それにしてもなんて大きな図書館だろう。
階にして五階、ここではどこへ行っても多くの本が尽きることはない。各階のフロアやコーナーにはソファーやカフェなんかも用意されていて休むこともできる。
「あれ?ここはなんだろう」
五階まで上がり進んだところで立ち入り禁止区域の場所を見つけ立ち止まる。関係者以外の立ち入りが認められてないのか、向こう側とこちらを隔てる境界には結界が張り巡らされていて向こう側はよく見えない。
これ以上は進めそうにない。
「どうやらここで行き止まりのようね」
諦めて引き返そうとするとアヅチが向こう側へ飛び込んでしまいビックリしてしまう。
ーーしぐれ!入れそうだよ
アヅチはためらうことなくスーッと結界の中に入れば向こう側から声をかけた。
「すごい、鬼火は通れるのね!」
ーーしぐれも来なよ!
「私?でもいけるかな…」
ーー大丈夫!この結界は妖にのみ有効だから人間のしぐれなら効かない。
半信半疑ではあるがアヅチがそう言うなら。
でもここって関係者以外は入っちゃいけないとこなんじゃ…
ーーしぐれ、こっちに術家の本が置いてある。
「え!!ホントに⁈」
アヅチはユラユラと近くの本棚まで行けばそう教えてくれる。やっとお目当ての本が見つかったのに結界の向こうだなんて。
でもここを潜れば本が見られる。
もう入ってしまおうか。
いやだめだ、もし勝手に入ったことがバレたりでもしたら。頭では天使と悪魔が互いにぶつかり合っていた。
ーーおいでよ、バレなきゃ大丈夫。それにグプスだってよくここ入るよ。
「グプス君が⁉」
彼がここに入るってことは関係者って言うのは彼のこと?でなければこの結界は通れないはずだし。
ーーしぐれ、術家のこと知りたいんでしょ?
「うう…な、なら少しだけ」
少しだけなら入っても大丈夫よね?
見つかりそうになったら早く出ればいい。
覚悟を決めてゆっくりと恐る恐る体を結界に通してみる。するとスーッと体は結界に吸い込まれるようにして向こう側へと抜けていく。
「あれ、なんか案外簡単に通り抜けちゃったけど、、」
ーー妖ならそうもいかないよ。でもしぐれは特別だから結界も平気なんだね。
「特別?どんなふうに?」
ーー少なくとも普通の人間とは違って、君からは優しい神気を感じるよ。
神気?あ、それって、、、
私は裾をまくると腕に巻き付く彼の存在を確認する。
小さな体でとぐろを巻いてスヤスヤと眠りこける彼こそが四神の一つを司る青龍。
今はこの姿だが昨日までは人の姿だった。
ーーそいつは神獣??神聖な聖地でしか生きられない彼らがこんなとこにいるだなんて…
「私の眷属よ。契約して加護を受けてるから私は邪気に侵されることはないけど。でも彼には代償が大きいのかもね」
ーーそれはそうだよ!だって今の彼、凄い弱体化してる。
「え!弱体化??」
アヅチは青龍の近くにやってくると心配そうに彼の様子を観察し始めた。
ーーふ~む、、ここは妖都だから邪気も強くて大変なんだって。今は眠ることしかできないって言ってるよ。
「アヅチ、青龍さんとお話できるの?」
ーーうん、意思疎通がはかれるよ。暫くは起きられない、しぐれ守れない!って凄い悔しそうにしてる。
「そうなんだ…」
青龍さん…やっぱり無理してたんだ。
昨日は宿に着いた途端に少し休みますとだけ言って青龍に戻っちゃったから。ずっと起きずに不思議だとは思っていたけど、まさか弱体化してただなんて。
ーーしぐれ、彼は何も気にするなって言ってるよ。
「え、」
ーーもう少しで回復できる。だからそんな悲しい顔しないでって。
「青龍さん…」
うう…ごめんね。
回復したらたくさんお話しようね!!
だから今は気にせずにいっぱい休んで。
ーー後、回復したらそのケチな石ころはドブに流すってさ。
「え」
ーー何でもさっきの女が言っていたことを相当怒ってるみたいで…え?なになに?
「ん?どうしたの?」
ーー…あの鬼は八つ裂きにするって変に張り切ってるよ。
「へ、へえ…」
あれ?意外と青龍さん元気??
弱体化で眠っているって言ってたから心配していたけど。
何故だろう…妙に話の内容しか頭に入ってこない。
それにケチな石ころってこのネックレスのこと??
回復したら白夜様に何するつもりなのか、、、これは心配だ…