白鬼の封印師 二

「あれ?談話室?」

アヅチに案内されるがまま奥へと進めば、そこは図書室とは空気が一変、薄暗い談話室のようで中央にはソファーや机が配置されモダンな造りをしていた。

ーーしぐれ、こっち!

アヅチが示した棚に近づけばそのうちの一冊を手に取る。
術家と仙狐の歴史。
表紙に書かれた題名を指でなぞる。
ここにきて術家というワードを目にして謎に緊張感が走ったが、意を決して恐る恐るページを開こうとする…が?

「あれ?」

ーーどうしたの?

「ページが…開けない」
「こ~ら♡」
「!!」

突然、背後からは声がすると影がかかった。
気配を感じなかった!!
驚き動けないでいる時雨を無視して、声の主は背後から腕を伸ばせばそのまま本を奪い取ってしまう。

「これは君のような子が触っていいものじゃないよ」
「あ、」

本を奪われ声を漏らすも、ふと我に返り慌てて振り向けば、そこにいたのは片手を棚についてこちらを見下ろす一人の男性。銀色の長髪に金色の瞳が怪しく光る、片目に眼帯をつけたとても美しい容姿をしていた。

「…術家と仙狐の歴史ねえ~」

手に持つ本をチラリと見れば男性はポツリと呟く。
どうしたらいいのか分からず、かと言って納得のいく言い訳も思い浮かばず黙って見つめることしかできない。ふと目が合えば彼はニンマリ笑ってこちらを見つめる。

「こんな古い本、もう誰も見ないものとばかり思っていた。どうやらそれも思い違いだったようだ」
「あ、あの」
「ん~?」
「も、申し訳ございません!」

本を棚に戻した彼に頭を下げる。
それには彼も不思議そうな顔をしていた。

「許可なくここに入ってしまって。立ち入り禁止って書かれていたのに…」

きっとこの人、ここの管理人で見回りに来たに違いない。
タイミングが悪すぎた。
運悪く見つかってしまったわけだから、時雨は素直に謝るしかないなと覚悟を決めた。

「別にここへ入ったことについて怒ってはないよ?だから頭をあげなよ」

だが予想外にも笑い声が聞こえれば、彼は怒ることなく笑っていた。
時雨は拍子抜けだった。

「怒らないのですか?」
「怒る?別に素直に謝ってくれたんだし。反省してるんだろう?それに…可愛いレディーを前に怒らない主義なの♡」

目を細めて放つ言葉は妙に色気がある。
顔が良すぎるせいか、見られると反応に困ってしまう。
垂れ目に優男の雰囲気で女性慣れしてるのか、危ない男を前に口説かれているようにしか聞こえない。間違っても白夜様とは正反対なその性格が、時雨にとっては余計戸惑ってしまう。

「ここ、君も知っていると思うけど関係者以外入れないの」
「…はい」
「万が一にも妖が入っちゃうと厄介だから!念には念をと思ってね。ここにある本は関係者以外が開くことはできない仕組みになってるんだ」
「え、、、」

なら例えここに入れたとしても、ここにある本は見れないの?
禁忌の書庫を漁りに来たイメージで言えば、やはりそれなりの誓約が本にかけられていてもおかしくはない。それを聞いた時雨はガッカリしてしまった。

「ふふ、何か知りたいことでもあったかい?」

男性は落胆する時雨に笑顔を向ける。
彼が笑うたび、手入れの行き届いた髪がサラリと揺れた。

「いえ…何も。少し気になって覗いてしまっただけなんです」

慌てて頭を横に否定する。
ここに来れば何か知れると思ったけど、やはりそう簡単にいく筈もない。
まだ怒られなかっただけ運がいい。
詳しい説明は言わないでおこうと、急いで部屋を後にしようと足を動かす。だが男性がすかさず目の前に立ち塞がった。

「でも変だな~。ここ普通の妖ならまず通れないし~?ましてや鬼神君や王家でもない限り、通れない筈なのに」
「!!」
「さてここでクエスチョン!君は一体何者なのかな?♡」
「っ、、」

男性は興味深そうにこちらに視線をやる。
自分の姿を舐めるように観察してくれば、嫌でも冷や汗が出る。
不味い…人間であることは絶対にバレてはいけない。
それはここに来る時、何度も白夜様に注意されていたこと。
簪はちゃんとあるし、呪符もある。
きっと大丈夫だ。

「私…は、白夜様と知り合いなんです」

咄嗟に出た言葉はそれだった。
間違ってはいない。
自分は鬼頭家に嫁ぎ、白夜様の花嫁となったんだから。

「鬼神君と?」

彼は時雨の口から白夜の名前が出れば驚いていた。

「はい、さっきまで一緒に居たんですがはぐれてしまって。仕方なく一人で探索してたらここに迷い込んでしまったんです」

噓は言ってない。
探索してたのは事実であって、迷い込んだのはアヅチの存在が大きかったから。
まあ「白夜様と!」というのは嘘になる…が。
グプス君…今頃待っているだろうな。
早く戻らないと。

「火の玉に赤い髪飾り…後は、、ああ…ふふっ(笑)なるほど…。確かに君からは何か強い気配がするねぇ~」

彼は時雨の肩で静置するアヅチ、次に頭に刺された椿の簪へ目を移す。

「特にその髪飾り、随分と強い妖力が込められているね。鬼神君が君に送った物なのかな?それにしても強力だ…実に興味深い」

目を細めれば、コツコツとこちらに向かって歩いてくる。
それに嫌な予感がして一歩ずつ彼から距離を取る。

(相手は妖、何かされても自分に勝ち目はない)

冷静にこの状況をどうしようか考えながら、少しでも相手と距離を取ろうと後退するも直ぐ後は棚。行き止まりを喰らえば目の前には男性が立ち塞がった。怖い…金色の瞳がコチラを見下ろせば体は縮こまってしまう。

「あぁ//そんなに怯えないでよ。別に取って喰おうなんて趣味はないんだ。ただ可愛い君を知りたいだけなんだよ、僕は」
「私を?」
「そ☆こ☆で☆だ!その簪、外してみてくれないかな?」