推しとの再会から一夜明けた朝。
「ジョニー、待てだよ。……よし!」
「おおーっ! すごーい!」
午前5時台の薄暗い駐車場で、鼻の上に置いたおやつをパクッと食べたジョニーに拍手した。
「はははっ。他にも、こうやって、頭にも乗せられるよ」
「わー! サーカスの人みたい!」
今度は頭の上にボールを乗せた。滑り落ちそうな真ん丸のボールだけど、じっとしてバランスを取っている。その姿が可愛くて、1枚写真を撮った。
「それにしても、智くんはまだかねぇ」
祖父と一緒に玄関の扉を眺める。
毎朝恒例のジョニーの散歩。今回から智も参加することになったのだ。ただ、家を出る直前にトイレに行ったので、今遊びながら待っている。
昨日たくさんご飯食べてたし、出すのに時間かかってるのかな。
苦笑しながらジョニーを撫でていると、道路のほうから誰かが歩いてくる足音が聞こえた。
「おや! 松川さん!」
「おお! 高山さん!」
振り向いた先にいたのは、祖父と同世代くらいのおじいさん。
「久しぶりですね〜。シロくんのお散歩ですか?」
「ええ。今日は曇ってるので、久しぶりに出かけようと思いまして」
その彼の足元に、柴犬に似た白いワンちゃんが1匹。会話からすると男の子のようだ。
「あらら、見かけないお顔が。もしかしてお孫さん?」
「ええ。夏休みなので帰省してるんですよ」
「そうでしたか。はじめまして、高山といいます。こっちはシロです」
「は、はじめましてっ、一花といいます」
祖父の後ろから顔を出し、たどたどしく自己紹介した。頭を下げたついでにシロくんのお顔を拝見する。
垂れ耳のジョニーとは違い、三角形の立ち耳。尻尾はお尻に向かってくるんと巻き上がっている。
すごく可愛いけど、ネーミングセンスが……。そのまますぎて思わず笑いそうになっちゃったよ。
久々の再会に話に花を咲かせる2人。一緒に散歩はどうかと誘われたのだが、まだ智が来てなかったので残念ながら断った。
「可愛かったね。ジョニーとも仲良しだったし。犬友達?」
「はははっ。仲良しではあるが、6個上だからねぇ。先輩と言ったほうがいいかな」
彼らを見送り、駐車場に戻る。
6個上なら13歳か。人間に例えると小1と中1。友達より先輩のほうがしっくりくる。
「犬の先輩かぁ。一緒に遊んだりしたの?」
「そうだねぇ、ジョニーが若い頃は毎月遊んでたよ」
懐かしそうに目を細めた祖父。
犬の寿命は人間より短い。年を取るにつれて遊ぶ頻度が減るなら、顔を合わせる機会も減るか。
「あ、そうそう、昨日話したお兄さん、この辺に住んでるんだって」
「おや、そうなのかい?」
「うん。海に行った時に偶然会ったの」
犬のことを考えたからか、凪くんの顔が思い浮かんだ。ただ、田舎は話がすぐ広まると聞いたので、名前は伏せておいた。休暇の邪魔はしたくないからね。
「それで、その人のお家も犬を飼ってて、日本スピッツって子がいるんだって」
「スピッツ⁉」
犬種を口にした途端、目が真ん丸に。
「知ってるの?」
「もちろん! おじいちゃんが子供の頃にすごく人気だったんだよ。雪みたいに真っ白でふわふわしてて、目はクリクリで可愛かったなぁ」
再び目を細めて懐かしんでいる。世代ドンピシャだったみたい。
「家族みんな動物大好きだったから、何度もおねだりしてねぇ」
「へぇ、それで飼えたの?」
「あぁ。弟が生まれた後にお迎えしたよ。無駄吠えが多いと聞いてたから、静かな子になりますようにと名付けて……」
静かな子……そして雪みたいに真っ白……。
「もしかして、シズユキのこと?」
「そうだよ。ありゃ、話してなかったかね」
あの子、スピッツだったんだ。言われてみれば、全身ふさふさしてたし、白っぽかったし、特徴は似てた。
でも、性格は……。
「まぁ、名前とは正反対に育ってしまったけどな」
はっはっはと豪快に笑い始めた。凪くんみたいにとはいかなかったようだ。
「近所に住んでるのは初めて知ったなぁ。どの辺りかは分かるかい?」
「いやぁ……そこまでは」
生き生きした表情に輝く瞳。会いに行く気満々だ。
いくらご近所付き合いが上手くても、それはちょっと図々しくない? 田舎の人の距離感ってこんな感じなの? 話が広まりやすいのも、こういうところから来てたりするのかな……。
「毎日散歩してるなら、どこかですれ違ってるかもよ? 見たことないの?」
「いやぁ、ないねぇ。最近だと珍しいから、1度見たら絶対覚えてるはずなんだが……」
話題を逸らすように尋ねるも、返ってきたのは凪くんの時と同様の答え。
毎日2時間も散歩してるのに、1回もないなんて。お散歩コースか時間帯が違うのかな? それかもう老犬であまり外に出てないとか?
「もしかしたら、他の犬種と思い込んで気づかなかったのかもしれないなぁ。今時のスピッツは昔と比べてだいぶおとなしくなってるらしいし」
「そんなにうるさかったの?」
「あぁ。近所に犬が多かったから文句は言われなかったんだが、何かある度に吠えてたよ」
「ジョニー、待てだよ。……よし!」
「おおーっ! すごーい!」
午前5時台の薄暗い駐車場で、鼻の上に置いたおやつをパクッと食べたジョニーに拍手した。
「はははっ。他にも、こうやって、頭にも乗せられるよ」
「わー! サーカスの人みたい!」
今度は頭の上にボールを乗せた。滑り落ちそうな真ん丸のボールだけど、じっとしてバランスを取っている。その姿が可愛くて、1枚写真を撮った。
「それにしても、智くんはまだかねぇ」
祖父と一緒に玄関の扉を眺める。
毎朝恒例のジョニーの散歩。今回から智も参加することになったのだ。ただ、家を出る直前にトイレに行ったので、今遊びながら待っている。
昨日たくさんご飯食べてたし、出すのに時間かかってるのかな。
苦笑しながらジョニーを撫でていると、道路のほうから誰かが歩いてくる足音が聞こえた。
「おや! 松川さん!」
「おお! 高山さん!」
振り向いた先にいたのは、祖父と同世代くらいのおじいさん。
「久しぶりですね〜。シロくんのお散歩ですか?」
「ええ。今日は曇ってるので、久しぶりに出かけようと思いまして」
その彼の足元に、柴犬に似た白いワンちゃんが1匹。会話からすると男の子のようだ。
「あらら、見かけないお顔が。もしかしてお孫さん?」
「ええ。夏休みなので帰省してるんですよ」
「そうでしたか。はじめまして、高山といいます。こっちはシロです」
「は、はじめましてっ、一花といいます」
祖父の後ろから顔を出し、たどたどしく自己紹介した。頭を下げたついでにシロくんのお顔を拝見する。
垂れ耳のジョニーとは違い、三角形の立ち耳。尻尾はお尻に向かってくるんと巻き上がっている。
すごく可愛いけど、ネーミングセンスが……。そのまますぎて思わず笑いそうになっちゃったよ。
久々の再会に話に花を咲かせる2人。一緒に散歩はどうかと誘われたのだが、まだ智が来てなかったので残念ながら断った。
「可愛かったね。ジョニーとも仲良しだったし。犬友達?」
「はははっ。仲良しではあるが、6個上だからねぇ。先輩と言ったほうがいいかな」
彼らを見送り、駐車場に戻る。
6個上なら13歳か。人間に例えると小1と中1。友達より先輩のほうがしっくりくる。
「犬の先輩かぁ。一緒に遊んだりしたの?」
「そうだねぇ、ジョニーが若い頃は毎月遊んでたよ」
懐かしそうに目を細めた祖父。
犬の寿命は人間より短い。年を取るにつれて遊ぶ頻度が減るなら、顔を合わせる機会も減るか。
「あ、そうそう、昨日話したお兄さん、この辺に住んでるんだって」
「おや、そうなのかい?」
「うん。海に行った時に偶然会ったの」
犬のことを考えたからか、凪くんの顔が思い浮かんだ。ただ、田舎は話がすぐ広まると聞いたので、名前は伏せておいた。休暇の邪魔はしたくないからね。
「それで、その人のお家も犬を飼ってて、日本スピッツって子がいるんだって」
「スピッツ⁉」
犬種を口にした途端、目が真ん丸に。
「知ってるの?」
「もちろん! おじいちゃんが子供の頃にすごく人気だったんだよ。雪みたいに真っ白でふわふわしてて、目はクリクリで可愛かったなぁ」
再び目を細めて懐かしんでいる。世代ドンピシャだったみたい。
「家族みんな動物大好きだったから、何度もおねだりしてねぇ」
「へぇ、それで飼えたの?」
「あぁ。弟が生まれた後にお迎えしたよ。無駄吠えが多いと聞いてたから、静かな子になりますようにと名付けて……」
静かな子……そして雪みたいに真っ白……。
「もしかして、シズユキのこと?」
「そうだよ。ありゃ、話してなかったかね」
あの子、スピッツだったんだ。言われてみれば、全身ふさふさしてたし、白っぽかったし、特徴は似てた。
でも、性格は……。
「まぁ、名前とは正反対に育ってしまったけどな」
はっはっはと豪快に笑い始めた。凪くんみたいにとはいかなかったようだ。
「近所に住んでるのは初めて知ったなぁ。どの辺りかは分かるかい?」
「いやぁ……そこまでは」
生き生きした表情に輝く瞳。会いに行く気満々だ。
いくらご近所付き合いが上手くても、それはちょっと図々しくない? 田舎の人の距離感ってこんな感じなの? 話が広まりやすいのも、こういうところから来てたりするのかな……。
「毎日散歩してるなら、どこかですれ違ってるかもよ? 見たことないの?」
「いやぁ、ないねぇ。最近だと珍しいから、1度見たら絶対覚えてるはずなんだが……」
話題を逸らすように尋ねるも、返ってきたのは凪くんの時と同様の答え。
毎日2時間も散歩してるのに、1回もないなんて。お散歩コースか時間帯が違うのかな? それかもう老犬であまり外に出てないとか?
「もしかしたら、他の犬種と思い込んで気づかなかったのかもしれないなぁ。今時のスピッツは昔と比べてだいぶおとなしくなってるらしいし」
「そんなにうるさかったの?」
「あぁ。近所に犬が多かったから文句は言われなかったんだが、何かある度に吠えてたよ」