白い石に閉じ込められた紫の光。
まるで白夜様みたい。
ふいにそんなことを考えてしまう。
「綺麗でしょ?白夜様がくれたの」
「白夜様?それって、あの?」
グプス君は彼の名前にびくりと反応すれば眉をひそめた。
「うん。お守りに持っとけって」
「ふーん、あいつも酷なことするね」
「酷?グプス君、白夜様のこと知ってるの?」
「逆に知らない奴なんていないでしょ」
そっか、やっぱりどこにいても白夜様は有名人だ。
まあそれもそうか、鬼神様と称されるだけあって彼の存在感は絶大な人気を集めているからな。
でもさっきの話は本当なの?
彼女は白夜様を自分の彼氏だと、付き合っているとはっきりそう言っていた。であれば白夜様はずっと前から付き合ってることを私に隠していることになる。
だとすれば私は、、、もうずっと前から彼に騙されていたということ。
「どうしたの?」
「あ、ううん。なんでもない!」
不思議そうに私を見つめるグプス君に慌てて笑顔で誤魔化す。
まあでもそんなの決まったことではないんだから。
今は落ち着くのよ私。
「そういえばその手にあるのって本?」
見ればグプス君の羽織りの裾からは一冊の本が覗いていた。
「え?あ、まあ。図書館のだけど」
「図書館?え、それってどこの??」
「妖都都立文庫書館」
なんと!!
これはいい話を聞いたぞ。
鳳魅さんから聞いて滞在中に行ければいいななんて思っていたとこだ。白夜様が不在の中で一人で行くには場所も分からないし半ば諦めていたが。
「もしかしてこれからそこに行くとか?」
「うん、これ返しにね。…なんで?」
「私も行っていい⁈」
一人ならダメだと諦めるとこ、でもグプス君が一緒なら大丈夫だろう。ネックレスの効果もあってかここに来るまで周りには自分が人間であるということもバレてはいない。調べなければならない情報はなるべく自分一人で確かめたい。術師と術師だけが持つ異能の関係を。
「ダメ…かな?」
おずおずとグプス君に問えば、彼はすっと顔を背けた。
「…別に。来たいなら来れば?」
「ほんと!ありがと!!」
やった!これで図書館に行ける。
さっきのことは気になるけど今はこっちに集中することにして。
夕方までには戻って来れば大丈夫だろう。
行くだけ行って、さっさと調べたら戻って来ればいいし。せっかくグプス君とも知り合えたのだから。
「気になってたんだけど、グプス君って角があるけど鬼なの?」
図書館に向かうまでの道中、グプス君は特に話すこともせずに黙って歩くので気まずくなった私が話題を振ることにした。彼の頭には可愛らしい角が二つ生えていたため気になっていたのだ。
「…うん」
「そうなんだ!でも角が黒だなんて珍しいね」
鬼頭家は鬼族の中でも黒鬼族であるが角は白でいたってシンプルだ。
「同じ鬼でも鬼頭家とは違うんだね」
「まあ、鬼とはいっても僕は封鬼(ふうき)だから」
「封鬼?鬼頭家とはどう違うの?」
「彼らは黒鬼。今尚この国を支配する王家一族・百目鬼の血筋を少なからず受け継いだ最後のとりでであると同時にその力はトップ。その印があの漆黒の髪に真っ赤な血の瞳だよ」
そういえばここに来てからは、鬼の妖には出会えどそういった特徴の妖は見ていない。あの美しい容姿は鬼頭家だけが持つ特有のものというわけか。
「僕は本来ここにいちゃいけないんだ」
「どういうこと?」
私が不思議になってグプス君を見れば、彼は猫背よりな姿勢で静かに歩き進めればやがてポツリと声をこぼした。
「封鬼って言ったけど、それは周りが僕をそう呼んでるだけ。普段は周りの目もあって外にも出れないからウンザリしてんだよね」
「出れないってどうして?」
「僕が封鬼だからだよ」
どういうこと?
封鬼だから外には出れない?
グプス君の言っていることがよく分からない。
「あのさ…グプス君のその額にあるのって、その封鬼とは何か関係あったりするの?」
長い髪のせいでよくよく見ないと分かりにくいが、それでも僅かに開けたおでこには『封』と書かれた一枚の札が貼られていた。
最初はただのヘアバンドかとも思っていたのだが。
「妖であるうえで重要なこと、君は何か知ってる?」
暫くしてグプス君は立ち止まると、髪越しにジトリとした目をこちらに向けた。猫目が特徴的な青いその瞳はどこか自分を観察しているように思えてゾッとした。
「それは第三の眼って奴」
「え?どういう…」
「ほら、着いたよ」
ハッと前を向けばそこには大きな建物が建っていて、看板には図書館の名前が書かれていた。
正面にはこれまた大きな正面玄関が私達を構えている。
「わあ凄い、大きいね!」
「まあ妖都でも一番の図書館だからね」
グプス君は興奮気味に図書館を見つめる私にふっと笑えば中に入っていくので続くようにして自分も中に入る。