「こらっ、ジョニー! ごめんね、おでかけ前なのに」
「ううん。仲良くなれた証だし」
立ち上がって引き剥がすと、今度は祖父にターゲットを変更し、お腹に顔をこすりつけ始めた。
水浴びが気持ちよくて気分が高揚しているみたい。ポチ達もこんなふうに夏を楽しんでいたのかな。
写真の中の犬達に思いを馳せた後、駐車場を出て住宅街を駆け抜ける。
正午を過ぎたこの時間帯は、気温がピークに達する頃。多くの人は、極力出かけたくないだろう。
しかし、今朝の光景が頭から離れず、葛藤した結果、欲望が勝ってしまった。
明日は曇りの予報だから、できれば晴れているうちに撮っておきたい。
今朝と同じく高台に向かい、海を見下ろした。
「うわぁ! 青……っ!」
あまりの絶景に口から短い単語が飛び出した。
進学校に通ってるわりには、語彙力低めな第一声だったけど……この光景を見たら、誰だって似たような感想が出ると思うな。
リュックサックからスマホを取り出して撮影する。
波打ち際から奥にかけて鮮やかなグラデーション。太陽光に反射して煌めく海面は、まるで散らばったダイヤモンドが輝いているかのよう。
「ヤッホー!」
その美しさに魅了された私は、人目もはばからず叫んだ。
いやいや、ここ山じゃなくて海だから。叫んでも返ってこないから。
周囲はそう言わんばかりに目を向けているけれど、気にせず海岸に下りる。
夏休みシーズンというのもあり、家族連れやサーフボードを持った男性などで賑わいを見せていた。
パラソルやテントの立つ砂浜を通り過ぎて人気のない場所へ移動。ひとしきり写真を撮った後は……。
「ひゃー! 冷たっ!」
靴を脱いで裸足になり、波に当たる。
部屋着だからジョニーみたいに全身とはまではいかないけど、ひんやりして気持ちいい。水着も持ってくれば良かったな。
「今日はお1人ですか?」
浅瀬ではしゃいでいると、黒い日傘を差した男の人に声をかけられた。
「楽しんでるところ突然すみません。僕、昨夜ここで声をかけた者なんですけど……覚えてますか?」
恐る恐る近づきながら、傘を傾けて前髪をかきあげたお兄さん。
この端正な顔立ちと落ち着いた雰囲気は……。
「もしかして、転んで砂まみれになった……?」
「はい、そうです。顔面から砂浜に突っ込んだ者です」
ドクンと心臓が音を立てた。
ええっ⁉ あの水も滴るかっこいいお兄さん⁉ こんなに早く会えるなんて、奇跡としか言いようがないよ……!
「先日は本当にすみませんでした!」
海岸に戻り、改めて謝罪した。
「綺麗なお洋服を汚してしまって……。あの、帰りは大丈夫でしたか? 風邪、引いてませんか?」
「はい。汚れたといっても海水ですし。ピンピンしてるので大丈夫ですよ」
良かった。あの時お別れの挨拶ができなかったから心配だったんだよね。
「僕のほうこそ、勝手に帰ってしまってすみませんでした。彼氏さんに何も言われてませんか?」
「え?」
彼の口から出た単語にきょとんとする。
彼氏? 一体誰のことだ?
「……あ、もしかして迎えに来た人のことですか? あの人はただの従兄です」
「えっ、従兄?」
「はい。別行動してたのは、彼女と電話してたので、邪魔にならないように離れてただけなんです」
「なんだ、良かったぁ」
彼の口から安堵の声が漏れた。
智が彼氏だなんて、身内じゃなかったとしても、地球がひっくり返っても絶対無理だけど、傍から見たら男女2人組。カップルかなと思うのは自然なこと。
もしかしたら、ややこしくならないように配慮して姿を消したのかもしれない。
「従兄ってことは、帰省中?」
「はいっ。夏休みなので」
「なら、学生さん?」
「そうです。高校生です」
「えっ、奇遇ですね。僕も高校生なんです」
「ええっ⁉」
波の音だけが聞こえる閑静な海岸で驚きの声を上げた。若くても大学生くらいだと思ってた……!
「大人っぽいですね……」
「よく言われます。今高3なんですけど、制服着てても会社員に間違えられるんですよ。お姉さんは何年生ですか?」
「1年生です……」
同じ学生とはいえ、年齢はやはり上だった。
制服姿でも社会人か。私も年上に見られたことはあるけれど、それは顔と背丈だけ。立ち居振る舞いや言葉遣いは、小学生の頃から変わっていない。
外見だけの私より、中身までしっかりしているお兄さんのほうが断然大人だ。
軽く落ち込んだが、この町での同年代はなかなか貴重。お互い1人で時間も余っていたので、少しお話ししていくことに。
「絵日記の宿題かぁ。それで写真撮ってたんですね」
「はいっ。今朝も犬の散歩中に撮ったんです」
近くの階段に腰かけてスマホ画面を見せる。
オレンジ色に光る海と、金色の毛を風になびかせるジョニーの横顔。動画も撮っていたのでそれも一緒に見せた。
「どれも綺麗ですね。ワンちゃんも可愛い。僕のところにも犬がいるんですよ。3匹」
「3匹も⁉ どんな子ですか?」
「ううん。仲良くなれた証だし」
立ち上がって引き剥がすと、今度は祖父にターゲットを変更し、お腹に顔をこすりつけ始めた。
水浴びが気持ちよくて気分が高揚しているみたい。ポチ達もこんなふうに夏を楽しんでいたのかな。
写真の中の犬達に思いを馳せた後、駐車場を出て住宅街を駆け抜ける。
正午を過ぎたこの時間帯は、気温がピークに達する頃。多くの人は、極力出かけたくないだろう。
しかし、今朝の光景が頭から離れず、葛藤した結果、欲望が勝ってしまった。
明日は曇りの予報だから、できれば晴れているうちに撮っておきたい。
今朝と同じく高台に向かい、海を見下ろした。
「うわぁ! 青……っ!」
あまりの絶景に口から短い単語が飛び出した。
進学校に通ってるわりには、語彙力低めな第一声だったけど……この光景を見たら、誰だって似たような感想が出ると思うな。
リュックサックからスマホを取り出して撮影する。
波打ち際から奥にかけて鮮やかなグラデーション。太陽光に反射して煌めく海面は、まるで散らばったダイヤモンドが輝いているかのよう。
「ヤッホー!」
その美しさに魅了された私は、人目もはばからず叫んだ。
いやいや、ここ山じゃなくて海だから。叫んでも返ってこないから。
周囲はそう言わんばかりに目を向けているけれど、気にせず海岸に下りる。
夏休みシーズンというのもあり、家族連れやサーフボードを持った男性などで賑わいを見せていた。
パラソルやテントの立つ砂浜を通り過ぎて人気のない場所へ移動。ひとしきり写真を撮った後は……。
「ひゃー! 冷たっ!」
靴を脱いで裸足になり、波に当たる。
部屋着だからジョニーみたいに全身とはまではいかないけど、ひんやりして気持ちいい。水着も持ってくれば良かったな。
「今日はお1人ですか?」
浅瀬ではしゃいでいると、黒い日傘を差した男の人に声をかけられた。
「楽しんでるところ突然すみません。僕、昨夜ここで声をかけた者なんですけど……覚えてますか?」
恐る恐る近づきながら、傘を傾けて前髪をかきあげたお兄さん。
この端正な顔立ちと落ち着いた雰囲気は……。
「もしかして、転んで砂まみれになった……?」
「はい、そうです。顔面から砂浜に突っ込んだ者です」
ドクンと心臓が音を立てた。
ええっ⁉ あの水も滴るかっこいいお兄さん⁉ こんなに早く会えるなんて、奇跡としか言いようがないよ……!
「先日は本当にすみませんでした!」
海岸に戻り、改めて謝罪した。
「綺麗なお洋服を汚してしまって……。あの、帰りは大丈夫でしたか? 風邪、引いてませんか?」
「はい。汚れたといっても海水ですし。ピンピンしてるので大丈夫ですよ」
良かった。あの時お別れの挨拶ができなかったから心配だったんだよね。
「僕のほうこそ、勝手に帰ってしまってすみませんでした。彼氏さんに何も言われてませんか?」
「え?」
彼の口から出た単語にきょとんとする。
彼氏? 一体誰のことだ?
「……あ、もしかして迎えに来た人のことですか? あの人はただの従兄です」
「えっ、従兄?」
「はい。別行動してたのは、彼女と電話してたので、邪魔にならないように離れてただけなんです」
「なんだ、良かったぁ」
彼の口から安堵の声が漏れた。
智が彼氏だなんて、身内じゃなかったとしても、地球がひっくり返っても絶対無理だけど、傍から見たら男女2人組。カップルかなと思うのは自然なこと。
もしかしたら、ややこしくならないように配慮して姿を消したのかもしれない。
「従兄ってことは、帰省中?」
「はいっ。夏休みなので」
「なら、学生さん?」
「そうです。高校生です」
「えっ、奇遇ですね。僕も高校生なんです」
「ええっ⁉」
波の音だけが聞こえる閑静な海岸で驚きの声を上げた。若くても大学生くらいだと思ってた……!
「大人っぽいですね……」
「よく言われます。今高3なんですけど、制服着てても会社員に間違えられるんですよ。お姉さんは何年生ですか?」
「1年生です……」
同じ学生とはいえ、年齢はやはり上だった。
制服姿でも社会人か。私も年上に見られたことはあるけれど、それは顔と背丈だけ。立ち居振る舞いや言葉遣いは、小学生の頃から変わっていない。
外見だけの私より、中身までしっかりしているお兄さんのほうが断然大人だ。
軽く落ち込んだが、この町での同年代はなかなか貴重。お互い1人で時間も余っていたので、少しお話ししていくことに。
「絵日記の宿題かぁ。それで写真撮ってたんですね」
「はいっ。今朝も犬の散歩中に撮ったんです」
近くの階段に腰かけてスマホ画面を見せる。
オレンジ色に光る海と、金色の毛を風になびかせるジョニーの横顔。動画も撮っていたのでそれも一緒に見せた。
「どれも綺麗ですね。ワンちゃんも可愛い。僕のところにも犬がいるんですよ。3匹」
「3匹も⁉ どんな子ですか?」