賑やかな繫華街には明かりが灯れば酔っ払い客が宴会を開く。本来なら寝静まる時間さえここでは関係ない。
女はあれからあーでもないこーでもないと自身の世間話から最近会った異性の話など、自分にとっては心底どうでもいい色気話に花を咲かせていた。
正直クソほどどうでもいい内容ばかりで、興味すらそそられない無意味なマシンガントーク相手にはいい加減骨が折れそうだった。
これがアイツ相手だったら永遠に聞いていられただろうに。彼女とならどんな話にだって耳を傾けていられる。
ああ、きっと今頃は夢の中だろうか。
帰ったら真っ先に頭を撫でながらその寝顔を拝み、久方ぶりに布団に入って一緒に寝て…
「…様、白夜様!」
「!!…あ?」
ボーっと考えていたせいか呼ばれているのに気がつかなかった。
「も~、さっきからずっと呼んでいますのに!」
女は不機嫌になったのか、むくれた顔でプイッとそっぽを向いてしまう。早速面倒くせーご機嫌とりか。
「せっかくのデートですのよ?婚約者が隣にいると言いますのに、よそ見なんてあんまりですわ」
俺はそんな腕に自身の腕を絡めてくる女をチラリと見やる。
「悪ぃ、ちょっとばかり仕事の考えごとをしていたんだ」
「私より仕事の方が大事だと仰りたいの??白夜様は私が嫌いなのね!!」
女はヒステリックに声を荒げれば俺へと迫ってくる。
まさかここまで拗らせてやがるとは。
こういう女は嫌いだ。気が済まないと声を荒げて起伏を激しくさせれば何でも許されると思っているあたり、心の中には自然と苛立ちが募っていく。
「はあ、悪かったって。もう仕事のことは考えねぇから大目にみてくれ」
「白夜様は私のこと好き?」
「おー好き好きー」
適当に返せば女はそれを本音と受け取ったのか機嫌がなおっていく。
「んで?一体俺達はどこに向かってんの?」
先ほどから随分と奥の店までやってきたが、ここらは繫華街でも治安が悪い。
多くの飲み屋やクラブ店が建ち並べばガラの悪い連中にも遭遇するスポット。
仕事で立ち寄ることは過去に何度かあった。
一度酔っ払いに絡まれてタコ殴りにしてやったこともあったが、この俺に殺されないだけ有難いと思え。
「それはついてからのお楽しみ♡」
グイグイと腕を引っ張られれば、やがて連れて来られたのは一軒のクラブ店。バウンサーは俺の存在にぎょっとするも顔パスですんなりと通してくれる。
そうしてガヤガヤと賑わう通りを抜ければVIPルームへと通される。
「こんな場所にクラブがあったとはな。よく来るのか?」
「最近ある友達に紹介されて通い始めた場所なの。お父様が夜は私を家から出したがらないせいで満足に遊びにも行けないって、友達に相談したらここを教えてくれたの。せっかくだから飲みましょ?」
女はやって来た黒服ボーイに声をかけ注文すれば、ボーイはそそくさと退室する。
「あ~悪ぃけど。俺は酒が飲めねータイプだ」
「ふふ、大丈夫。そう言うと思ってお酒の代わりにシャンパンを用意したから♡」
暫くして戻ってきたボーイからグラスとシャンパンを受け取れば、女はグラスを差し出してくる。俺はグラスのシャンパンをみつめ、互いのグラス同士で乾杯をする。
「ここは24時間営業で客も絶えることないわ。飲んで遊びたくなったら下に行くこともできるし。でも今日は私と居てね♡」
「へぇ~。ちなみにここをお前に紹介した友達って、以前ウチに事業案持ち込んできたとこの娘?」
「え、すごいわ!よく分かったわね」
「はは、やっぱりな」
なるほどな、、、これでピースは揃ったわけだ。
俺はありったけの笑みで微笑めば次にかかる獲物を待ち構えた。