唐突なお願いに内心焦ってしまう。
簪を外せば自分の正体が知られてしまう。
故に絶対にこの簪は外せない。
反応に困っていれば男性は笑ったままだ。
視線は未だ時雨の顔に向けられ、何を考えているのか分からない、その不気味なほど違和感の残るオーラに鳥肌が立つ。
「えっと…」
今ここで素直に外せば人間であることがバレる。
彼はこの部屋に通常妖は入れないと言った。だが彼もまた妖。にも関わらず結界の中に入って来たということは、それなりの力を有するということ。漂う気配も美しい容姿も鬼頭家並で他とは格段に違う。時雨は一気に警戒モードに入る。
「君はさ、本当に鬼神君の知り合いってだけなのかい?」
暫くして口を開いた彼がそんな質問をしてくる。
時雨はその質問にも戸惑い、男性を直視できずにいた。だがそれだけで向こうからしたら答えなのだ。彼の目の色が変わったことに時雨は気がつかなかった。そうしてゆっくりと時雨の首元に顔を近づければ、次の瞬間、スンっと匂いを嗅ぎだす。
「いやっ!」
「…っと、失礼」
突然の行為にビックリしてしまい、慌てて彼の胸を力いっぱい押し返せば案外すんなりと離れてくれた。
「いや~ごめんごめん。どうにも甘ったるい匂いがしたもんだから、つい♡」
「甘い匂い?」
少し苦しそうに鼻をすする姿を不思議に思い見つめる。
甘い匂いなんて自分では分からない。
香水もつけていない筈なのに変だ。
自分の体を確認するよう匂いを嗅いでみるも、彼の言う甘い匂いなんて一切しない。
「あ~くさい。臭くてたまんないや。意識してたら持ってかれる。嫌でも鼻につく匂いだ…はぁ////沈めないと♡~」
「…失礼ですが、私には何も感じません」
「うそ~⁈そんなベッタリ彼の匂いくっつけといて。よく今まで無事だったね。そこらの妖なら致死量レベルにやばいよ」
「そんなにですか?」
「言わばマーキング。強い生き物が自分の所有物につける行為さ。君が強く寵愛されてる証拠だ。同時にマーキングは周りを牽制し、誰のものであるかを知らしめる行為にもなる」
そんなことをされていたなんて、、、
でも確かに…ハッキリと意識してなかっただけで妖から視線を感じる時はあった。今考えたらグプス君が初対面でジッと見てきたのも…もしかしたら、その匂いが原因??
だが妖達が特別何かをしてくることはなかった。
それだけ自分が強い相手にマーキングされていると、それを匂いから感じ取られていたということなんだ。
「でもさ~本当に鬼神君は君を溺愛しているのかな?」
不意に彼はどこか確信をつくかのような顔でニヤリと笑った。
それには時雨もドキリと反応してしまう。
今の顔は実に不気味でできることなら早く逃げ出してしまいたかった。
「君からその匂いがしている内は誰も君に手は出せない。妖にも神にも寵愛された君に攻撃なんて。そんな恐ろしいこと…そう考えれば君は大人しく野放しにされていい存在ではないと僕は思うんだ」
「…」
「僕、見ちゃったんだよね~彼が他の女とイチャつく姿。それもつい昨日」
「!!」
「後ろ姿だけだけど。でも華街に入って行く彼をハッキリと見た。あそこは妖都と鬼頭家の地の中間地点だし。色恋沙汰問題が多発することでも有名」
時雨はその話に目を見開く。
白夜様が他の女性とそんな場所に??
さっき出会った彼女の姿が脳裏をチラつく。
本当に…本当なの?
だとしたら、彼女が言っていたことは全て事実になる。
(噓、噓よ。だって、、)
「自分はこんなにも愛されてるし、浮気なんて有り得ない?はは、随分と優しい思考回路だ……でもね、忘れちゃだめだ。彼が鬼頭白夜であることを」
「!!」
彼は追い打ちをかけるように更に話を切り出す。
「鬼神の生まれ変わり。そんな彼が誰か一人のために何かを犠牲にするなんて。そんな甘い考えこそ間違いなんだ。彼が君の心に寄り添っているなんて本気で思ってる?」
その問いに啞然としてしまえば声が出ない。
否定したいのに…声が出ないのだ。
彼の言葉が嫌でも体に突き刺さる。
「彼は他者に何の期待も感情も持たない。冷酷非道で孤高に佇む。闇に生きる死神だ。でもそれこそが隠世が認めた彼であって、これから先もそれが変わることはない。現に愛されていると信じた結果がこれだ。今だって彼は別の女と一緒にいる」
君ではない…別の女、、と。
笑って話す、彼のその言葉を耳で塞いだ。
やめて…違う、そんなことない。
白夜様は自分を好きで愛してくれている。
これは間違い…間違いなんだ、、、
「ふふっ(笑)。さっきも言ったけど、」
彼は優雅な足取りで目の前にやってくれば、再び視線を簪に向けた。
「その簪、強力な力が籠られているね。君がここに無事辿り着けたのも、君の存在を隠す為に鬼神君が細工したものとみた」
「!!」
「おや、図星かい?その様子じゃどうやら気づいたみたいだね。そうだよ、僕は初めから君の正体に気づいていた。簪で身を守っていたとはいえ、僕にとっては全てがお見通しさ」
獲物を狙うような目付き。
ぺろりと舌なめずりをする姿。
一体この人は、、、何者なの?
時雨はカタカタと体を震わせ、自身の身の危険を察知する。
今まで会ってきたどんな妖相手より、正直彼が一番ヤバイことだけは分かったからだ。
「鬼頭家に嫁入りした娘の噂は聞いていた。でも正直…あの唯我独尊・完全無欠の鬼神相手じゃ、、もって一か月ぐらいだと思っていたのに。勘が外れたなぁ~…時雨ちゃん、君は僕達の期待を大きく裏切ってくれたんだよ♡」
「…僕たち?それって…!あ、、、」
抵抗する間もなく、彼は頭にある簪を引き抜けば奪い取ってしまった。
「あっはは!!やっぱりね!見なよ時雨ちゃん。君の正体、この瞳にバッチリ映ってるよ」
「か、返して!!」
慌てて簪を取り返そうにも背が高いせいか手が届かない。
必死に手を伸ばし半泣きな時雨を前に、彼は面白そうに観察していた。
「まあまあ…ね、これで分かったでしょ?所詮、こうして君の姿がバレたとこで鬼神君は助けにも来ない」
「!!」
「寵愛まで受けてて変だね~あ、もしや新しい彼女に乗り換えでもされたかな?」
「…ち、違」
「君はもう要らなかったりして」
その言葉が心を折るには充分だった。
ついに何も言えなくなった時雨の前には真っ暗な闇が広がる。
「あはは、いいね~♡その絶望で染まった時の顔、実にゾクゾクする。まあでもそろそろ頃合いかな、、」
いつの間に取り出したのか、彼の手には一枚の呪符があった。
時雨は何かもの凄く嫌な予感がした。
「君にとっては楽しい時間、幸せなままでいたかっただろうけど。その幸せを最初に裏切ったのは他ならぬ彼自身。なら君がここにいる必要はもうないと思うんだけど…いかがかな?」
「何をするつもり?」
「…僕もね、本当はこんなこと可愛いレディへしたくはないんだ。君を連れて帰って鬼神の代わりに愛でることもできる。でも君を思えばこそ。君にはまだまだ僕を楽しませて貰いたい」
ーーリン!!
聞いたことある音色が辺りに響き渡る。
そうして襲い掛かるのは強い眠気。
あの時と…同じ匂いがした。
「やあ時雨さん。この間ぶりだね」
意識が落ちる寸前、視界に入った金髪の男。
ふわりと風をひと撫でするように、足音一つ立てず彼はいた。
「約束通り、君を迎えに来たよ。今はいい子だから、このままお眠り」
ふわりと頭を撫でられれば眠気は限界を超えた。
最後に考えたのは白く美しい大好きなあの人。
白夜様、、、
発した言葉は声にならず、時雨は深い闇へ飲み込まれていく。
「ようこそ藤の宮へ」
簪を外せば自分の正体が知られてしまう。
故に絶対にこの簪は外せない。
反応に困っていれば男性は笑ったままだ。
視線は未だ時雨の顔に向けられ、何を考えているのか分からない、その不気味なほど違和感の残るオーラに鳥肌が立つ。
「えっと…」
今ここで素直に外せば人間であることがバレる。
彼はこの部屋に通常妖は入れないと言った。だが彼もまた妖。にも関わらず結界の中に入って来たということは、それなりの力を有するということ。漂う気配も美しい容姿も鬼頭家並で他とは格段に違う。時雨は一気に警戒モードに入る。
「君はさ、本当に鬼神君の知り合いってだけなのかい?」
暫くして口を開いた彼がそんな質問をしてくる。
時雨はその質問にも戸惑い、男性を直視できずにいた。だがそれだけで向こうからしたら答えなのだ。彼の目の色が変わったことに時雨は気がつかなかった。そうしてゆっくりと時雨の首元に顔を近づければ、次の瞬間、スンっと匂いを嗅ぎだす。
「いやっ!」
「…っと、失礼」
突然の行為にビックリしてしまい、慌てて彼の胸を力いっぱい押し返せば案外すんなりと離れてくれた。
「いや~ごめんごめん。どうにも甘ったるい匂いがしたもんだから、つい♡」
「甘い匂い?」
少し苦しそうに鼻をすする姿を不思議に思い見つめる。
甘い匂いなんて自分では分からない。
香水もつけていない筈なのに変だ。
自分の体を確認するよう匂いを嗅いでみるも、彼の言う甘い匂いなんて一切しない。
「あ~くさい。臭くてたまんないや。意識してたら持ってかれる。嫌でも鼻につく匂いだ…はぁ////沈めないと♡~」
「…失礼ですが、私には何も感じません」
「うそ~⁈そんなベッタリ彼の匂いくっつけといて。よく今まで無事だったね。そこらの妖なら致死量レベルにやばいよ」
「そんなにですか?」
「言わばマーキング。強い生き物が自分の所有物につける行為さ。君が強く寵愛されてる証拠だ。同時にマーキングは周りを牽制し、誰のものであるかを知らしめる行為にもなる」
そんなことをされていたなんて、、、
でも確かに…ハッキリと意識してなかっただけで妖から視線を感じる時はあった。今考えたらグプス君が初対面でジッと見てきたのも…もしかしたら、その匂いが原因??
だが妖達が特別何かをしてくることはなかった。
それだけ自分が強い相手にマーキングされていると、それを匂いから感じ取られていたということなんだ。
「でもさ~本当に鬼神君は君を溺愛しているのかな?」
不意に彼はどこか確信をつくかのような顔でニヤリと笑った。
それには時雨もドキリと反応してしまう。
今の顔は実に不気味でできることなら早く逃げ出してしまいたかった。
「君からその匂いがしている内は誰も君に手は出せない。妖にも神にも寵愛された君に攻撃なんて。そんな恐ろしいこと…そう考えれば君は大人しく野放しにされていい存在ではないと僕は思うんだ」
「…」
「僕、見ちゃったんだよね~彼が他の女とイチャつく姿。それもつい昨日」
「!!」
「後ろ姿だけだけど。でも華街に入って行く彼をハッキリと見た。あそこは妖都と鬼頭家の地の中間地点だし。色恋沙汰問題が多発することでも有名」
時雨はその話に目を見開く。
白夜様が他の女性とそんな場所に??
さっき出会った彼女の姿が脳裏をチラつく。
本当に…本当なの?
だとしたら、彼女が言っていたことは全て事実になる。
(噓、噓よ。だって、、)
「自分はこんなにも愛されてるし、浮気なんて有り得ない?はは、随分と優しい思考回路だ……でもね、忘れちゃだめだ。彼が鬼頭白夜であることを」
「!!」
彼は追い打ちをかけるように更に話を切り出す。
「鬼神の生まれ変わり。そんな彼が誰か一人のために何かを犠牲にするなんて。そんな甘い考えこそ間違いなんだ。彼が君の心に寄り添っているなんて本気で思ってる?」
その問いに啞然としてしまえば声が出ない。
否定したいのに…声が出ないのだ。
彼の言葉が嫌でも体に突き刺さる。
「彼は他者に何の期待も感情も持たない。冷酷非道で孤高に佇む。闇に生きる死神だ。でもそれこそが隠世が認めた彼であって、これから先もそれが変わることはない。現に愛されていると信じた結果がこれだ。今だって彼は別の女と一緒にいる」
君ではない…別の女、、と。
笑って話す、彼のその言葉を耳で塞いだ。
やめて…違う、そんなことない。
白夜様は自分を好きで愛してくれている。
これは間違い…間違いなんだ、、、
「ふふっ(笑)。さっきも言ったけど、」
彼は優雅な足取りで目の前にやってくれば、再び視線を簪に向けた。
「その簪、強力な力が籠られているね。君がここに無事辿り着けたのも、君の存在を隠す為に鬼神君が細工したものとみた」
「!!」
「おや、図星かい?その様子じゃどうやら気づいたみたいだね。そうだよ、僕は初めから君の正体に気づいていた。簪で身を守っていたとはいえ、僕にとっては全てがお見通しさ」
獲物を狙うような目付き。
ぺろりと舌なめずりをする姿。
一体この人は、、、何者なの?
時雨はカタカタと体を震わせ、自身の身の危険を察知する。
今まで会ってきたどんな妖相手より、正直彼が一番ヤバイことだけは分かったからだ。
「鬼頭家に嫁入りした娘の噂は聞いていた。でも正直…あの唯我独尊・完全無欠の鬼神相手じゃ、、もって一か月ぐらいだと思っていたのに。勘が外れたなぁ~…時雨ちゃん、君は僕達の期待を大きく裏切ってくれたんだよ♡」
「…僕たち?それって…!あ、、、」
抵抗する間もなく、彼は頭にある簪を引き抜けば奪い取ってしまった。
「あっはは!!やっぱりね!見なよ時雨ちゃん。君の正体、この瞳にバッチリ映ってるよ」
「か、返して!!」
慌てて簪を取り返そうにも背が高いせいか手が届かない。
必死に手を伸ばし半泣きな時雨を前に、彼は面白そうに観察していた。
「まあまあ…ね、これで分かったでしょ?所詮、こうして君の姿がバレたとこで鬼神君は助けにも来ない」
「!!」
「寵愛まで受けてて変だね~あ、もしや新しい彼女に乗り換えでもされたかな?」
「…ち、違」
「君はもう要らなかったりして」
その言葉が心を折るには充分だった。
ついに何も言えなくなった時雨の前には真っ暗な闇が広がる。
「あはは、いいね~♡その絶望で染まった時の顔、実にゾクゾクする。まあでもそろそろ頃合いかな、、」
いつの間に取り出したのか、彼の手には一枚の呪符があった。
時雨は何かもの凄く嫌な予感がした。
「君にとっては楽しい時間、幸せなままでいたかっただろうけど。その幸せを最初に裏切ったのは他ならぬ彼自身。なら君がここにいる必要はもうないと思うんだけど…いかがかな?」
「何をするつもり?」
「…僕もね、本当はこんなこと可愛いレディへしたくはないんだ。君を連れて帰って鬼神の代わりに愛でることもできる。でも君を思えばこそ。君にはまだまだ僕を楽しませて貰いたい」
ーーリン!!
聞いたことある音色が辺りに響き渡る。
そうして襲い掛かるのは強い眠気。
あの時と…同じ匂いがした。
「やあ時雨さん。この間ぶりだね」
意識が落ちる寸前、視界に入った金髪の男。
ふわりと風をひと撫でするように、足音一つ立てず彼はいた。
「約束通り、君を迎えに来たよ。今はいい子だから、このままお眠り」
ふわりと頭を撫でられれば眠気は限界を超えた。
最後に考えたのは白く美しい大好きなあの人。
白夜様、、、
発した言葉は声にならず、時雨は深い闇へ飲み込まれていく。
「ようこそ藤の宮へ」



