白鬼の封印師 二

△▼△
それから数日後、白夜様が妖都に出かける日がやって来た。
今日の天気は快晴、晴れていて澄んだ空気が気持ちがいい。

「わあ!やっぱいつ見ても空船からの景色は最高だな」

時雨は船の甲板まで出てくれば、流れていく景色に目を輝やかせた。

「時雨~あんまはしゃぐと落っこちるぞ~」
「そこまでドジじゃありません」
「どうだか。誰だっけ?ここに来て早々、屋敷で道に迷って半泣きべそ搔いてたの」
「な、そんな昔の話!!」

振り向けば白夜が可笑しそうに笑っている。
だって鬼頭家の屋敷ったら広すぎなんだもん。
来た当初はどこに何があるのか分からず道に迷い、あげく白夜様呼び出しては案内して貰っていた。それも最近になってようやく慣れてきたのだ。

「白夜様とお出かけできるなんて嬉しいです!」
「お出かけはいいが、今回は鬼頭家として妖都に呼ばれてるんだ。俺の花嫁だから危険も危険だし。できれば連れて行きたくなかったのに…」

やはり白夜は心配が勝っているらしい。

「いえ、もはや時雨様がいて正解でした」

白夜の背後に控えていた徹夜が声をかけた。
徹夜明けなのかだいぶ疲れた顔をしている。
主である白夜を一瞥すれば、かけている眼鏡をくいっとあげる。いつもの日常が戻ってきたはいいが、今回は妖都というなかなか面倒な所に呼ばれてしまった。白夜からすれば仕事と偽って最後まで話さず片付けてくるつもりだったが、先回りで事前入手した時雨の計らいによって降参するしかなかった。

「貴方は少しばかり彼女の真面目さを見習って下さい。時雨様が側にいてくれれば、私では行き届かない監視に目が届くというもんです」
「あん?いつ俺が仕事放棄したっていうんだよ」

徹夜さん…だいぶ苦労してるんだな、、、
時雨はいたたまれなくなる。
徹夜さんとは最近になって知り合った。
白夜様が紹介してくれた際、向こうは終始無言でコッチを食い入るように見つめていたから、やはり人間で無能だから嫌われているのかなと思っていたけど勘違いだったらしい。主である白夜様の元に嫁いだ私に心底憐みの目を向けていたと後で知った時、一体白夜様は何をやらかしたんだと疑った。

「やっとお許しが出たのに、私は帰りませんよ」
「お許しって…あれは半分お前の脅しだろうが」
「でも白夜様は言いましたよね。喧嘩しちゃったお詫びになんでも言うこと聞くって」
「きぇ~”!!!!!」

白夜は疲れたような顔でげんなりしていた。
お詫びになんでも言うことを聞く。それすなわち断れなかったなんて認めたくなかった。

「時雨…なんか最近俺への扱い慣れ過ぎてない?」
「頑張りました!!」

これにガクンと肩を落とす白夜。
対して徹夜は「さすがですね、時雨様」と手を叩いて拍手していた。
何度もお願いするたびダメの一点張り。
危ないから。
体が心配だから。
物騒だから。
そんなありきたりな言い訳をくべつつ、何とか時雨を鬼頭家から出さないよう奮闘した白夜も今となっては諦めていた。最近自分の回りで起こった妖魔との接触に隠世も油断ができなくなってきた。まだ鬼頭家に報告はしておらず経過観察中ではあるが、ここにきて王家に呼び出された。
嫌なタイミングだ、、、。
大切な時雨を守るため、危険な場所には連れて行きたくはなかった。
ぶっちゃければ大切な花嫁を他の連中の前に晒したくない。
これがほぼ本音だったりもする。

「時雨、間違っても遊びじゃねぇんだぞ?いつどこで何があるのか分からない。俺の側を離れるなよ?」

"お前を誰にも見せたくない"
執着の入り混ざるこの気持ちを押し殺せば目の前の問題とぶつかる。
妖の…更に妖とも言える強欲達がとぐろを巻く欲と権力にまみれた地。
もしものことがあれば、、、

「もちろん承知しています」

あの日、時雨はなかなか首を立てに振らない白夜に対し、強行突破を決めたのだ。
喧嘩の発端となった白夜の誤解を上手く利用すると、そのお詫びに今回の件を承諾するよう言った。
これには流石の白夜も降参の様子。
もうダメとは言えなくなってしまったのだ。
泣く泣く承諾せざるを負えなくなった。
結果、白夜の完敗である。

「時雨、やっぱ俺に対する扱い酷くね?」
「気のせいです」
「これが世間一般で言う、尻に引かれる旦那ってやつか?」

一人ブツブツと喋る白夜を無視すれば、船からは妖都の景色が近づいてくる。鳳魅から教えてもらった図書館もこの都のどこかにあるはず。時雨は期待に胸を膨らませた。

「あ、忘れるとこだった。時雨、これ持っとけ」
「なんですかこれ?」

白夜に差し出されたのは変な模様?が書かれた呪符のようなもの。

「鬼頭家所有のまじない札。外部からの攻撃を防ぐ。身に付けた対象者を半径千メートルまでの範囲なら追うことも可能。とにかくメチャ便利な奴」
「凄い…」

え、千メートルって、、、
これってそんなに凄いものなの??
時雨は驚くも言われた通りに大事に懐へ忍ばせておく。

「これで安心して白夜様と過ごせますね!」

えへへ!と時雨が笑えば途端に固まる白夜。
暫くの沈黙が続けば、白夜は顔に手を当てて空を拝む。

「拷問か?これ」
「はい?」
「あ~可愛い~~早く結婚して~俺の嫁が今日も可愛い~」
「ええ…」

それに戸惑っていれば横からずいッと入り込んだ人影。

「おい鬼、ボキャブラリー捨ててんじゃねぇよ」

さっきから二人の会話を黙って聞いていた青龍が前に躍り出た。

「さあ時雨殿、こんな奴ほっといて。妖都では俺が御守りします。だからご安心ください」
「は?おい蛇テメェ!何言ってんの?」

聞き捨てならないと白夜は青龍の方へ乗り出した。
なんだろう…二人の間に火花が散っているような、、いつの間にこんな仲良くなったのか。そんな様子を今度は時雨と徹夜が離れた場所から眺めていた。

「何か?俺は時雨殿の眷属。時雨殿を側で御守りするのは俺の役目」
「なに言ってんの?時雨の一番は俺であって~時雨を守る一番も俺です~」
「はははっ、何言ってんすか。つい最近まで主を泣かせておきながら。(クソ鬼)」
「テメェ!!!テレパシー送ってんじゃねー!!」