言い終わる前に智の脇腹を肘で突いた。
本当、こいつときたら……。もう1回彼女と喧嘩してしこたま怒られろっ。
「18で結婚かぁ。写真ある?」
「あるよ。ちょっと待っててね」
祖父が席を立ち、写真を取りに隣の客間に入っていった。
「ビックリよね。おじいちゃんとは同い年なのに、親は私のほうが10個も上だったのよ」
「10個も⁉」
口を開いた祖母に激しく反応した。
そう、だよね。10代で結婚したなら、母親になるのも早いはずだ。彼氏がいたことがない私には、結婚も出産もまだ想像できないや。
「持ってきたよ〜」
襖が開いて祖父が戻ってきた。
「金婚式の写真と、ウェディングドレスの写真だよ」
テーブルに置かれた写真を食い入るように見る。
花柄のワンピースを着て座る曾祖母の隣に、スーツ姿の曾祖父が微笑んで寄り添っていた。
もう1枚は、純白のドレスと真っ白なタキシードに身を包んでいて、金婚式の時よりも満面の笑顔を浮かべている。
誰が見ても幸せそのもの。隣で写真を見てる曾祖母もなんだか嬉しそう。
「次が銀婚式。そして最後が、結婚当初の写真だよ」
今度はファイルから2枚の写真が出てきた。
それらがテーブルに置かれた瞬間、目を大きく見開いた。
銀婚式も結婚当初も、どちらも白黒写真。そして若い。
しかし、私が驚いたのはそこではなく──。
「うっわ! めちゃめちゃ一花そっくり!」
「本当! 目元がまんま!」
先に伯母と智が声を上げた。
着物姿の曾祖母の隣に立つ、軍服姿の曾祖父。
私の男バージョンといっても過言ではないくらい、顔が瓜二つだったのだ。
「おお、確かにこう見るとすごく似てるなぁ」
「そうね。これは間違えるのも無理ないわね」
祖父母も写真を眺めては納得したように頷いている。
そっか。私の顔は父親似でも母親似でもなく、身内公認の曾祖父似だったのか……。
撮影時の話を聞いていると、壁掛け時計がポーンと鳴り、あっという間に正午に。祖母と伯母と一緒に台所へ向かい、昼食の準備に取りかかる。
「今まで誤魔化してきてごめんね」
白ご飯を茶碗によそっていると、祖母が謝ってきた。
「ううん。もしかして、話が長くなるからダメだったの?」
「ええ。『惚気話が始まるから絶対聞くな』って、結婚前に口酸っぱく言われたくらい。だけど……」
祖母の視線をたどると、伯母とパチッと目が合った。
「おばちゃんも同じように言われてたんだけど、気になってね。気づいたら2時間経ってた」
てへへとお茶目な笑顔を見せた伯母。
映画1本分も話してたの⁉ それなら禁句になってもおかしくないか……。最愛の夫に似てるのならますます話が弾みそうだし。謎が解けてスッキリした。
ただ……正直な気持ち、上品なひいおばあちゃんに似たかったな。
◇
昼食を終えて宿題に没頭すること数時間。切りのいいところで中断し、海へ向かった。
「凪くーん!」
昨日と同じ場所に立って海を眺めている彼を見つけ、思いきり手を振る。
曇りだからか日傘なし。横顔を見た途端すぐ分かった。
彼の元に駆け寄り、砂浜に腰を下ろす。
「あっ、持ってきてくれたんだ」
「えへへ。ちょっと待ってね」
リュックサックから絵日記を取り出し、下半分を下敷きで隠して彼に見せた。
見られてまずいことは書いてないのだが、読まれるのは恥ずかしいので一応隠す。
「これが夜の海で、こっちが、朝と昼と夕方の海!」
「おお〜っ。初日から盛り沢山だね。特に昨日の絵、グラデーションになっててすごく綺麗」
嬉しそうな横顔をニヤケ顔で眺める。
推しが笑顔で私の絵を見てる……! しかも褒め言葉まで! ありがたや、ありがたや……。
心の中で拝みつつ、最後に描きたてホヤホヤの絵を見せた。
「ジョニーと、お友達のシロくんです!」
「わぁ、可愛い」
頬を緩める凪くん。帰り際にお願いして写真を撮らせてもらったのだ。
「と……これは?」
細長い指が隣の絵を指差した。
むむむ、ざっくりすぎたかな。何これって顔してる。
「この人はひいおばあちゃん。昔話をしてたら写真を見せてくれたの」
描いたのは、結婚当初の写真を眺める曾祖母。お昼ご飯を食べた後もずっと見てて、スケッチさせてもらったのだ。
「なるほど。だから軍服なんだ」
「うん。この時のひいおじいちゃん、今の私と目元がすごく似てたんだよ!」
「マジ? 珍しいね。ってことは、凛々しいイケメンさんだったのか〜」
それは……間接的に私のことも褒めてる? 凛々しいっていったら、しっかりしてそうなイメージだし。まぁ、所詮見掛け倒しなんだけど。
「凪くんは誰に似てるって言われる?」
「おばあちゃんかな。俺も一花ちゃんと同じで、結婚式の写真見せてもらって。そっくりって言われた」
ほほぉ。だとしたら、品が漂う落ち着きのあるお嬢さんって感じなのかな? いつかのDMで、小さい頃は女の子に間違われてたって言ってたし。
本当、こいつときたら……。もう1回彼女と喧嘩してしこたま怒られろっ。
「18で結婚かぁ。写真ある?」
「あるよ。ちょっと待っててね」
祖父が席を立ち、写真を取りに隣の客間に入っていった。
「ビックリよね。おじいちゃんとは同い年なのに、親は私のほうが10個も上だったのよ」
「10個も⁉」
口を開いた祖母に激しく反応した。
そう、だよね。10代で結婚したなら、母親になるのも早いはずだ。彼氏がいたことがない私には、結婚も出産もまだ想像できないや。
「持ってきたよ〜」
襖が開いて祖父が戻ってきた。
「金婚式の写真と、ウェディングドレスの写真だよ」
テーブルに置かれた写真を食い入るように見る。
花柄のワンピースを着て座る曾祖母の隣に、スーツ姿の曾祖父が微笑んで寄り添っていた。
もう1枚は、純白のドレスと真っ白なタキシードに身を包んでいて、金婚式の時よりも満面の笑顔を浮かべている。
誰が見ても幸せそのもの。隣で写真を見てる曾祖母もなんだか嬉しそう。
「次が銀婚式。そして最後が、結婚当初の写真だよ」
今度はファイルから2枚の写真が出てきた。
それらがテーブルに置かれた瞬間、目を大きく見開いた。
銀婚式も結婚当初も、どちらも白黒写真。そして若い。
しかし、私が驚いたのはそこではなく──。
「うっわ! めちゃめちゃ一花そっくり!」
「本当! 目元がまんま!」
先に伯母と智が声を上げた。
着物姿の曾祖母の隣に立つ、軍服姿の曾祖父。
私の男バージョンといっても過言ではないくらい、顔が瓜二つだったのだ。
「おお、確かにこう見るとすごく似てるなぁ」
「そうね。これは間違えるのも無理ないわね」
祖父母も写真を眺めては納得したように頷いている。
そっか。私の顔は父親似でも母親似でもなく、身内公認の曾祖父似だったのか……。
撮影時の話を聞いていると、壁掛け時計がポーンと鳴り、あっという間に正午に。祖母と伯母と一緒に台所へ向かい、昼食の準備に取りかかる。
「今まで誤魔化してきてごめんね」
白ご飯を茶碗によそっていると、祖母が謝ってきた。
「ううん。もしかして、話が長くなるからダメだったの?」
「ええ。『惚気話が始まるから絶対聞くな』って、結婚前に口酸っぱく言われたくらい。だけど……」
祖母の視線をたどると、伯母とパチッと目が合った。
「おばちゃんも同じように言われてたんだけど、気になってね。気づいたら2時間経ってた」
てへへとお茶目な笑顔を見せた伯母。
映画1本分も話してたの⁉ それなら禁句になってもおかしくないか……。最愛の夫に似てるのならますます話が弾みそうだし。謎が解けてスッキリした。
ただ……正直な気持ち、上品なひいおばあちゃんに似たかったな。
◇
昼食を終えて宿題に没頭すること数時間。切りのいいところで中断し、海へ向かった。
「凪くーん!」
昨日と同じ場所に立って海を眺めている彼を見つけ、思いきり手を振る。
曇りだからか日傘なし。横顔を見た途端すぐ分かった。
彼の元に駆け寄り、砂浜に腰を下ろす。
「あっ、持ってきてくれたんだ」
「えへへ。ちょっと待ってね」
リュックサックから絵日記を取り出し、下半分を下敷きで隠して彼に見せた。
見られてまずいことは書いてないのだが、読まれるのは恥ずかしいので一応隠す。
「これが夜の海で、こっちが、朝と昼と夕方の海!」
「おお〜っ。初日から盛り沢山だね。特に昨日の絵、グラデーションになっててすごく綺麗」
嬉しそうな横顔をニヤケ顔で眺める。
推しが笑顔で私の絵を見てる……! しかも褒め言葉まで! ありがたや、ありがたや……。
心の中で拝みつつ、最後に描きたてホヤホヤの絵を見せた。
「ジョニーと、お友達のシロくんです!」
「わぁ、可愛い」
頬を緩める凪くん。帰り際にお願いして写真を撮らせてもらったのだ。
「と……これは?」
細長い指が隣の絵を指差した。
むむむ、ざっくりすぎたかな。何これって顔してる。
「この人はひいおばあちゃん。昔話をしてたら写真を見せてくれたの」
描いたのは、結婚当初の写真を眺める曾祖母。お昼ご飯を食べた後もずっと見てて、スケッチさせてもらったのだ。
「なるほど。だから軍服なんだ」
「うん。この時のひいおじいちゃん、今の私と目元がすごく似てたんだよ!」
「マジ? 珍しいね。ってことは、凛々しいイケメンさんだったのか〜」
それは……間接的に私のことも褒めてる? 凛々しいっていったら、しっかりしてそうなイメージだし。まぁ、所詮見掛け倒しなんだけど。
「凪くんは誰に似てるって言われる?」
「おばあちゃんかな。俺も一花ちゃんと同じで、結婚式の写真見せてもらって。そっくりって言われた」
ほほぉ。だとしたら、品が漂う落ち着きのあるお嬢さんって感じなのかな? いつかのDMで、小さい頃は女の子に間違われてたって言ってたし。