なんてことないただの仕事だった。
「お、お許しください!!」
俺の目の前では首を垂れて顔を真っ青にさせる男が一人。社長席にドカリと腰を下して机上に足を乗っければ、白けた顔でソイツを静観した。
先ほどから体をブルブル震わせては、上質なカーペットの上に頭をこれでもかと押し付けている姿が滑稽だった。
あれから宿を出て何時間経っただろうか。
夜遅く、愛する彼女とも虚しく宿を出れば人の賑わう繫華街へと足を進めた。
面倒くさいことになった。
まさか滞在期間を狙ってくるなんて思いもしなかったのだ。
「ではこれで」
持ってきた仕事も大詰め。
残り僅かとなったものを速攻で片付ければ、見送りに来ようとする者たちを差し置きさっさとその場を後にする。
「うっし、やっと終わったぞ時雨!」
外に出れば夜明けまでまだ少し時間がある。
繫華街であるこの場所では夜間中の活動が最も高かった。
大勢の妖達が酒や女だと賑わいも見せるも耳障りでしかない。俺の存在に色めき合う女達が店に連れ込もうと近づいて来るのを遠目越しに感じた。
明け方になれば幾分か静けさも取り戻すだろうが、早く時雨に会いたい欲しかない自分には関係のない話だ。
「今頃、アイツは寝てるだろうな…早く帰らねーと」
会いたい一心で足を速めれれば通りを進んだ。
これで起きた時、隣で俺が寝ていたら彼女はどんな反応をするだろう。あの顔はとても可愛いらしいから、ついいじめたくなってしまう。
そんないたずら心を抱えれば自然と頬が緩んだ。
「白夜様!!会いたかったですわ!!」
「!!」
突然、俺の目の前に駆け込んできた女に急いでいた足を止める。
「あ?誰だテメェ」
邪魔されたことで不機嫌そうに女を見れば、向こうは顔をこれでもかと喜々にしていた。
「まあ誰だなんて!も~酷いですわ白夜様♡暫く会わないうちに彼女である私の存在を忘れてしまうだなんて」
「はあ⁈」
何、彼女?
知らねー…つーか誰だよコイツ。
全く知らねぇ女だし、俺には時雨がいる。
時雨を差し置いて彼女なんて作った覚えねぇぞ??
俺は女の話に何がなんだが訳が分からず思考を停止させた。
「まさかここでお会いできるだなんて。嬉しいですわぁ~ずっと会えなくて寂しかったんですのよ?」
女はうっとりとした我が物顔で近づけば、俺の腕へ自身の腕を巻き付けてくる。
俺は思わずゾッとした。
「知らねぇ…つーか、マジで誰だよお前。俺はお前のような彼女を作った覚えねぇぞ」
やや乱暴にその腕を振り解けば女から距離をとる。
触られた部分からは甘くキツイ香水の匂いが立ち込めれば鼻が曲がりそうになった。
「え~もう白夜様ったら。ひと月ほど前にお屋敷でお会いして結婚の誓いまでたてましたのに。それがひと月ぶりに会う婚約者への言葉ですかぁ?」
「婚約者だあ~⁈」
俺は思わず変な声が出てしまう。
何を勘違いしてんだコイツ。
そんな話は今まで一度も…いや、、待て。
思えば鬼頭家には婚約者候補の女が未だ後を絶たない。
こっちは既に時雨を現世から貰い受け婚約者として、ゆくゆくは夫婦としての誓いを立てたが公の場には公表できていない。
それは妖家に人間の娘を貰い受ける理由に当主の代替わりが関係するためとあってか、世間に公言するにあたっては俺が鬼頭家の次期当主となったことへの確定申告を優先させる必要があった。
だが自分はまだ当主じゃない。
なら鬼頭家の婚約者の座は空席のまま。
そう勘違いしている民や良家のやからが大勢いるのだろう。この時期になってまで毎日のように娘を孫と連れてくる者がいるのだ。
自分としては、大切な時雨の身を守り晒すわけにはいかないと適当に送り返していたというのに。
「白夜様ぁ??」
女は黙りこくる俺を不思議そうに見ている。
「(この女…まさかあの、、)」
上目遣い越しに俺をみつめる女の顔を俺は覚えていた。
全てを理解した俺はある一つの考えを思いつく。
「あ~悪ぃ悪ぃ、、ちょっと忙しくてさ。…で?ここでは何をしてるんだ?」
笑いたくもない顔を無理に動かして、印象をよくさせるために笑顔を貼り付ける。
「お父様にお願いしてね、繫華街に遊びに出ていたの。ほら、私って可愛いから一人で出歩くと直ぐに殿方に絡まれちゃって。お父様がなかなか家から出してくれなかったんだけど、でも白夜様が一緒なら安心ですわ♡」
女は何を勘違いしたのか再び腕を絡めてくる。
「そうだわ!ねえ白夜様、これから一緒にデートしましょう?ここで会えたのも婚約者ゆえのご縁だと思っていますの。私、実は欲しいものがあって~」
わざとらしく甘い口調で話す彼女をニコニコと見つめた。
「ふ。…いいぜ、行こうかデート」
「え~ホント⁈」
「ああ、俺も仕事のせいか中々会えなくて寂しかったし。埋め合わせって意味ではいい機会かもな」
そう言えば女は顔をパーッと明るくさせて体を更に俺へと密着させる。大きな谷間の胸を見せているつもりだろうが全くもって靡かない。
「あ、でも一つだけ頼みがあんだけど」
「んん?なぁにぃ~」
「お前の親父に会わせてくんね?」
「え?お父様に?」
女はその問いかけに目を丸くした。
「暫く会えてねぇし。挨拶ぐらいしとかなきゃと思ってな。…これから世話になるわけだし」
俺が言えば女は納得したのか嬉しそうに頷いた。
「ふふ、そうね。いずれは私も鬼頭家に嫁ぐわけだし。いいわ!でもデートが先ね♡」
グイグイと腕を引っ張っられれば、俺はおっえっと心の中で舌を出した。
「お、お許しください!!」
俺の目の前では首を垂れて顔を真っ青にさせる男が一人。社長席にドカリと腰を下して机上に足を乗っければ、白けた顔でソイツを静観した。
先ほどから体をブルブル震わせては、上質なカーペットの上に頭をこれでもかと押し付けている姿が滑稽だった。
あれから宿を出て何時間経っただろうか。
夜遅く、愛する彼女とも虚しく宿を出れば人の賑わう繫華街へと足を進めた。
面倒くさいことになった。
まさか滞在期間を狙ってくるなんて思いもしなかったのだ。
「ではこれで」
持ってきた仕事も大詰め。
残り僅かとなったものを速攻で片付ければ、見送りに来ようとする者たちを差し置きさっさとその場を後にする。
「うっし、やっと終わったぞ時雨!」
外に出れば夜明けまでまだ少し時間がある。
繫華街であるこの場所では夜間中の活動が最も高かった。
大勢の妖達が酒や女だと賑わいも見せるも耳障りでしかない。俺の存在に色めき合う女達が店に連れ込もうと近づいて来るのを遠目越しに感じた。
明け方になれば幾分か静けさも取り戻すだろうが、早く時雨に会いたい欲しかない自分には関係のない話だ。
「今頃、アイツは寝てるだろうな…早く帰らねーと」
会いたい一心で足を速めれれば通りを進んだ。
これで起きた時、隣で俺が寝ていたら彼女はどんな反応をするだろう。あの顔はとても可愛いらしいから、ついいじめたくなってしまう。
そんないたずら心を抱えれば自然と頬が緩んだ。
「白夜様!!会いたかったですわ!!」
「!!」
突然、俺の目の前に駆け込んできた女に急いでいた足を止める。
「あ?誰だテメェ」
邪魔されたことで不機嫌そうに女を見れば、向こうは顔をこれでもかと喜々にしていた。
「まあ誰だなんて!も~酷いですわ白夜様♡暫く会わないうちに彼女である私の存在を忘れてしまうだなんて」
「はあ⁈」
何、彼女?
知らねー…つーか誰だよコイツ。
全く知らねぇ女だし、俺には時雨がいる。
時雨を差し置いて彼女なんて作った覚えねぇぞ??
俺は女の話に何がなんだが訳が分からず思考を停止させた。
「まさかここでお会いできるだなんて。嬉しいですわぁ~ずっと会えなくて寂しかったんですのよ?」
女はうっとりとした我が物顔で近づけば、俺の腕へ自身の腕を巻き付けてくる。
俺は思わずゾッとした。
「知らねぇ…つーか、マジで誰だよお前。俺はお前のような彼女を作った覚えねぇぞ」
やや乱暴にその腕を振り解けば女から距離をとる。
触られた部分からは甘くキツイ香水の匂いが立ち込めれば鼻が曲がりそうになった。
「え~もう白夜様ったら。ひと月ほど前にお屋敷でお会いして結婚の誓いまでたてましたのに。それがひと月ぶりに会う婚約者への言葉ですかぁ?」
「婚約者だあ~⁈」
俺は思わず変な声が出てしまう。
何を勘違いしてんだコイツ。
そんな話は今まで一度も…いや、、待て。
思えば鬼頭家には婚約者候補の女が未だ後を絶たない。
こっちは既に時雨を現世から貰い受け婚約者として、ゆくゆくは夫婦としての誓いを立てたが公の場には公表できていない。
それは妖家に人間の娘を貰い受ける理由に当主の代替わりが関係するためとあってか、世間に公言するにあたっては俺が鬼頭家の次期当主となったことへの確定申告を優先させる必要があった。
だが自分はまだ当主じゃない。
なら鬼頭家の婚約者の座は空席のまま。
そう勘違いしている民や良家のやからが大勢いるのだろう。この時期になってまで毎日のように娘を孫と連れてくる者がいるのだ。
自分としては、大切な時雨の身を守り晒すわけにはいかないと適当に送り返していたというのに。
「白夜様ぁ??」
女は黙りこくる俺を不思議そうに見ている。
「(この女…まさかあの、、)」
上目遣い越しに俺をみつめる女の顔を俺は覚えていた。
全てを理解した俺はある一つの考えを思いつく。
「あ~悪ぃ悪ぃ、、ちょっと忙しくてさ。…で?ここでは何をしてるんだ?」
笑いたくもない顔を無理に動かして、印象をよくさせるために笑顔を貼り付ける。
「お父様にお願いしてね、繫華街に遊びに出ていたの。ほら、私って可愛いから一人で出歩くと直ぐに殿方に絡まれちゃって。お父様がなかなか家から出してくれなかったんだけど、でも白夜様が一緒なら安心ですわ♡」
女は何を勘違いしたのか再び腕を絡めてくる。
「そうだわ!ねえ白夜様、これから一緒にデートしましょう?ここで会えたのも婚約者ゆえのご縁だと思っていますの。私、実は欲しいものがあって~」
わざとらしく甘い口調で話す彼女をニコニコと見つめた。
「ふ。…いいぜ、行こうかデート」
「え~ホント⁈」
「ああ、俺も仕事のせいか中々会えなくて寂しかったし。埋め合わせって意味ではいい機会かもな」
そう言えば女は顔をパーッと明るくさせて体を更に俺へと密着させる。大きな谷間の胸を見せているつもりだろうが全くもって靡かない。
「あ、でも一つだけ頼みがあんだけど」
「んん?なぁにぃ~」
「お前の親父に会わせてくんね?」
「え?お父様に?」
女はその問いかけに目を丸くした。
「暫く会えてねぇし。挨拶ぐらいしとかなきゃと思ってな。…これから世話になるわけだし」
俺が言えば女は納得したのか嬉しそうに頷いた。
「ふふ、そうね。いずれは私も鬼頭家に嫁ぐわけだし。いいわ!でもデートが先ね♡」
グイグイと腕を引っ張っられれば、俺はおっえっと心の中で舌を出した。