「術師とは異能の有無、異能の強さで人生が決まりますからね」
時雨はそれを痛いほど痛感してきた。
術家出身の身でありながら異能がない。
他の花嫁が異能に恵まれ、そこに頼りながら生命維持を可能にさせる中、異能を使えない時雨にはそれが出来ない。そう考えればあの日、役立たずと称された自分が身一つで渡ったこの世界。即死してても何らおかしくはない筈だった。だが何を思ったか、現れた神獣は時雨に加護を与え、その身から邪気への侵入を遠ざけた。
加えて現在は白夜の婚約者。
彼との契約により、より安全な妖力の共有も可能。
花嫁にとってはこれ以上にない優遇だ。
だが時雨は素直にその行為を受け入れることに抵抗もあった。
花嫁の生い立ちを理解すれば異能持ちの彼女達を差し置いて、無能の自分がこんな優遇扱いを受けているなんて贅沢しやすぎないか。彼女達にとっては気持ちの良い話ではないだろう。時雨にとってもそんな気持ちだけで白夜の隣には立ちたくはなかったのだ。そもそも何もしないまま大人しく彼に守られるだけの存在にはなりたくない。
異能がないなら、ないなりに強く生きる。
プライドなんかじゃない。
心から望む、そんな生き方をしてみたい。
「花嫁の生い立ちや気持ちに同情なんてしない。けど私も私なりに辛い生い立ちは経験してきた。完全否定はしないわよ」
「えぇ…それに私の場合、術家でも立場は下でしたから。花嫁として鬼頭家に嫁ぎ、ここで生きれるよう最善を尽くそうにもどうも不安で。他の花嫁は死んだというのに…」
「そんなの考えるだけ無駄ね。先のことなんて誰にも分からない。だからって死んだ花嫁に今更同情したって意味はないの。アンタが若様の花嫁として生きるというのなら、やるしかないじゃない。所詮は花嫁。でもね…いつかこの世界を嫌になる日がきっとアンタにもやって来るわ。そうなった時、アンタは若様の側で今と同じく純粋な思いでお慕いすることはできるのかしら?」
お翠は射抜くように視線を投げかける。
彼女からしてみれば、過去の花嫁達の様子からしても今後を生きる時雨にさほど期待を持てずにいるのだろう。いつか他の花嫁達同様にここを嫌になったら。その時、自分が彼に向ける目は一体何を意味しているのだろう。
「私はここに…隠世に来て良かったと思っています。今はどうとでも言えますけど。ですが久野家で生きた昔の自分から今の自分へ、本来の自分らしさを再確認できたのは他ならぬ白夜様のお陰です」
「…」
「白夜様を好きな気持ちに変わりはありません。きっとここに来て良かったと、そう胸を張って言える人生を必ず歩んで見せますから!」
「…そ」
お翠は一言そう返すと後は何も言わなくなってしまった。
目的の部屋までやって来れば、時雨は「では」と挨拶して中に入ろうとする。
「ねえ」
そんな時雨をお翠は呼び止める。
「私、やっぱアンタのこと嫌いだわ」
「え、」
時雨はその言葉に目を丸くした。
「アンタ相手じゃ、揶揄い甲斐も何の役にも立たなくてよ。でもあの方がアンタを認めた理由、何となく分かるわ」
「お翠さん?」
「認めた訳じゃないわ。せいぜい若様に見捨てられないよう頑張ることね」
お翠はプイッと顔を背け、手に持っていた洗濯カゴを抱え直せば、啞然と立ち尽くす時雨をよそにスタスタと歩いて行ってしまった。
時雨はそれを痛いほど痛感してきた。
術家出身の身でありながら異能がない。
他の花嫁が異能に恵まれ、そこに頼りながら生命維持を可能にさせる中、異能を使えない時雨にはそれが出来ない。そう考えればあの日、役立たずと称された自分が身一つで渡ったこの世界。即死してても何らおかしくはない筈だった。だが何を思ったか、現れた神獣は時雨に加護を与え、その身から邪気への侵入を遠ざけた。
加えて現在は白夜の婚約者。
彼との契約により、より安全な妖力の共有も可能。
花嫁にとってはこれ以上にない優遇だ。
だが時雨は素直にその行為を受け入れることに抵抗もあった。
花嫁の生い立ちを理解すれば異能持ちの彼女達を差し置いて、無能の自分がこんな優遇扱いを受けているなんて贅沢しやすぎないか。彼女達にとっては気持ちの良い話ではないだろう。時雨にとってもそんな気持ちだけで白夜の隣には立ちたくはなかったのだ。そもそも何もしないまま大人しく彼に守られるだけの存在にはなりたくない。
異能がないなら、ないなりに強く生きる。
プライドなんかじゃない。
心から望む、そんな生き方をしてみたい。
「花嫁の生い立ちや気持ちに同情なんてしない。けど私も私なりに辛い生い立ちは経験してきた。完全否定はしないわよ」
「えぇ…それに私の場合、術家でも立場は下でしたから。花嫁として鬼頭家に嫁ぎ、ここで生きれるよう最善を尽くそうにもどうも不安で。他の花嫁は死んだというのに…」
「そんなの考えるだけ無駄ね。先のことなんて誰にも分からない。だからって死んだ花嫁に今更同情したって意味はないの。アンタが若様の花嫁として生きるというのなら、やるしかないじゃない。所詮は花嫁。でもね…いつかこの世界を嫌になる日がきっとアンタにもやって来るわ。そうなった時、アンタは若様の側で今と同じく純粋な思いでお慕いすることはできるのかしら?」
お翠は射抜くように視線を投げかける。
彼女からしてみれば、過去の花嫁達の様子からしても今後を生きる時雨にさほど期待を持てずにいるのだろう。いつか他の花嫁達同様にここを嫌になったら。その時、自分が彼に向ける目は一体何を意味しているのだろう。
「私はここに…隠世に来て良かったと思っています。今はどうとでも言えますけど。ですが久野家で生きた昔の自分から今の自分へ、本来の自分らしさを再確認できたのは他ならぬ白夜様のお陰です」
「…」
「白夜様を好きな気持ちに変わりはありません。きっとここに来て良かったと、そう胸を張って言える人生を必ず歩んで見せますから!」
「…そ」
お翠は一言そう返すと後は何も言わなくなってしまった。
目的の部屋までやって来れば、時雨は「では」と挨拶して中に入ろうとする。
「ねえ」
そんな時雨をお翠は呼び止める。
「私、やっぱアンタのこと嫌いだわ」
「え、」
時雨はその言葉に目を丸くした。
「アンタ相手じゃ、揶揄い甲斐も何の役にも立たなくてよ。でもあの方がアンタを認めた理由、何となく分かるわ」
「お翠さん?」
「認めた訳じゃないわ。せいぜい若様に見捨てられないよう頑張ることね」
お翠はプイッと顔を背け、手に持っていた洗濯カゴを抱え直せば、啞然と立ち尽くす時雨をよそにスタスタと歩いて行ってしまった。



