白鬼の封印師 二

受け付けに本を返却すればコーナーの多さにビックリ。
建物は三階建てで階段を上がり奥に進むほど本の数は多く、開けた場所には本を読んだり調べたりできる共有スペースが広がっていた。天井からは照明ランプが部屋全体を照らし、昼間の時間から多くの妖達が利用している。

「それじゃ、僕は本を借りに別のコーナー行くけど。時雨はどうする?」
「私も色々と探しに行ってみる。あ、でもどこかで落ち合わないとダメだよね」

こんなに広いんだもん。
もし迷子になったら…その前に宿への帰り方が分からない。

「あの…申し訳ないんだけど宿までの帰り方が分からなくて。送って貰えたりって…」
「いいよ。特別に送ってあげる」
「え、ホントに⁉ありがとう!凄く助かる!」

グプス君は非常に無口な子供だけど案外優しい。
これで帰りも安心だ。

「じゃあ用事が済んだらここ集合。待ってるから」
「でもグプス君がどこにいるのか分からないよ」
「大丈夫、こいつがいるから」

そう言うと何やら手の平を広げたグプス君。
一つの火玉を出せば、火玉はユラユラと薄い青色に光りゆっくり自分に近づき肩の位置で静止する。

「それ僕の鬼火。ソイツに聞けば僕のとこまで案内してくれるから」
「へ~凄いね。なんか可愛い♡」

鬼火か~グプス君も子供ながら術が使えるんだ。
そう言えば前にお香さんも同じようなのものを出していたっけ?

ーーし…し…

「え?」
「どうしたの?」
「なんか今、声が聞こえたような、、」

気のせいだろうか。
決して大きくはないが確かに声が聞こえたような。

「声?別に何も聞こえなかったけど」
「そう?なら気のせいかな。あ、じゃあこの子、借りてくね!」

時雨達は二手に別れるとそれぞれのコーナーを回った。
とりあえず片っ端からコーナーを見て回ろうと、手始めに一番近くのコーナーに入ってみる。
古代魔法学、薬の知恵袋、鳩の飛行術。
なんだかよく分からない本のタイトルがいっぱいだ。現世では通用しないことが隠世では当たり前に起こったりもするから、並べられた本の内容すら妖にとってはなんら驚くものでもない。
それにしても変わったジャンルの本が目立つ。

「うーん…どれも難しい本ばっかり。でもお目当ての本はなかなか見つからない…」

時雨が探しているのは術師と異能について。
だが暫く探すために散策するもやはり見つからない。
現世と隠世では生きる時空にズレがあるのか、双方に直接的な接触は起こらないせいで隠世では現世に関する知識は少ない。やっぱり隠世で現世の情報を入手するのは厳しいか。

ーーし、しぐ…しぐれ

まただ。
またあの声…気のせいなんかじゃない。

ーーしぐれ、しぐれ

「誰??どこにいるの?」

見渡しても誰もいない。

ーーここ、ここだよ

声の主は時雨の直ぐ近くを浮遊する鬼火から聞こえてくる。

「あれ?もしかして…この声の正体って鬼火さん??」

ーーうん、そうだよ

「鬼火が喋った!?」

時雨の声に鬼火はユラユラと嬉しそうに揺らめいた。

ーー僕の声が聞こえるんだ!嬉しいな~こんな子初めてだ。僕はアヅチ

「私は久野時雨」

ーー久野?それはこの世界の名前ではない

「うん。実は私、妖じゃなくて人間なの」

ーー!!人間?人間がどうしてここにいるの?

アヅチは不思議そうに揺らめいた。

「私は鬼頭家の花嫁。久野家という術家から渡ってきたの。そして白夜様の元に嫁入りしてきたの」

ーー術家の花嫁?じゃあ君は鬼神の花嫁なんだね!

「…ふふ、そうだといいな」

どうしてアヅチからの問いに自信をもって答えられないのだろう。
それはきっとさっきの女性に言われた言葉が頭に染み付いているせい。
白夜様は確かに自分を花嫁として認めてくれた。
だから心配する必要なんかない。
それは彼自身が自分に何度も言い聞かせてくれた。
でも、、、

ーーしぐれ?どうしたの?

「…ううん、何でもないよ」

アヅチが心配そうに顔元に寄って来る。
ほんのりと肌に感じたアヅチからの温かいオーラ。

「…別の場所へ移動しようか。お目当ての本は無さそうだしね」

心はどこかぽっかりと空洞が空いたままスッキリはしなかったが、気持ちを入れ替えれば再び別のコーナーに向かった。