白鬼の封印師 二

結局、あの人は何だったのか最後まで分からなかったが、この呪符は式神達と引き換えに貰ったのだ。すっかり存在を忘れていた。

「これ貰い物なんだ。でも使い方とかは分からなくて…あ、でもコッチは白夜様から貰ったものなんだよ!」

それとは反対の鬼頭家のまじない札を見せる。
一見すれば普通の札。
表に鬼頭家の紋章が浮かんでいる以外は。

「白夜?それってあの?」
「多分その認識で合ってると思う。お守りなんだって。今はお仕事で近くにいないから」

グプスは彼の名前に反応するも眉をひそめる。

「ふーん…酷だね」
「酷?グプス君も白夜様のこと知ってるの?」
「逆に知らない奴いないでしょ」

そっか、やっぱりどこにいても白夜様って有名人だ。
まあ鬼神様と称されるだけあって存在感は絶大だしな~人気があるのも頷ける。
でもさっきの話は本当なの?
彼女は白夜様を自分の婚約者であると語っていた。
昨日はデートをして縁談まで話が通っていると。
であれば白夜様はもうずっと前から付き合ってる事実を自分に隠していることになる。
だとすれば私は、、、
ああダメだ…最近は直ぐ悪い方向へ考えを広げてしまう。

「どうしたの?」
「あ、ううん。なんでもない!」

不思議そうに見つめるグプス君に慌てて笑顔で誤魔化す。
でもそんなの決まったことではないんだから。
今は落ち着け。
時雨は自分にそっと言い聞かせた。

「そういえばその手にあるの…もしかして本?」

さっきから気になっていたのは、グプス君の羽織りの裾から覗く一冊の本。

「本読むんだね!」
「図書館のだけどね」
「図書館?…え、それってどこの??」
「…妖都都立文庫書館」

なんと!!これはいいことを聞いた。
鳳魅から聞いて滞在中に行きたがっていた場所。
白夜不在の中、時雨一人で行くには場所も分からないし半ば諦めていたところだったが、彼はそこで本を借りてよく読んでいるというではないか。

「もしかしてこれから図書館行ったりとか…」
「まあ…これ返しにね。なんで?」
「私もついて行っていい⁈」

つい前のめりに聞いてしまえば、向こうはギョっとした顔で数歩後退する。周りには自分が人間であることを悟られてはならない。それに加えてここは妖都。最も人間の時雨にとって危険な場所なのだ。だが簪の効果でバレてはいない。調べたい情報の可能性がそこにある限り、どうしたって確かめたい。
術師だけが持つ異能の関係を。
母のいた…藤宮という存在も。

「ダメ…かな?」

おずおずと聞き返せば、グプスは顔を背けた。

「…別に。来たいなら来れば?」
「ほんと⁈ありがと!!」

良かった、これで図書館に行ける。
聞けばそんなに遠くないとのことなので夕方までには戻って来れるだろう。必要な情報を調べて白夜様がいつ帰って来るか分からないから、なるべく早めに宿に戻ってこよう。歩き出すグプスの後ろを追いかけた。

「そう言えば気になってたんだけど。グプス君って鬼なの?」

図書館までの道中、時雨はずっと気になっていたことをグプスに聞いた。彼の頭には可愛らしい角が二つ、ちょこんと生えていたからだ。

「まあ…」
「そうなんだ!でも角が黒色?なんて珍しいね」

鬼頭家は鬼族の中で黒鬼と格式高く有名だが、それでも角は白と至ってシンプル。
それは白鬼の白夜も変わらない。

「同じ鬼でも鬼頭家とは違うんだね」
「鬼にも種類はあるし。僕の場合は封鬼(ふうき)だから」
「封鬼?鬼頭家とはどう違うの?」
「彼らは黒鬼。この国を支配する王家・百目鬼の血筋を受け継いだ最後の砦であると同時に御三家の一角。その印があの漆黒の髪に真っ赤な血を込めた瞳だよ」

そういえば…ここに来てから鬼の妖とは出会えど黒鬼の妖は見ていない。
あの美しい容姿は鬼頭家特有のものというわけか。

「…僕は本来ここにいちゃいけないんだ」
「どういうこと?」

時雨は不思議に思いグプスを見る。
猫背の姿勢で静かに歩き進める彼の顔は髪の毛に隠れて見ることはできない。だがポツリとこぼす、その声からは寂しさや悲しさといった雰囲気が伝わる。

「普段は周りの目が厳しいから。外に出たくても見張りのせいで動けないし。ウンザリしてんだよね」
「出れないって…どうして?」
「僕が封鬼だからだよ(笑)」

今日ここに来て初めて笑ったグプス君。
その顔は何を考えているのかやはり感情が読めない。
どういうこと?
封鬼だから外には出れない?
見張りがいる??
グプス君は何者なの??

「グプス君の額にあるそれ…その封鬼?と何か関係あったりするの?」

前髪を搔き分け開けたおでこに貼られた『封』という一枚の呪符。
最初はただのヘアバンドぐらいにしか思っていなかったが、今の話を聞いてついその文字に目がいってしまう。

「妖である上で重要なこと。君は何か知ってる?」

だがグプスはその問いに答えることなく、暫くして立ち止まると前髪に隠れた瞳は風が吹いて露になる。ジトリとした目。こちらに向けられた視線に体がゾワッとした。猫目の青い瞳はどこか時雨を観察しているようにも見える。

「第三の眼」
「!」
「目に見えるものだけが真実とは限らない。だから時に僕達は間違える。あの時とまた同じ過ちを侵すものがいるとするならば…それはこの世における禁忌。絶対に許されることではない」
「…どういう」
「ほら、着いたよ」

そこまで言って顔を上げれば目の前には大きな建物が建っていて、正面にはこれまた大きな正面玄関が私達をお出迎えしている。

「凄い、大きい!」
「妖都でも一番大きな図書館だからね」

グプスは興奮気味に騒ぐ時雨の顔を見れば、ふっと笑い中に入っていく。