白鬼の封印師 二

一体、鳳魅さんはどちらの味方なんだ。
どうにもこの状況を完全に面白がっているような気がしてならない。
時雨は未だ笑い続ける鳳魅に冷ややかな目線を向けた。
まあいい、取り敢えずは目の前の仕事に集中することにしよう。

「あ、そうそう!忘れるとこだったよ。実は時雨ちゃんに会わせたい子がいたんだった」
「会わせたい子?」
「おーい!時雨ちゃんが来たから入っておいで~」

鳳魅は不意に何かを思い出したのかソファーから身を乗り出せば隣部屋に声をかけた。
先客でも来ているのだろうか。

「そう心配せずとも大丈夫。君とは既に面識がある子だから」

既に面識がある??
一体誰のことを言っているの?
鳳魅が声をかけた方向に注意深く目を向けた。
もしやここに来て白夜様召喚とか言うんじゃないだろうな。

「失礼します」

すると扉が開き現れたのは一人の青年だった。

「お、どうやら上手くいったようだね」

紺青色の髪。
二の腕にも同じく紺青色の…だが鱗のような模様の柄がびっしりと刻み込まれている。
瞳は三白眼で綺麗な千草色。
白く緩めなTシャツに黒いスキニーパンツを穿いたスタイリッシュな風貌の美青年だった。

「(え?誰だろう、この人…)」

面識があるとは言っていたけど。
正直言って時雨には今一つピンとこなかった。
なんなら初めましてだ。
考え込む時雨を見かねて鳳魅がこちらを向いた。

「ん~?時雨ちゃん、何をそんな考え込んでるんだい?感動の再会じゃないか」
「か、感動の…さ、再会?」
「そうそう。ずいぶんと暫くの間、君と会えなかったからさ。彼も憂いててねぇ~ね?」

鳳魅が青年に微笑めば彼もまた時雨に微笑んだ。
え?いやいや、だから本当に知らない人ですってば!
時雨はもう訳が分からなかった。
すると青年が時雨の方まで近づいて来れば手を取り微笑んだ。
いや正しくは微笑んだように見えた、だ。
何故なら口元は黒いマスク状の布で覆われているせいか、その表情を汲み取ることが出来なかったからだ。

「時雨殿、久しぶりですね。その後の体調はいかがでしょうか?」
「え」
「大変申し訳ありません。僕の失態により、暫くはお辛い日々を過ごされたことでございましょう。お許し頂けるのであれば直ぐにでも神聖力の調整を」
「あ、あの…」
「はい?」
「どちら様…でしょうか?」

その一言で部屋はシーンと静まり返った。
え、もしかして私ってば地雷踏んだ?
鳳魅さんも目を丸くしてこちらを見ている。
でも本当に自分には身の覚えがなかった。

「ああ!この姿でお会いするのは今回が初めてでしたね。申し訳ございません。改めて自己紹介を。青龍です」
「青龍?」
「おや?まだ分かりませんか?では呼び方を変えてみましょう。僕はあの白蛇(・・)さんです」
「え…え!貴方があの、し、白蛇さん⁈」

なんということだ!
彼があの白蛇だと言うのか。
あの頃の姿とは似ても似つかないその風貌。
だってついこの間までシュルシュルと白くて小さい綺麗な体をくねらせ腕に巻き付いていたのに。

「時雨ちゃん、だいぶ混乱しているね。だが何を隠そう正真正銘、彼はあの白蛇君さ!」
「で、でも。あの時はただの蛇だったのに!」

そう言えば青龍は恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「あれは進化前の比較的雑魚(へぼ)い姿でしたから。これが本来の姿です。ほら、ここにも書いてあるでしょう?」

青龍が指さす部分に目を向けてみれば、黒く口元を覆う布には何やら紙らしきものが垂れ下がっている。
そして紙には黒文字で『青龍』との文字が。
どうして今まで気がつかなかったのだろう。