆買いしてたとか? あれだけ沢山描くならすぐ切らしちゃいそうだし。

 凪くんの真面目で優等生なイメージが、この数時間でどんどん覆ってる。

 言い方は失礼だけど……見掛け倒しも遺伝するのかな。

 意外なギャップに驚きつつ歩くこと数分。食料品売り場に到着した。

「桃?」
「うん。せっかくなら、白寿のお祝いも一緒にしようかなって」

 青果売り場に向かい、桃を1つ手に取った。

 百寿も白寿も、数え年で祝うのが基本だけど、最近は満年齢で祝うのも増えているとのこと。

 それならどっちも重なるし、一緒にお祝いしちゃおうと思ったんだ。

 数分間吟味し、全体的に色が濃い物を選んだ。

「見つかって良かったね。他にも何か買うの?」
「うん。あとはね……」

 奥に進みながら隣を見ると、凪くんの視線が私ではなく桃に向いていた。

「凪、くん?」
「あ、ごめん。桃見てたら、犬に食べられたの思い出しちゃってさ」

 思わず足を止めて目を見開いた。

「い、犬に?」
「うん。他にも、バナナとメロンと、昨日はスイカも食べられちゃったんだよ」

 油断していたら、3つのうち2つを食い散らかされてしまったらしい。

 ジョニーも食いしん坊なほうではあるけど、人の物を盗るほどがめつくはない。相当食い意地が張ってるんだなぁ……。

「災難だったね……。しつけはされてるの?」
「多分。ひいじいちゃんとばあちゃんの言うことは聞いてるから。でも、時々くっついてくる時もあるんだよ」

 笑顔を見せているが、瞳は切なさの色が抜けていない。

 ……多分それ、ナメられてるか、単にツンデレかのどっちかだと思うよ。教えてあげたいけど、ショック受けちゃうかな。

「明日から俺1人で面倒見なきゃいけないから、ちょっと心配なんだよね」
「えっ、おばあさん達いないの?」
「うん。旅行に行くんだって」

 どうやら数日間、お盆期間を利用した旅行に行くという。

 話を聞く限り、問題児はその子だけで、他の2匹は大丈夫みたい。だとしても、1人で3匹のお世話は大変そう。

 調べたら、柴犬もスピッツと同じく中型犬。例えるなら、シロくんが3匹いるようなもの。お散歩するだけで疲れそう……。

「なら、明日会うの、難しいかな?」
「大丈夫。お留守番はできるみたいだからいつも通り会えるよ。水着買ったなら、海水浴でもする?」
「本当? やった!」

 小さな声で小さくガッツポーズ。

 2人で海水浴。水着姿を拝めるのかぁ。って、私ったら何を考えてるんだ。本人がいる前で妄想を繰り広げるんじゃないよ!

「あれ? 一花?」

 すると、後ろで今1番会いたくなかった人物の声が聞こえた。

「なんだ、お前もここにいたんだ。買い物?」
「まぁ、ね」
「ふーん。今ちょうど母さんもあっちで買い物してるから、終わったら来いよ」
「う、うんっ」

 去っていく背中を眺めながら、安堵の溜め息をつく。

「もう大丈夫だよ」

 呼びかけると、積み上げられたトイレットペーパーの陰から凪くんがひょこっと顔を出した。

「バレなかった?」
「ギリギリセーフ」

 危なかった。あのまま先に進んでたら確実に見つかってた。ありがとう、フルーツ大好きながめついワンちゃん。

「良かった。人も多くなってきたし、この辺で解散する? 伯母さんが買い物してるなら、もうすぐ帰る時間だろうし」
「うん、そうする」

 名残惜しいが、智がここにいるのなら、父も来ている可能性は充分ある。これ以上行動を共にするのは危ない。

 提案を呑み、予定より少し早めに解散した。