なんてことない仕事だった。
その日、自分の耳に入り込んできたのは、先日うちが潰したと思っていた企業で。今、自分の目の前では頭を垂れ顔を真っ青にさせる男が一人。不誠実の証拠が揃う書類を手に白夜はそれを白けた目で見下ろした。
「…で?最後に何か言いたいことはあるか」
その問いかけに「ひぃ!」と男が震えた。
妖都に呼び出しをくらい、他の仕事を片付けていれば徹夜から声がかかった。
「若、先日故夏家から紹介された子会社の件で。どうやら例の娘が妖都に若が来ていることを知り向かっているとの通達が」
「は?なんでそうなるんだよ」
「どうやら故夏家が手を回したようです。恐らくは企画を打ち切られたのをきっかけに娘は鬼頭家との縁談が破断。親会社である故夏家の元へ。それを逆手に故夏家が鬼頭家に接近しようと手を打った可能性が」
せっかく仕事も片付き、後は妖都の件を控えるだけ。
やっと時雨の元に帰れると気分が上がっていたとこなのに。
その言葉で白夜の気分は一気に下落した。
最も最悪なのは、宿にいた時雨の存在を向こうに知られていたということ。鬼頭家に迎えられた花嫁の噂は広まりつつまる。それは色んな意味で時雨にとっては良い意味でも悪い意味でも影響する。白夜は舌打ちしたい気持ちを抑えれば直ぐに問題へ取りかかる。
「故夏家を見張れ。怪しい動きを見せ次第、即刻その首をはねてやる。今は例の女が先だ。俺に接近してくるということは、子会社でありながらそれだけ鬼頭家を言いくるめられる武器があるに違いない」
そうしていれば故夏家の有益な情報を手に入れた。
どうやら故夏家が裏で鬼頭家の金を横流し、そのいくらかを支援金として子会社へ。錦蛇を使った高価な陶器類を高値で売りつけ、儲け金は湯水のごとく自身の愛人に向け使い果たしているとのこと。
故夏家は大の女好き。
夫婦の仲も冷め切り、妖都では一度、女性問題で事件を起こして鬼頭家所有の地へ逃れている。大人しくしているかと思いきや新たな問題を引き起こそうとしているのだ。予想に反して今度は子会社である旧友の家を使い、白夜にお熱な娘を操作し、再び鬼頭家に接近しようと目論んでいるよう。
「全くどうしようもねぇな。クッソ…早く時雨に会いたいのに」
「仕方ありません。先手を打ちましょう。その例の娘、時雨様にいつ危害を加えるか分かりません。ここは一つ、若がデートの一つでもして差し上げては?」
「はああ⁈なんでそうなるんだよ!冗談じゃねーぞ!」
「演技です。故夏家の証拠を確かなものにする為、私はこれより情報を集めます。その間、若は何食わぬ顔で彼女を誘導するのです」
徹夜の指示の元、白夜は嫌々ながら娘と会うことになった。
向こうは大層喜んで白夜の元にやってくれば、帰る予定だった時間をすっかり越して解放されたのは明け方近くになってからだ。息を殺して時雨の眠る自室を開ければ、彼女はスヤスヤと眠っている。その顔を眺めて優しくキスを落とせば、時雨は身じろいだ。その無防備な姿に溢れる理性を抑え、また部屋を後にする。
「若、証拠が揃いました。いつでも行けます」
徹夜からの連絡を受け、何食わぬ顔でベタベタと触れる娘を引き連れて訪れた故夏家。向こうは娘が連れている白夜を見れば企みの成功に口角を上げて、丁重なまでに白夜をもてなした。だが初め優しかった白夜の態度は一変。叩きつけられた証拠の数々に故夏家の当主は顔を真っ青にさせる事態となった。
「鬼頭家の金を横流しに利用しようなんざ、随分と生意気な真似をしてくれたな」
「お、お許し下さい!違うのです!!これは、、」
「何が違うんだぁ?お陰でコッチは片付く仕事も片付かずに花嫁を待たせてるんだ。オマエの愚行に散々目を瞑ってきたが、これで完全に終わりだな(笑)」
冷ややかな目を向ける白夜。
故夏はブルブルと震え上がった。
そんな中、何がなんだか分からない娘は「オジサマ?」と困惑な顔をしているも、自分は白夜の花嫁であると勘違いして再び白夜に近寄ろとする。
「触んな。オマエは俺の花嫁でもなんでもない」
「な、それはどういう事ですの⁈私は確かに花嫁だと!」
「そんなの噓に決まってるだろ。オマエの父親とコイツは裏で結託して鬼頭家に損害を働いた。今ここでオマエ達には制裁を加える」
「な、、!!」
信じられないと娘は言葉を失う。
だが諦めきれないのか、白夜に取り入ろうとすがりつく。
「嫌よ!私は貴方の花嫁なんだから!!パパも鬼頭家と話は通したって。私のことが好きだって。そう言ってよ!!」
「……」
「ねえ、ねえ白夜様!!」
「俺の名前を呼ぶな」
腕にしがみつく娘を振り払い、その場を立ち去ろうとすれば、後ろからは娘が泣き叫ぶ。
「あり得ないわ!どうして…どうしてなの⁈あんなにデートだって…言葉にもしてくれたくせに!!鬼頭家に花嫁が見つかったって。やっぱあの女なのね?貴方をそんなにしてしまったのは!!!」
その言葉に白夜は足を止める。
彼女は更に畳み掛ける。
「あの女、自分を花嫁だって言った。憎らしい…平凡な何の取柄もない子だった。この私と対等な口まできいて。だから懲らしめてやろうと思ったのに」
「…今、なんて言った?」
白夜はゆっくりと振り向けば、次の瞬間、体からは莫大な妖力を出して静かに歩いてくる。それに小さな悲鳴を上げた娘はへなりと座り込んでしまえば動けないでいる。まさかとは思っていたが…時雨に接近していたとは。自分の知らないとこで時雨に危害を加えたともなれば…白夜は気づけば彼女に向けて手をかざしていた。
「若!!!」
だが徹夜の叫ぶ声で我に返れば、ふんと顔を背け歩き出す。
「時間の無駄だ。何度も言うがオマエは俺の花嫁でもなんでもない。分かったら大人しくしてることだ。俺の花嫁に手を出した報いはちゃんと受けて貰うぞ」
その一言で完全に言葉を失い泣き崩れる娘。
故夏同様、後始末をすれば来た道を帰る。
早く時雨の元へ!そう思っていれば、「若様!!」と護衛の一人が目の前に現れた。
「騒々しい…何事ですか?」
徹夜が前に出れば、護衛は一枚の書状を懐から取り出す。
「たった今、こんなものが鬼頭家から届きまして。緊急とのことで」
「これは?」
徹夜の受け取った書状を白夜は「貸せ」と横から取り上げれば中を確認する。だがその顔は段々と真っ青になっていく。
「噓だろ…」
「若?いかがなさいました」
「時雨が…消えた」
その日、自分の耳に入り込んできたのは、先日うちが潰したと思っていた企業で。今、自分の目の前では頭を垂れ顔を真っ青にさせる男が一人。不誠実の証拠が揃う書類を手に白夜はそれを白けた目で見下ろした。
「…で?最後に何か言いたいことはあるか」
その問いかけに「ひぃ!」と男が震えた。
妖都に呼び出しをくらい、他の仕事を片付けていれば徹夜から声がかかった。
「若、先日故夏家から紹介された子会社の件で。どうやら例の娘が妖都に若が来ていることを知り向かっているとの通達が」
「は?なんでそうなるんだよ」
「どうやら故夏家が手を回したようです。恐らくは企画を打ち切られたのをきっかけに娘は鬼頭家との縁談が破断。親会社である故夏家の元へ。それを逆手に故夏家が鬼頭家に接近しようと手を打った可能性が」
せっかく仕事も片付き、後は妖都の件を控えるだけ。
やっと時雨の元に帰れると気分が上がっていたとこなのに。
その言葉で白夜の気分は一気に下落した。
最も最悪なのは、宿にいた時雨の存在を向こうに知られていたということ。鬼頭家に迎えられた花嫁の噂は広まりつつまる。それは色んな意味で時雨にとっては良い意味でも悪い意味でも影響する。白夜は舌打ちしたい気持ちを抑えれば直ぐに問題へ取りかかる。
「故夏家を見張れ。怪しい動きを見せ次第、即刻その首をはねてやる。今は例の女が先だ。俺に接近してくるということは、子会社でありながらそれだけ鬼頭家を言いくるめられる武器があるに違いない」
そうしていれば故夏家の有益な情報を手に入れた。
どうやら故夏家が裏で鬼頭家の金を横流し、そのいくらかを支援金として子会社へ。錦蛇を使った高価な陶器類を高値で売りつけ、儲け金は湯水のごとく自身の愛人に向け使い果たしているとのこと。
故夏家は大の女好き。
夫婦の仲も冷め切り、妖都では一度、女性問題で事件を起こして鬼頭家所有の地へ逃れている。大人しくしているかと思いきや新たな問題を引き起こそうとしているのだ。予想に反して今度は子会社である旧友の家を使い、白夜にお熱な娘を操作し、再び鬼頭家に接近しようと目論んでいるよう。
「全くどうしようもねぇな。クッソ…早く時雨に会いたいのに」
「仕方ありません。先手を打ちましょう。その例の娘、時雨様にいつ危害を加えるか分かりません。ここは一つ、若がデートの一つでもして差し上げては?」
「はああ⁈なんでそうなるんだよ!冗談じゃねーぞ!」
「演技です。故夏家の証拠を確かなものにする為、私はこれより情報を集めます。その間、若は何食わぬ顔で彼女を誘導するのです」
徹夜の指示の元、白夜は嫌々ながら娘と会うことになった。
向こうは大層喜んで白夜の元にやってくれば、帰る予定だった時間をすっかり越して解放されたのは明け方近くになってからだ。息を殺して時雨の眠る自室を開ければ、彼女はスヤスヤと眠っている。その顔を眺めて優しくキスを落とせば、時雨は身じろいだ。その無防備な姿に溢れる理性を抑え、また部屋を後にする。
「若、証拠が揃いました。いつでも行けます」
徹夜からの連絡を受け、何食わぬ顔でベタベタと触れる娘を引き連れて訪れた故夏家。向こうは娘が連れている白夜を見れば企みの成功に口角を上げて、丁重なまでに白夜をもてなした。だが初め優しかった白夜の態度は一変。叩きつけられた証拠の数々に故夏家の当主は顔を真っ青にさせる事態となった。
「鬼頭家の金を横流しに利用しようなんざ、随分と生意気な真似をしてくれたな」
「お、お許し下さい!違うのです!!これは、、」
「何が違うんだぁ?お陰でコッチは片付く仕事も片付かずに花嫁を待たせてるんだ。オマエの愚行に散々目を瞑ってきたが、これで完全に終わりだな(笑)」
冷ややかな目を向ける白夜。
故夏はブルブルと震え上がった。
そんな中、何がなんだか分からない娘は「オジサマ?」と困惑な顔をしているも、自分は白夜の花嫁であると勘違いして再び白夜に近寄ろとする。
「触んな。オマエは俺の花嫁でもなんでもない」
「な、それはどういう事ですの⁈私は確かに花嫁だと!」
「そんなの噓に決まってるだろ。オマエの父親とコイツは裏で結託して鬼頭家に損害を働いた。今ここでオマエ達には制裁を加える」
「な、、!!」
信じられないと娘は言葉を失う。
だが諦めきれないのか、白夜に取り入ろうとすがりつく。
「嫌よ!私は貴方の花嫁なんだから!!パパも鬼頭家と話は通したって。私のことが好きだって。そう言ってよ!!」
「……」
「ねえ、ねえ白夜様!!」
「俺の名前を呼ぶな」
腕にしがみつく娘を振り払い、その場を立ち去ろうとすれば、後ろからは娘が泣き叫ぶ。
「あり得ないわ!どうして…どうしてなの⁈あんなにデートだって…言葉にもしてくれたくせに!!鬼頭家に花嫁が見つかったって。やっぱあの女なのね?貴方をそんなにしてしまったのは!!!」
その言葉に白夜は足を止める。
彼女は更に畳み掛ける。
「あの女、自分を花嫁だって言った。憎らしい…平凡な何の取柄もない子だった。この私と対等な口まできいて。だから懲らしめてやろうと思ったのに」
「…今、なんて言った?」
白夜はゆっくりと振り向けば、次の瞬間、体からは莫大な妖力を出して静かに歩いてくる。それに小さな悲鳴を上げた娘はへなりと座り込んでしまえば動けないでいる。まさかとは思っていたが…時雨に接近していたとは。自分の知らないとこで時雨に危害を加えたともなれば…白夜は気づけば彼女に向けて手をかざしていた。
「若!!!」
だが徹夜の叫ぶ声で我に返れば、ふんと顔を背け歩き出す。
「時間の無駄だ。何度も言うがオマエは俺の花嫁でもなんでもない。分かったら大人しくしてることだ。俺の花嫁に手を出した報いはちゃんと受けて貰うぞ」
その一言で完全に言葉を失い泣き崩れる娘。
故夏同様、後始末をすれば来た道を帰る。
早く時雨の元へ!そう思っていれば、「若様!!」と護衛の一人が目の前に現れた。
「騒々しい…何事ですか?」
徹夜が前に出れば、護衛は一枚の書状を懐から取り出す。
「たった今、こんなものが鬼頭家から届きまして。緊急とのことで」
「これは?」
徹夜の受け取った書状を白夜は「貸せ」と横から取り上げれば中を確認する。だがその顔は段々と真っ青になっていく。
「噓だろ…」
「若?いかがなさいました」
「時雨が…消えた」



