再び図星を突かれ、静かに頷く。
一花を振り回したくない。けど……真実を伝えないまま終わるのも嫌だ。
「それなら、自分の心の準備ができた時にしなさい。話し手が不安定だと、相手にも伝わってしまうからね」
「……うん。ありがとう」
さすがだな。人生経験豊富なだけあって、説得力がある。
ひいじいちゃんの言う通り、話し方が曖昧だと、相手も趣旨が何なのか理解しにくい。パスワードの話も、どう誤魔化そうかと考えてたら、疑いの目で見られちゃったし。
それも更新ができない理由ではあるけれど、包み隠さず話したい。
……時間は、待ってくれないから。
後悔しないためにも、一花の帰る日が来る前に腹をくくろう。
「あ、そうだ。明日、その子の宿題の手伝いで一緒に出かけることになったんだけど……」
「そうなのか⁉ なら、ひいじいちゃんの服を着ていきなさい! ちょうどいいのがあるんだよ」
そそくさと立ち上がり、早足で部屋に戻っていった。
服……? 別に、何着たらいいかの相談じゃなくて、ただ事前に伝えておこうと思っただけなんだけど……。
「凪くん、そろそろお散歩に行くよ」
閉まった障子を見ていると、犬3匹を連れた祖母がやってきた。
もうそんな時間か。まだ全部食べてないけど、帰ってからでいっか。
「凪くん! これだよ~!」
「あ、お父さん。ってあー! それ!」
戻ってきた曾祖父を見た途端、祖母が指を差して激しく反応した。
「懐かしい〜! 私が子どもの頃、お母さんとのデートに着てたやつでしょ?」
「そうそう! 明日凪くんが女の子と出かけるみたいだから、貸そうと思ってな!」
「えっ! 女の子と⁉」
白いアロハシャツに向いていた視線が自分に向く。
「誰⁉ 年上⁉ 年下⁉ おばあちゃんの知ってる子⁉」
「知らない子だよっ! あと、勝手に女の子って決めつけないでくれる⁉」
「ありゃ、ごめんねぇ。男の子だったかい?」
「……女の子だけど」
「やだぁ! やっぱりデートじゃない!」
「違うよ! 宿題の手伝いをするだけ!」
反論するも、「照れなくていいのに〜」と聞く耳なし。顔は似てないのに、瞳の煌めき度と興奮度は親子そっくり。
恋バナでテンションが上がるのは分かるけどさ、俺、高校生だから! 思春期の繊細な心を刺激するのやめてくれます⁉
「ほれ! せっかくだから着てみなさい!」
「いや、いいよっ」
年季が入った大きめの白いアロハシャツを、首と手を横に振って受け取り拒否をする。
「そんな遠慮せんで! 最近は、おーばーさいずが流行っとるんだろう?」
「そうだけど……俺とひいじいちゃんじゃ体格違うから似合わないって。あと、時代遅れじゃない?」
今は痩せている曾祖父だけど、若い頃はがっしりしていて、祖母が言うには逆三角形の体型だったんだとか。
対する自分は、肩幅はそこそこあるものの、周りが見惚れるほどの立派な上半身ではない。
それに、祖母の子供時代だと60年以上も前。
流行は巡り巡るって言うけど、時代に合わせてデザインも変化してると思うし……。
「大丈夫よ! 今時こういうの、昭和レトロって言われてるみたいだから! 渋い男を演出できるわよ〜!」
「えええ……」
渋い男って、俺まだ10代なのに……。
それより、なんでそんなに詳しいの? スマホならまだしも、ガラケーで、ネット環境もあまり整っていない田舎町で。一体どこから情報仕入れてるんだ?
「時代遅れが気になるなら、それこそ流行り物を合わせるといいんじゃないか? 例えば、袴みたいなズボンとか!」
「いいわね! 最近のテレビで若い人がよく履いてるし!」
……なるほど。袴似のズボンは、ワイドパンツのことかな。毎日朝昼晩、情報番組を観てるから、そこで仕入れてるのかも。
苦笑いで2人を眺めていると、両膝の上に何かがズシッとのしかかった。
「あー! 俺のスイカ!」
目を向けてみたら、赤柴系雑種のポチがスイカにかぶりついていた。
「こら! ポチっ! ごめんね凪くん! おばあちゃんがちゃんと見てなかっただけに……」
「ううん、大丈夫」
強がってみせたけど、お皿の上は赤い破片と黒い種が散らばってぐちゃぐちゃ。無傷だったのは、手前に置いていた食べかけのスイカのみ。残りの2つはかじられてしまった。
「凪くん、ひいじいちゃんのを1個あげるよ」
「ありがとう。後でもらうね」
曾祖父に返事をし、お皿を持って台所に移動する。
こっちに来て約3週間。毎日散歩に行ってるのに、あの子だけは未だに接し方が分からない。
呼んでも来ない、近づいたら逃げる、触ろうとすると歯を剥き出しにして唸る。こんなに拒絶されたら、大抵は嫌われてるんだなと思うだろう。
だけど、他の子を可愛がってると間に割り込んできたり、足元に体をくっつけてきたり。嫌ってるのか、仲良くしたいのか、心が読めない。
この調子で明後日から上手くやっていけるか心配だな……。
お皿を片づけた後、駐車場に向かい、待ちくたびれて機嫌を損ねた彼らを宥めたのだった。
一花を振り回したくない。けど……真実を伝えないまま終わるのも嫌だ。
「それなら、自分の心の準備ができた時にしなさい。話し手が不安定だと、相手にも伝わってしまうからね」
「……うん。ありがとう」
さすがだな。人生経験豊富なだけあって、説得力がある。
ひいじいちゃんの言う通り、話し方が曖昧だと、相手も趣旨が何なのか理解しにくい。パスワードの話も、どう誤魔化そうかと考えてたら、疑いの目で見られちゃったし。
それも更新ができない理由ではあるけれど、包み隠さず話したい。
……時間は、待ってくれないから。
後悔しないためにも、一花の帰る日が来る前に腹をくくろう。
「あ、そうだ。明日、その子の宿題の手伝いで一緒に出かけることになったんだけど……」
「そうなのか⁉ なら、ひいじいちゃんの服を着ていきなさい! ちょうどいいのがあるんだよ」
そそくさと立ち上がり、早足で部屋に戻っていった。
服……? 別に、何着たらいいかの相談じゃなくて、ただ事前に伝えておこうと思っただけなんだけど……。
「凪くん、そろそろお散歩に行くよ」
閉まった障子を見ていると、犬3匹を連れた祖母がやってきた。
もうそんな時間か。まだ全部食べてないけど、帰ってからでいっか。
「凪くん! これだよ~!」
「あ、お父さん。ってあー! それ!」
戻ってきた曾祖父を見た途端、祖母が指を差して激しく反応した。
「懐かしい〜! 私が子どもの頃、お母さんとのデートに着てたやつでしょ?」
「そうそう! 明日凪くんが女の子と出かけるみたいだから、貸そうと思ってな!」
「えっ! 女の子と⁉」
白いアロハシャツに向いていた視線が自分に向く。
「誰⁉ 年上⁉ 年下⁉ おばあちゃんの知ってる子⁉」
「知らない子だよっ! あと、勝手に女の子って決めつけないでくれる⁉」
「ありゃ、ごめんねぇ。男の子だったかい?」
「……女の子だけど」
「やだぁ! やっぱりデートじゃない!」
「違うよ! 宿題の手伝いをするだけ!」
反論するも、「照れなくていいのに〜」と聞く耳なし。顔は似てないのに、瞳の煌めき度と興奮度は親子そっくり。
恋バナでテンションが上がるのは分かるけどさ、俺、高校生だから! 思春期の繊細な心を刺激するのやめてくれます⁉
「ほれ! せっかくだから着てみなさい!」
「いや、いいよっ」
年季が入った大きめの白いアロハシャツを、首と手を横に振って受け取り拒否をする。
「そんな遠慮せんで! 最近は、おーばーさいずが流行っとるんだろう?」
「そうだけど……俺とひいじいちゃんじゃ体格違うから似合わないって。あと、時代遅れじゃない?」
今は痩せている曾祖父だけど、若い頃はがっしりしていて、祖母が言うには逆三角形の体型だったんだとか。
対する自分は、肩幅はそこそこあるものの、周りが見惚れるほどの立派な上半身ではない。
それに、祖母の子供時代だと60年以上も前。
流行は巡り巡るって言うけど、時代に合わせてデザインも変化してると思うし……。
「大丈夫よ! 今時こういうの、昭和レトロって言われてるみたいだから! 渋い男を演出できるわよ〜!」
「えええ……」
渋い男って、俺まだ10代なのに……。
それより、なんでそんなに詳しいの? スマホならまだしも、ガラケーで、ネット環境もあまり整っていない田舎町で。一体どこから情報仕入れてるんだ?
「時代遅れが気になるなら、それこそ流行り物を合わせるといいんじゃないか? 例えば、袴みたいなズボンとか!」
「いいわね! 最近のテレビで若い人がよく履いてるし!」
……なるほど。袴似のズボンは、ワイドパンツのことかな。毎日朝昼晩、情報番組を観てるから、そこで仕入れてるのかも。
苦笑いで2人を眺めていると、両膝の上に何かがズシッとのしかかった。
「あー! 俺のスイカ!」
目を向けてみたら、赤柴系雑種のポチがスイカにかぶりついていた。
「こら! ポチっ! ごめんね凪くん! おばあちゃんがちゃんと見てなかっただけに……」
「ううん、大丈夫」
強がってみせたけど、お皿の上は赤い破片と黒い種が散らばってぐちゃぐちゃ。無傷だったのは、手前に置いていた食べかけのスイカのみ。残りの2つはかじられてしまった。
「凪くん、ひいじいちゃんのを1個あげるよ」
「ありがとう。後でもらうね」
曾祖父に返事をし、お皿を持って台所に移動する。
こっちに来て約3週間。毎日散歩に行ってるのに、あの子だけは未だに接し方が分からない。
呼んでも来ない、近づいたら逃げる、触ろうとすると歯を剥き出しにして唸る。こんなに拒絶されたら、大抵は嫌われてるんだなと思うだろう。
だけど、他の子を可愛がってると間に割り込んできたり、足元に体をくっつけてきたり。嫌ってるのか、仲良くしたいのか、心が読めない。
この調子で明後日から上手くやっていけるか心配だな……。
お皿を片づけた後、駐車場に向かい、待ちくたびれて機嫌を損ねた彼らを宥めたのだった。