二日目の朝。
時雨は起きて早々に身支度を済ませれば外の景色を眺めていた。あれから白夜を見送って、一人静かに宿の中で過ごして眠って。元気に見送っていた反面、本当は寂しくてたまらなかった。
今までだって一人で寝ることはあった。
でもここ最近は白夜の部屋を使うことが多くなったせいか謎に一人への空間に違和感が募った。
起きた時、自分の隣から聞こえてくる寝息も。
思わず誰もがみとれてしまうその美しい寝顔も。
目を開ければ自分を見つめるその顔がたまらなく恋しく愛おしくて。
その全てを自分一人が独り占めできていたはずなのに。
だがそれすらもここ何日かはできていない。
本当ならもっと一緒にいたいし、もっと甘えたい。
恋人らしいことだって、、、
「朝には戻ってると思ったのに…」
そっと隣の部屋をノックし声を掛けるも反応がない。
それだけで彼が留守であるということが分かってしまう。
「もしかして、あれからずっと仕事をしているのかしら?」
外に出ていったきり、何処にいて何をしているのかさえも教えてもらってないため不安でしかないが大人しく待つ他ない。
「そういえば…」
時雨はふと、昨日のうちに白夜から渡されていたネックレスの存在を思い出す。
首にかけられたそれは白い雫型の石の中に鬼火が灯った不思議なネックレスだった。
宿の中とはいえ危険はつきもの。
そう考えていた白夜が事前に用意をしてくれたものだ。
つけておけば、人間であることを周りの妖から隠すことができると、常につけておくことを言い渡されていたため屋敷を出てからは肌に離さず持ち歩いている。
「うーん、白夜様はいつ帰ってくるか分からないし。でも宿の外には出るなって言われているし…」
正直、宿から出れないとなると行動できる範囲がこの部屋と宿の中だけに限られる。
宿の中は昨日のうちに散策ずみ。
下の階には温泉や卓球場、マッサージコーナーや美容サロンなどいくつもの施設が設備されていて宿であることを忘れてしまうとこだった。
流石は全国でも五本の指に入る人気宿だけある。
だが実質、この宿の取締役を上で務めているのは鬼頭家。
つまるところ全ての権限は鬼頭家にあるという訳だ。
鬼頭家の力、恐ろしすぎる…。
「そう言えば船を貸し出していたっけ?」
昨日ここに来る途中で見た大きな川。
そこで沢山の船が妖達を乗せている光景が印象的だったためいいなとは思っていた。
「白夜様も乗っていいとは言ってたし。この宿が管理してるなら問題なさそうね」
決めた、今日は船に乗ってみよう。
外の景色をボートの上から眺めるだなんて素敵ではないか。季節的にも紅葉樹が見頃ろを迎える時期だし。
「そうと決まれば行くしかないわね」
時雨はさっそく支度が整うと船着き場へと向かった。
「ちょっと!」
到着後して直ぐのこと、目の前には一人の女性が立ちふさがった。ところなしかその顔は不服そうで、かなりイライラしているように見える。
「あんた、昨日鬼頭家の若様といたわよね?彼とは一体どういう関係?」
「え、」
突然やってきたこの女性は腕を組んだ姿勢で時雨を睨みつけてきた。
綺麗な容姿をしているがもちろん妖だろう。
近くにいると甘い香水が鼻をかすめ、大きな胸元は隠すことなく露出度の高い着物を着ているからかボディーラインがよく分かる。
「ちょっと!聞いてるの??」
「あ、はい。白夜様のことですよね?」
「白夜様…ですって」
彼の名前を言えば彼女は大きくそれに反応した。
何かまずいことでも言っただろうか。
「彼は私の彼氏なのよ?他人のアンタが彼を名前呼びしないで!!」
「か、彼氏?」
その言葉には目を疑ってしまった。
じゃあ白夜様は彼女と付き合ってるってこと?
有り得ない…だって白夜様はそんなこと一度も。
「そうよ、彼と私は相思相愛で最近ではずっと一緒にいる仲でもある恋人同士なのよ。昨日の夜だってデートしたんだから」
噓だ、そんなこと信じたくない。
確かに昨日、白夜様は仕事があると言っていたが。
「彼はお立場的にもとても偉くて毎日お忙しい方だけど。でもその中でも私にだけはこうして時間を割いてくれるの。昨日だって会い行くと仰ってくれたんだから」
「そんな…」
「なのにいざ来てみれば何なのよアンタ!彼の傍をウロチョロして」
彼女は凄い剣幕でまくし立てれば苛立ち気に目を釣り上がらせた。
時雨を睨みつければ威嚇のつもりか妖力をこぼす。
「いいこと?今後一切、彼と私の邪魔をしないで!迷惑なのよ、アンタみたいなブス」
「ッ、ち、違います!だって彼は私の」
私は彼の花嫁だ。
そう言おうにも彼女がそれを遮る。
「いい加減にしなさいよ!」
「あ、」
ドンという衝撃音と共に視界が揺れた。
気づけば彼女に強く突き飛ばされていた。
「彼を勝手に付け回さないで、彼の彼女はこの私よ!いい加減迷惑だって言ってんの!」
「そ、そんな…」
そんなこと言われても私にどうしろと言うのか。
だいたい彼女の話だけではそれが本当かどうかさえ分からない。白夜様が本当に彼女と付き合っているのかは、本人に聞かないことには。
「なんなのよその目」
「!!」
「この私を見下したようなその目、実に不愉快ね。いいわ、それなら教えてあげる。どっちが上か」
彼女はそう言えばこちらに向かって手を突き出す。
攻撃される!!
私は怖くて咄嗟に目をつぶった。
「うるさい」
「「!!」」
時雨は起きて早々に身支度を済ませれば外の景色を眺めていた。あれから白夜を見送って、一人静かに宿の中で過ごして眠って。元気に見送っていた反面、本当は寂しくてたまらなかった。
今までだって一人で寝ることはあった。
でもここ最近は白夜の部屋を使うことが多くなったせいか謎に一人への空間に違和感が募った。
起きた時、自分の隣から聞こえてくる寝息も。
思わず誰もがみとれてしまうその美しい寝顔も。
目を開ければ自分を見つめるその顔がたまらなく恋しく愛おしくて。
その全てを自分一人が独り占めできていたはずなのに。
だがそれすらもここ何日かはできていない。
本当ならもっと一緒にいたいし、もっと甘えたい。
恋人らしいことだって、、、
「朝には戻ってると思ったのに…」
そっと隣の部屋をノックし声を掛けるも反応がない。
それだけで彼が留守であるということが分かってしまう。
「もしかして、あれからずっと仕事をしているのかしら?」
外に出ていったきり、何処にいて何をしているのかさえも教えてもらってないため不安でしかないが大人しく待つ他ない。
「そういえば…」
時雨はふと、昨日のうちに白夜から渡されていたネックレスの存在を思い出す。
首にかけられたそれは白い雫型の石の中に鬼火が灯った不思議なネックレスだった。
宿の中とはいえ危険はつきもの。
そう考えていた白夜が事前に用意をしてくれたものだ。
つけておけば、人間であることを周りの妖から隠すことができると、常につけておくことを言い渡されていたため屋敷を出てからは肌に離さず持ち歩いている。
「うーん、白夜様はいつ帰ってくるか分からないし。でも宿の外には出るなって言われているし…」
正直、宿から出れないとなると行動できる範囲がこの部屋と宿の中だけに限られる。
宿の中は昨日のうちに散策ずみ。
下の階には温泉や卓球場、マッサージコーナーや美容サロンなどいくつもの施設が設備されていて宿であることを忘れてしまうとこだった。
流石は全国でも五本の指に入る人気宿だけある。
だが実質、この宿の取締役を上で務めているのは鬼頭家。
つまるところ全ての権限は鬼頭家にあるという訳だ。
鬼頭家の力、恐ろしすぎる…。
「そう言えば船を貸し出していたっけ?」
昨日ここに来る途中で見た大きな川。
そこで沢山の船が妖達を乗せている光景が印象的だったためいいなとは思っていた。
「白夜様も乗っていいとは言ってたし。この宿が管理してるなら問題なさそうね」
決めた、今日は船に乗ってみよう。
外の景色をボートの上から眺めるだなんて素敵ではないか。季節的にも紅葉樹が見頃ろを迎える時期だし。
「そうと決まれば行くしかないわね」
時雨はさっそく支度が整うと船着き場へと向かった。
「ちょっと!」
到着後して直ぐのこと、目の前には一人の女性が立ちふさがった。ところなしかその顔は不服そうで、かなりイライラしているように見える。
「あんた、昨日鬼頭家の若様といたわよね?彼とは一体どういう関係?」
「え、」
突然やってきたこの女性は腕を組んだ姿勢で時雨を睨みつけてきた。
綺麗な容姿をしているがもちろん妖だろう。
近くにいると甘い香水が鼻をかすめ、大きな胸元は隠すことなく露出度の高い着物を着ているからかボディーラインがよく分かる。
「ちょっと!聞いてるの??」
「あ、はい。白夜様のことですよね?」
「白夜様…ですって」
彼の名前を言えば彼女は大きくそれに反応した。
何かまずいことでも言っただろうか。
「彼は私の彼氏なのよ?他人のアンタが彼を名前呼びしないで!!」
「か、彼氏?」
その言葉には目を疑ってしまった。
じゃあ白夜様は彼女と付き合ってるってこと?
有り得ない…だって白夜様はそんなこと一度も。
「そうよ、彼と私は相思相愛で最近ではずっと一緒にいる仲でもある恋人同士なのよ。昨日の夜だってデートしたんだから」
噓だ、そんなこと信じたくない。
確かに昨日、白夜様は仕事があると言っていたが。
「彼はお立場的にもとても偉くて毎日お忙しい方だけど。でもその中でも私にだけはこうして時間を割いてくれるの。昨日だって会い行くと仰ってくれたんだから」
「そんな…」
「なのにいざ来てみれば何なのよアンタ!彼の傍をウロチョロして」
彼女は凄い剣幕でまくし立てれば苛立ち気に目を釣り上がらせた。
時雨を睨みつければ威嚇のつもりか妖力をこぼす。
「いいこと?今後一切、彼と私の邪魔をしないで!迷惑なのよ、アンタみたいなブス」
「ッ、ち、違います!だって彼は私の」
私は彼の花嫁だ。
そう言おうにも彼女がそれを遮る。
「いい加減にしなさいよ!」
「あ、」
ドンという衝撃音と共に視界が揺れた。
気づけば彼女に強く突き飛ばされていた。
「彼を勝手に付け回さないで、彼の彼女はこの私よ!いい加減迷惑だって言ってんの!」
「そ、そんな…」
そんなこと言われても私にどうしろと言うのか。
だいたい彼女の話だけではそれが本当かどうかさえ分からない。白夜様が本当に彼女と付き合っているのかは、本人に聞かないことには。
「なんなのよその目」
「!!」
「この私を見下したようなその目、実に不愉快ね。いいわ、それなら教えてあげる。どっちが上か」
彼女はそう言えばこちらに向かって手を突き出す。
攻撃される!!
私は怖くて咄嗟に目をつぶった。
「うるさい」
「「!!」」