白鬼の封印師 二

今回、妖都に滞在する期間は三日間。
うち二日目の夜十九時から予定させる王政会議には御三家他、王族や政治御所達が顔合わせするため、白夜もまた鬼頭家当主代理として欠席することは許されなかった。本来であれば会議だけ済ませて日帰りするところ、今回は時雨同伴ということもあって白夜は近くに宿をとっていた。

「着いたぞ。ここが今回俺達が泊まる宿泊施設だ」

白夜に連れられやって来た宿は妖都でも有名な老舗旅館。
表門の看板に記載された『心恋荘(うらごいそう)』という文字。
どっしり構えた宿の脇、そこには大きな川が流れ、その上を観光客を乗せた木船が流れていた。

「白夜様、見てください!船ですよ」

興奮気味に船を指さす時雨。

「川下りだな。ここらじゃ名物なんだ。宿に泊まった客には無償で船を貸し出すこともできる」
「ということは、私も乗れるんですか?」
「ああ。なんなら乗ってきてもいいぞ」
「ほんとですか!!」

なら後で船着き場にでも行ってみよう。
船に乗る機会なんて早々ない。
せっかく来たんだから観光がてら楽しんでおこう。

「ようこそおいで下さいました」

中に入れば中居さん達が出迎える。
白夜の到着に合わせ、玄関前に整列した仲居達、番頭達は深く頭を下げる。ここでも白夜は顔パスで通ってしまうのだから驚きだ。営業スマイル裏に隠れた仲居達の熱い視線。皆が皆、美しい白夜の顔に見とれているようで、自分に声がかかるのを待っているようだ。だが肝心の白夜は気にも留めずに「行くぞ」と後ろを振り返えれば歩き出す。
慌てて後を追えばヒソヒソと話し声が聞こえる。
白夜の後を歩く時雨の様子が気になっているようだった。

『ねえ、若様の後ろにいる人は誰?』
『さあ?今まで女性の同伴なんて一度もいなかったのに。婚約者だったりして…』
『まさか(笑)。あんな子供っぽい陰気臭い子に限って。それこそ使用人とかよ』
『そうね。あんな子が若様の花嫁とか有り得ないわ』

そんな声が聞こえてくれば居心地が悪くなる。
やはり白夜様の隣に並んでも誰も自分が花嫁であると思ってはいないよう。美しい白夜様を前に自分は平凡も平凡。使用人に間違えられても仕方ない。いくら花嫁と言おうが周りはそれを知らない。だから余計、そんな時雨を前に仲居達は言いたい放題だった。聞くのも嫌で俯き加減にそそくさとその場を後にすれば、奥から誰か向かってくる。

「若様、心恋荘へようこそおいで下さりました」

両脇に女将と若女将を抱え、一際大きな巨漢が出迎える。

「大旦那…か。久しぶりですね」

どうやらお互い顔なじみのよう。
白夜の姿に大旦那は嬉しそうにしていた。

「見るたびに妖力が強くなられて。ついこの間までは赤子だった若様が立派になられましたね」
「いつの話ですか(笑)」
「おや?今日は深夜殿は一緒では?」
「当主は事情により顔を出せません。今回は俺が代理です」
「それはそれは。若様が代理を務めるまでになりましたか!では部屋もいつもの場所をお取りしときましたのでごゆるりとお過ごし下さいませ」
「悪いな。ああ、そうだ。大旦那に紹介したい人がいます」

気軽に話し始める二人を見守っていれば、白夜がちょいちょいと時雨を手招きする。

「俺の婚約者で花嫁の久野時雨です。現世から鬼頭家に渡りました」
「なんと!!では貴方が例の」

その言葉に大旦那達は一斉に時雨を見た。
まあ…こうなるよね、、、
反応はそれぞれ違うが大旦那は歓喜の声を上げていた。

「おお!噂には聞いておりましたが…この目でお会いするのは初めてだ」
「はじめまして、久野時雨と申します」
「久野…ではあの封印家系ですな。鬼頭家とは縁も深い。これはまた可愛らしいお嬢さんだ。私は心恋荘で大旦那を勤めています。以後宜しく」
「こちらこそ」

手を取り握手をすれば印象は良かったようで安心。
頭に一本の角を生やし全身真っ赤な肌をした赤鬼の妖だろうか?体格が大きいから始めこそ身震いしてしまったが、話せば気さくな性格の人だった。深夜様とは同年代らしく、白夜様も小さい頃から交流があるよう。

「これで漸く若様も身を固められるのですな。いや~良かった良かった。貴方もだいぶ苦労されてましたから心配ではありました」
「婚儀はまだ暫く先になりますが。今はだいぶ上が荒れていますし」
「なるほど…」

大旦那はそれに意味深な顔をするも直ぐに営業スマイルに戻る。
案内された部屋は宿でも上級層専用の立派な部屋だった。
一般客の泊まる部屋とは別に上級クラスが泊まる部屋は階にして五階。まず一般の妖なら踏み入ることもできない大きな大部屋で時雨は開いた口が塞がらない。

「…白夜様、ここって」
「御三家専用のスイートルーム。んでこの部屋は鬼頭家専用」
「専用とかあったんですか⁈」

まさかの貸切りとか以前に鬼頭家専用のお部屋があったとか、、、鬼頭家の財力にはビックリである。

「部屋は寝室が扉挟んで二つ。好きな方を使っていいから。コッチは共同スペースで露天とかも自由に入れるし…」

寝室が二つ??
一体、いくらするんだろう…
こんなに広い部屋、なんて贅沢な。

「…悪い」
「え?」

ふいに白夜が申し訳そうに謝ってくる。
それに首を傾げれば白夜からは爆弾発言が。

「もしかして俺と一緒の部屋とか使いたかった感じ?」

え、何を言ってるの??

「そうか、そうだよな。やっぱ時雨も俺と一緒の部屋で寝たかったよな!」
「え、いや待って、、」
「よし、ならこの扉ぶち抜くか!」

そう言えば白夜が手に妖力を込めて扉を破壊しようとするので慌てて引き止めた。

「違います!誤解ですから!!お願いだから鬼火しまって下さい!!」

問答無用に扉を物理破壊しようとする白夜様を前に焦ったのはコッチだ。破天荒すぎる。どうかやめてくれ!となんとか扉を破壊するまでには至らなかったが白夜は不服そう。

「なんだよ。時雨は俺と一緒が嫌なのか?この前まで一緒の布団で寝てたろ?」
「それは青龍が回復するまでの身を案じてのことで!普段はお互い自室ですから」
「は?俺は一緒に寝れて嬉しかったのに時雨は違うって言うの?あ~悲しいなぁ・・・前はあんなに俺の胸の中で好き好き言って気持ち良いって言ってくれたのに。物足りなかったか?」
「ちょ//////言い方!違います!誤解ですから!!」

白夜様の誤解を生む発言に慌てて振り返れば徹夜達は顔を背け、必死にコッチを見ないようにしていた。マズイ…これでは更なる誤解を生ませてしまう!!!

「違います、違いますから!!決して皆様が想像されているようなことは何も」
「けど時雨~いずれは俺達子供できるんだしさ~予行練習って必要だぞ」
「ちょっと白夜様は黙ってて下さい!なんか話がどんどんややこしくなってきましたよ⁈」

それから数分、空気の読めない白夜の落とした爆弾発言の誤解を解くべく、時雨は顔を真っ赤にしながら徹夜達に説明をした。横ではニヤニヤと白夜が笑っている。完全に確信犯だ。

「はぁ…疲れた」

なんとか誤解を解けば時雨は疲れ切った顔で溜息を吐く。
徹夜は呆れた顔で眼鏡をあげれば時計を確認後、大旦那は笑って部屋を後にする。控えていた仲居の一人、若女将を名乗る彼女はにこやかに笑って挨拶をする。

「ご紹介が遅れましたが、私はお薫(しげ)と申します。心恋荘で若女将を勤めております。滞在中、時雨様の身の回りのお世話をさせていただきます」
「あ、宜しくお願いします…」

ん?よく見ると誰かに似てるような、、、

「時雨、お薫はお香の姉君でもある」
「え!!お香さんのお姉様⁈」

どうりでよく似てると思った。
顔付きがどことなくお香さんそっくりで無邪気な雰囲気のお香さんに比べて、お薫さんは大人っぽい落ち着いた雰囲気をしていた。