早速気づいてくれて、嬉しさで心と声が弾む。

 今までは後ろで1つに結んでいたけれど、今日は町に行くということで、頭部を編み込んだ耳下ツインテールに挑戦した。30分以上かけて作ったかいがあった。

「どうかな? おかしくない?」
「大丈夫。可愛くできてるよ。似合ってる」

 ど直球な褒め言葉が飛んできて、顔がボンと熱くなる。

 ……本当、慣れてるよね。っていうか、可愛いのは髪型と言われたのに。私ってば単純すぎでしょ。

「ありがとう。凪くんも似合ってるよ。それ、アロハシャツだよね?」
「うん。これ、ひいじいちゃんの服なんだ。若い頃にひいばあちゃんとのデートに着てたんだって」

 話によると、恐らく60年以上前の物なのだそう。

 だとしたら……西暦50年代から60年代。昭和だと30年代くらい? 少し年季が入ってるなとは感じたけど、半世紀以上も前の物だったなんて。

「綺麗に残っててビックリした。きっと大切にしまってたんだね」
「ありがとう。ひいじいちゃんに伝えとく」

 安堵した様子で顔をほころばせた凪くん。自分の一張羅を貸すって、ひ孫思いだなぁ。

「凪くんのところって、ひいおじいちゃん以外にも誰かいるの?」
「おばあちゃんがいるよ。2人とも顔は似てないんだけど、性格がそっくりで。この服も、体格が違うから似合わないって言ったのに、ごり押ししてきてさ。圧に負けて着てきちゃった」

 苦笑いしているけれど、なんだか嬉しそう。

「そうなんだ。お元気だね。やっぱり、普段から運動とかしてるの?」
「犬の散歩くらいじゃないかな。ひいじいちゃんは若い頃鍛えてみたいだけど」
「あ、だから体格が違うって?」
「そうそう。逆三角形で、おまけに顔も美形ですごくかっこよかったんだって。ただ、壊滅的な機械音痴だったから、見掛け倒しって言われてたみたい」

 か、壊滅的な機械音痴……一体どれくらいなんだろう? パソコンの使い方が分からないとか? デジタル社会の時代に生まれた私にはちょっと想像がつかないや。

 一通り回り、秋服もチェックしたところで、今度は水着売り場へ足を運ぶ。

 昨夜、毎日の手伝いのお礼にと、祖父母がお小遣いをくれて。海で遊ぶために水着を買うことにしたのだ。

 来週の月曜日には帰るから、その前に夏を楽しもうと思ってね!

「ねぇねぇ、ワンピースタイプとセパレートタイプ、どっちがいいかな?」
「んー、好きなほうでいいと思うよ」
「えーっ。っていうか、なんで隠れてるの?」

 赤色とオレンジ色の水着を手に持ち、試着室の陰に身を隠している凪くんに尋ねた。

「もしかして恥ずかしい?」
「……そういう一花ちゃんこそ、選んでるところ見られるの、嫌じゃないの?」

 私の質問には答えず、質問で返された。

 別に、下着じゃないからそこまで恥ずかしくはないんだけど……。

 チラッと目を動かして売り場を見渡す。
 男子目線だと、露出が高いビキニ類は下着に見えちゃうのか。

「全然。それより、どっちがいいか選んで」
「えー、言っても別のやつ選ぶんじゃない?」
「そんなの、言われてみなきゃ分からないよ。お願いっ。男子の意見が知りたいの」

 手を合わせて懇願すると、凪くんは呆れた様子で溜め息をついた。

「……オレンジ色のやつ」

 周辺が静かでなきゃ、1回で聞き取れないほどの小さな返事。セパレートかぁ……。

「ほらやっぱり。その顔だと赤いのが好きなんでしょ?」
「う、だってぇ……」

 凪くんの言った通り、本当は最初から決まっていた。けど、セパレートタイプの水着も可愛いなと思ったのも事実。

 ワンピースタイプを選んだのは、セパレートよりも体型カバーができそうだったから。

 そう伝えると、再び溜め息をつかれた。

「カバーって……全然太ってないのに?」
「それは、服で隠してるからだよ」

 入学から4ヶ月。容赦ない宿題とテストのせいでストレスが倍増し、毎日三食爆食するように。

 その結果、上半身に肉が付き、入学時は余裕だったスカートが、アジャスターを最大に緩めないと穿けなくなってしまった。

 成長期に無理なダイエットが厳禁なのは分かってるんだけど……せめて冬が来る前には、お腹の肉だけでも落としたい。

 理由は、ブレザーの色が白だから。膨張色なので、太ると余計大きく見えてしまう。

 お父さんに似て身長高めだし、ひいおじいちゃんに似て目鼻立ちもハッキリしてるし。

 このままだと、『厳ついホッキョクグマ』とか、『三段腹の雪だるま』って馬鹿にされるかもしれない。もしそうなったら、進学校の威厳がなくなっちゃう。

「お客様、良かったらご試着してみますか?」
「あっ、いいんですか?」

 制服姿のお姉さんに声をかけられた瞬間、凪くんは踵を返して奥のタオル売り場へ。

 あっ、逃げたな⁉ もうっ、まだ意見全部聞いてないのにぃ。

 早足で去っていく後ろ姿を睨みつけて、試着室に入ったのだった。