◯◯◯
それから数日後、白夜様が妖都に出かける日がやって来た。今日は快晴で、よく晴れていて気持ちがいい。
「わあ!やっぱりいつ見ても空船からの景色は最高だな」
私は船の甲板まで出ると、流れていく景色に目を輝やかせた。
「時雨、あんまはしゃぐと落ちるぞ」
振り向けば後ろでは白夜が可笑しそうにこちらを見て笑っている。
「だって嬉しいんです。こうして白夜様と一緒に行けて」
「ま、ほぼお前のゴリ押しに負けて、だけどな」
冷や汗を流し苦笑する白夜を、時雨は面白そうに見つめた。あの日から、無事に二人の間で起こっていた誤解は解け、喧嘩は仲直りを生む良い結果で終わった。
二人の間にある熱い愛情にも拍車がかかり、再びいつもの平穏が戻った。
と言いたいところだが、それと並行して白夜の元には仕事が更に増えたことで、屋敷にいる時間が大幅に減ってしまったのだ。
白夜としては、このまま時雨には内緒で今回の面倒ごとまで片付けるつもりだった。
しかし帰りが遅い日が続くほど、当然激務に明け暮れる姿を隠し通せるのも時間の問題。ある日の夜、帰宅後の白夜を待ち構えていた時雨から質問責めの嵐にあえば、妖都の件を話さざる負えなくなった。
「…なあ、やっぱやめとこうぜ?」
連れて行きたい欲は誰よりも強い。
本当はここにいてくれる彼女が愛おしくてたまらない。
でもどうしても心配の方が勝ってしまうのだ。
「も~今になって白夜様ったらまたそんな。さっきも言った通り、私は帰りません」
もちろん、時雨は事前に鳳魅から聞いていて白夜が妖都に行く理由を知っていた。
だが本人の口から正直に聞きたかったのだ。
渋々と口を開いた白夜に、内容を理解したよう演じれば自分も行きたいと懇願した。
だが結果は惨敗。
「やっとお許しが出たのに今更帰すなんて卑怯です」
「お許しって…。あれはお許しなんて、んな可愛い言葉で片付く話じゃねーぞ」
白夜は疲れたような顔でげんなりとしていた。
「そりゃ、私も頑張りましたから!!」
何度もお願いするたびダメの一点張り。
危ないから。
危険だから。
体が心配だから。
物騒だから。
そんなありきたりな言い訳を述べつつ、何とか時雨を鬼頭家のお屋敷に留めようと奮闘した白夜。
理由は簡単。
最近自分の身の回りで起こった妖魔との遭遇で、隠世も油断ができなくなったからだ。
何より今回は王家に呼び出された身。
大切な時雨の存在を守るためにも、そんな危険な場所に連れて行きたくはなかったし、ぶっちゃけ彼女を他の連中の目に晒すだなんて行為を自主的にやってる気がして腹が立ったのだ。
「でも今回は前と違って遊びじゃねーんだぞ?いつ何があるか分からねぇ」
噓は言っていない。
でも本当は、、、
「(お前を誰にも見せたくない)」
そんな執着心が浮き彫りになっている自分がいたから。
「もちろん承知しています。それでも…約束は約束ですよ?白夜様」
「うっ」
あの日、時雨はなかなか首を立てに振らない白夜に対し、強行突破を決めたのだ。
喧嘩の発端となった白夜の誤解を上手く利用すると、そのお詫びに今回の件を承諾するよう言った。
これには流石の白夜も降参の様子。
もうダメとは言えなくなってしまったのだ。
泣く泣く承諾せざるを負えなくなった。
結果、白夜の完敗である。
「時雨、お前最近は俺に対する扱い酷くね?」
「気のせいです」
「世間一般で言う、尻に引かれる旦那ってこういうことか?」
一人ブツブツと語る白夜様を無視すれば、私は外の景色を楽しむことにした。何度、一緒に連れて行ってとお願いしたかもう数えたくもない。
それでもやっと同行の許しが出たのだ。
鳳魅さんから教えてもらった図書館で術家について調べる。それには今回が絶好のチャンス。
なんとしてもこれを逃す手はない。
「我儘だったらごめんなさい。でも…これで白夜様と少しは一緒に過ごせそうです」
時雨がそうニコリと微笑むと、白夜はびしりと固まった。二人の間には暫くの沈黙が流れる。
「拷問か?これ」
「はい?」
「あー可愛い~早く結婚して~俺の嫁が今日も可愛い~」
「ええ…」
にやけ顔で天を仰ぎ始める白夜様。
「おい鬼、ボキャブラリー捨ててんじゃねぇよ」
そう声を漏らしたのは、さっきからずっと二人の後ろで黙って会話を聞いていた青龍だった。
「さあ時雨殿、こんな鬼はほっといて。妖都では僕が御守りしますから安心して下さいね」
「あ、うん。ありがとう」
「は?おい蛇野郎てめえ、何言ってんの?」
聞き捨てならないと言いたげに、白夜は青龍の方へと身を乗り出す。
「おや?何か可笑しなこと言いましたか?僕は時雨殿の眷属。時雨殿を一番側で御守りするのは当然です」
「は?な~に言ってくれちゃってんの?時雨の一番は俺であって、時雨を守る一番も俺です~」
「はは、何言ってんですか。最近まで時雨殿を泣かせていたぼんくらだったくせに。(鬼の分際で)」
「あ、おいてめぇ、今テレパシーしやがったな⁈」
それから数日後、白夜様が妖都に出かける日がやって来た。今日は快晴で、よく晴れていて気持ちがいい。
「わあ!やっぱりいつ見ても空船からの景色は最高だな」
私は船の甲板まで出ると、流れていく景色に目を輝やかせた。
「時雨、あんまはしゃぐと落ちるぞ」
振り向けば後ろでは白夜が可笑しそうにこちらを見て笑っている。
「だって嬉しいんです。こうして白夜様と一緒に行けて」
「ま、ほぼお前のゴリ押しに負けて、だけどな」
冷や汗を流し苦笑する白夜を、時雨は面白そうに見つめた。あの日から、無事に二人の間で起こっていた誤解は解け、喧嘩は仲直りを生む良い結果で終わった。
二人の間にある熱い愛情にも拍車がかかり、再びいつもの平穏が戻った。
と言いたいところだが、それと並行して白夜の元には仕事が更に増えたことで、屋敷にいる時間が大幅に減ってしまったのだ。
白夜としては、このまま時雨には内緒で今回の面倒ごとまで片付けるつもりだった。
しかし帰りが遅い日が続くほど、当然激務に明け暮れる姿を隠し通せるのも時間の問題。ある日の夜、帰宅後の白夜を待ち構えていた時雨から質問責めの嵐にあえば、妖都の件を話さざる負えなくなった。
「…なあ、やっぱやめとこうぜ?」
連れて行きたい欲は誰よりも強い。
本当はここにいてくれる彼女が愛おしくてたまらない。
でもどうしても心配の方が勝ってしまうのだ。
「も~今になって白夜様ったらまたそんな。さっきも言った通り、私は帰りません」
もちろん、時雨は事前に鳳魅から聞いていて白夜が妖都に行く理由を知っていた。
だが本人の口から正直に聞きたかったのだ。
渋々と口を開いた白夜に、内容を理解したよう演じれば自分も行きたいと懇願した。
だが結果は惨敗。
「やっとお許しが出たのに今更帰すなんて卑怯です」
「お許しって…。あれはお許しなんて、んな可愛い言葉で片付く話じゃねーぞ」
白夜は疲れたような顔でげんなりとしていた。
「そりゃ、私も頑張りましたから!!」
何度もお願いするたびダメの一点張り。
危ないから。
危険だから。
体が心配だから。
物騒だから。
そんなありきたりな言い訳を述べつつ、何とか時雨を鬼頭家のお屋敷に留めようと奮闘した白夜。
理由は簡単。
最近自分の身の回りで起こった妖魔との遭遇で、隠世も油断ができなくなったからだ。
何より今回は王家に呼び出された身。
大切な時雨の存在を守るためにも、そんな危険な場所に連れて行きたくはなかったし、ぶっちゃけ彼女を他の連中の目に晒すだなんて行為を自主的にやってる気がして腹が立ったのだ。
「でも今回は前と違って遊びじゃねーんだぞ?いつ何があるか分からねぇ」
噓は言っていない。
でも本当は、、、
「(お前を誰にも見せたくない)」
そんな執着心が浮き彫りになっている自分がいたから。
「もちろん承知しています。それでも…約束は約束ですよ?白夜様」
「うっ」
あの日、時雨はなかなか首を立てに振らない白夜に対し、強行突破を決めたのだ。
喧嘩の発端となった白夜の誤解を上手く利用すると、そのお詫びに今回の件を承諾するよう言った。
これには流石の白夜も降参の様子。
もうダメとは言えなくなってしまったのだ。
泣く泣く承諾せざるを負えなくなった。
結果、白夜の完敗である。
「時雨、お前最近は俺に対する扱い酷くね?」
「気のせいです」
「世間一般で言う、尻に引かれる旦那ってこういうことか?」
一人ブツブツと語る白夜様を無視すれば、私は外の景色を楽しむことにした。何度、一緒に連れて行ってとお願いしたかもう数えたくもない。
それでもやっと同行の許しが出たのだ。
鳳魅さんから教えてもらった図書館で術家について調べる。それには今回が絶好のチャンス。
なんとしてもこれを逃す手はない。
「我儘だったらごめんなさい。でも…これで白夜様と少しは一緒に過ごせそうです」
時雨がそうニコリと微笑むと、白夜はびしりと固まった。二人の間には暫くの沈黙が流れる。
「拷問か?これ」
「はい?」
「あー可愛い~早く結婚して~俺の嫁が今日も可愛い~」
「ええ…」
にやけ顔で天を仰ぎ始める白夜様。
「おい鬼、ボキャブラリー捨ててんじゃねぇよ」
そう声を漏らしたのは、さっきからずっと二人の後ろで黙って会話を聞いていた青龍だった。
「さあ時雨殿、こんな鬼はほっといて。妖都では僕が御守りしますから安心して下さいね」
「あ、うん。ありがとう」
「は?おい蛇野郎てめえ、何言ってんの?」
聞き捨てならないと言いたげに、白夜は青龍の方へと身を乗り出す。
「おや?何か可笑しなこと言いましたか?僕は時雨殿の眷属。時雨殿を一番側で御守りするのは当然です」
「は?な~に言ってくれちゃってんの?時雨の一番は俺であって、時雨を守る一番も俺です~」
「はは、何言ってんですか。最近まで時雨殿を泣かせていたぼんくらだったくせに。(鬼の分際で)」
「あ、おいてめぇ、今テレパシーしやがったな⁈」