分かっていた。
これがいけないことだと。
今、俺の目の前に広がる光景は敬愛の人が抱きしめ合う姿。
その白い大きな手が彼女に絡みつくたび、どうしようもない憎悪が渦巻いた。咄嗟に引き離そうと足を動かすも、嬉しそうな横顔を見てしまえば情けなくもそれ以上先に進めない。
「時雨殿…」
ポツリとこぼした言葉は貴方に届かない。
黙って見届けることが正解ではないからこそ、さっさと間に入ればよいものを。どうしてこうも上手くいかないのか。視線を感じ顔を上げれば俺のことをジッと見つめる鬼の顔。クソみたいに美しい顔で「ざまァ」とでも言いたげにニィ~っと口角を上げれば、腕に抱く姿を見せつけてくる。
「クソガキが…」
青龍は苛立ちギロリと白夜を睨み付ける。
だが白夜の煽りは止まらない。
今度は時雨の髪を一束掬えばそっと優しく口づけをする。
うっとりと微笑めば、何も知らない時雨はポーっと顔を赤らめそっぽを向いてしまう。
やめろ、彼女に触れるな。
穢れた邪物風情がむやみに触れていいような方ではない。
弱く儚い、それでいて繊細。
本来なら穢れを纏うこともない。
大切に守られし稀有のしなやかさで一生を洗礼領域で暮らす。
そんなあるべき姿の彼女がコイツのせいでどんどん穢れていく。
ふいにあの方と姿が重なった。
この世に下り立ち数千年の中、初めて出会った時から自分の心は決まった。
もう二度と…貴方を傷つけたくない。
側に仕えたら最後、ずっと御守りせねばならない。
約束した。
必ず、あの時の分まで貴方を幸せにしてみせると。
なんとしても無事に送り届けなければ…こんな場所へいつまでも留めておくこともない。青龍の中には小さな野心が灯るのを感じた。
「青龍」
声がかかり顔を上げれば時雨がこちらに歩いてくる。
名前を呼ばれただけで嬉しくなる。
時雨は青龍の目の前までくれば申し訳なさそうに顔を曇らせる。
「いきなり居なくなってごめん。心配をかけたわ」
「いえ。ご無事でなによりです。俺の方こそ失態をかきました。今回の不始末、誠に申し訳ございません」
青龍は立膝を付くと頭を下げて謝罪する。
時雨は慌てて首を振ると立たせようとした。
「頭をあげて⁈そんなことしなくていいから!!元はと言えば私のせいだし。勝手に屋敷を飛び出しちゃって。結局はこうして助けに来て貰う始末。怖くて自分じゃ何もできなかったから」
「…時雨殿、ここでは一体何を?」
「え、」
青龍は姿勢を崩さぬまま顔を上げれば時雨を見据えた。
実は薄々嫌な気配を感じ取っていた。
何かが不快。
この空間に漂う空気も、気配も。
よく分からないソレがとにかく気持ち悪くて仕方がない。
「契約により、時雨殿の位置情報は共有済み。…にも関わらず、今回は貴方の居場所を探り当てるまで随分と時間を要しました」
「…どういうこと」
そう言われれば確かに変。
青龍からは加護を白夜様とは縛りの契約をしている。
ならば自分がどこにいようと、どちらかは絶対に居場所が分かっていておかしくはない。なのに今回は二人が到着するのにかなり時間がかかった気がする。
「時雨」
二人の会話を黙って聞いていた白夜も近づいてきた。
「確かに蛇の言う通りだ。不思議とお前を見つけ出すのに苦労した。まるで何かがお前の存在を隠すかのように。俺の瞳が通用しなかった」
「!!そんな…」
白夜様の瞳が機能しないって…そんなどうして。
自分は確かに屋敷から出た。
でもそれはあくまで鬼頭家の敷地内ではあって鬼頭家の所有する領域からは出ていない。屋敷と屋敷周囲を管理できる白夜様ですら、自分を認知できなかっただなんて、、、
これがいけないことだと。
今、俺の目の前に広がる光景は敬愛の人が抱きしめ合う姿。
その白い大きな手が彼女に絡みつくたび、どうしようもない憎悪が渦巻いた。咄嗟に引き離そうと足を動かすも、嬉しそうな横顔を見てしまえば情けなくもそれ以上先に進めない。
「時雨殿…」
ポツリとこぼした言葉は貴方に届かない。
黙って見届けることが正解ではないからこそ、さっさと間に入ればよいものを。どうしてこうも上手くいかないのか。視線を感じ顔を上げれば俺のことをジッと見つめる鬼の顔。クソみたいに美しい顔で「ざまァ」とでも言いたげにニィ~っと口角を上げれば、腕に抱く姿を見せつけてくる。
「クソガキが…」
青龍は苛立ちギロリと白夜を睨み付ける。
だが白夜の煽りは止まらない。
今度は時雨の髪を一束掬えばそっと優しく口づけをする。
うっとりと微笑めば、何も知らない時雨はポーっと顔を赤らめそっぽを向いてしまう。
やめろ、彼女に触れるな。
穢れた邪物風情がむやみに触れていいような方ではない。
弱く儚い、それでいて繊細。
本来なら穢れを纏うこともない。
大切に守られし稀有のしなやかさで一生を洗礼領域で暮らす。
そんなあるべき姿の彼女がコイツのせいでどんどん穢れていく。
ふいにあの方と姿が重なった。
この世に下り立ち数千年の中、初めて出会った時から自分の心は決まった。
もう二度と…貴方を傷つけたくない。
側に仕えたら最後、ずっと御守りせねばならない。
約束した。
必ず、あの時の分まで貴方を幸せにしてみせると。
なんとしても無事に送り届けなければ…こんな場所へいつまでも留めておくこともない。青龍の中には小さな野心が灯るのを感じた。
「青龍」
声がかかり顔を上げれば時雨がこちらに歩いてくる。
名前を呼ばれただけで嬉しくなる。
時雨は青龍の目の前までくれば申し訳なさそうに顔を曇らせる。
「いきなり居なくなってごめん。心配をかけたわ」
「いえ。ご無事でなによりです。俺の方こそ失態をかきました。今回の不始末、誠に申し訳ございません」
青龍は立膝を付くと頭を下げて謝罪する。
時雨は慌てて首を振ると立たせようとした。
「頭をあげて⁈そんなことしなくていいから!!元はと言えば私のせいだし。勝手に屋敷を飛び出しちゃって。結局はこうして助けに来て貰う始末。怖くて自分じゃ何もできなかったから」
「…時雨殿、ここでは一体何を?」
「え、」
青龍は姿勢を崩さぬまま顔を上げれば時雨を見据えた。
実は薄々嫌な気配を感じ取っていた。
何かが不快。
この空間に漂う空気も、気配も。
よく分からないソレがとにかく気持ち悪くて仕方がない。
「契約により、時雨殿の位置情報は共有済み。…にも関わらず、今回は貴方の居場所を探り当てるまで随分と時間を要しました」
「…どういうこと」
そう言われれば確かに変。
青龍からは加護を白夜様とは縛りの契約をしている。
ならば自分がどこにいようと、どちらかは絶対に居場所が分かっていておかしくはない。なのに今回は二人が到着するのにかなり時間がかかった気がする。
「時雨」
二人の会話を黙って聞いていた白夜も近づいてきた。
「確かに蛇の言う通りだ。不思議とお前を見つけ出すのに苦労した。まるで何かがお前の存在を隠すかのように。俺の瞳が通用しなかった」
「!!そんな…」
白夜様の瞳が機能しないって…そんなどうして。
自分は確かに屋敷から出た。
でもそれはあくまで鬼頭家の敷地内ではあって鬼頭家の所有する領域からは出ていない。屋敷と屋敷周囲を管理できる白夜様ですら、自分を認知できなかっただなんて、、、



