◯◯◯
ーー時雨殿!
その声は暗い森の中にこだまする。
辺りを見渡せばその場には私しかおらず、いつの間にか男性も姿を消してしまった。
まるでさっきまでの出来事が噓のような静けさだ。
声がした方に目を向ければ、向こうからは青龍さんが駆けてくるのが見える。
「青龍さん…」
「時雨殿、ご無事で⁈今、そちらに行き「時雨ーー!!」!」
そんな青龍さんの声を遮ぎると、私に向かって突進してきたのは白い大きな塊。
「時雨!やっと見つけた!!」
「白夜様⁉」
白夜様は寸前のところで青龍さんを横へと押し切れば、目にも止まらぬ速さで私の元に駆け込んだ。
「大丈夫か⁈怪我はないか⁈どっか痛ぇとことか、ぶつけたとことか…」
息を切らし、慌てた様子で次々に質問攻めをしてくる様子の彼を何とか落ち着かせる。
「大丈夫です。どこも怪我はしていません」
「本当か⁈はぁ、ならよかった。何かあったらどうしよかと」
白夜様はその一言でホッと息をつくと次に頭を下げてくる。
「白夜様?」
「ごめん、ホントにごめんな!!全部俺のせいなんだ。俺が変な誤解を生んだせいでお前をここまで傷つけた」
自分がしでかした散々な失態と誤解のせいで彼女を追い込んでしまった。
怖がらせてしまった。
泣きはらした目で俺を見つめたあの顔が今でも忘れられない。白夜は酷く落ち込んだ悲しげな顔をすれば必死に謝った。
「俺がもっとちゃんと話を聞いていれば、こんなことにはならなかったのに。ただお前に会いたい一心で頑張っていたはずなのに…」
「…」
「それなのに神獣の正体にも気づけず、だたお前を問い詰めて。結果怖がらせて。自分が情けなくて仕方ねぇ」
「白夜様…」
この時、白夜は怖くて堪らなかったのだ。
目の前から彼女が走り去った時、心の中は絶望でどうにかなりそうだった。
もしも自分のせいで彼女の身に何か起こっていたら?
もしも取り返しのつかない事件に巻き込まれていたら?
そう思い必死に探そうにも、不運なことに屋敷から消えた彼女の気配と重なれば気が狂いそうになった。
「許してくれだなんて言わねぇ。怖がられても、二度とお前に触れられなくなっても構わない。でも頼むから、俺の側から離れることだけはしないでくれ」
「!」
「愛してるんだ。だから俺から離れないでくれ」
懇願するように時雨を見つめれば、白夜の頬には一粒の涙が伝った。
「え、白夜様⁈なんで泣いて」
「怖いんだ」
「!」
「どんなに約束や契約を取り付けたって。いつかお前が俺の側からいなくなっちまいそうな気がして。先の恐怖で押しつぶされそうで、俺にはそれが堪らなく耐えられない」
「…白夜様」
見ればその体は心なしか震えているようにも見えた。
ああ、こんなにも私のことを心配して…
私は彼に近づくとギュッとその身を強く抱きしめた。
「ッ、時雨?」
「離れませんよ」
私は震える彼の体を必死に抱きしめた。
「離れません。約束したではありませんか、どんなことがあろうと私は貴方のお側にいると。約束は守ります。私は貴方だけのものです。ですから怖がらないで下さい」
震える頭を撫でてあげれば、私より二回りも大きいその体からは力が抜けていくのを感じ取る。
威圧感溢れるいつもの様子とは違う。
今の彼は弱り切った大きな幼子のようだ。
「時雨…好き、好きだよ?」
「はい。私も好きですよ、白夜様」
その言葉に白夜は心底嬉しそうな顔で時雨を見つめれば抱きしめ返した。二人は互いに抱きしめ合えば、暫くの余韻に浸っていた。
「(ああ、やっと。やっとお前に触れることができた)」
白夜は嬉しくて仕方なかった。
彼女に拒絶され、もう二度とその身に触れることは叶わなくなると覚悟していたから。
彼女が触れてくれた時、壊れかけた心には再び光が差し込んだ。気持ちは驚くほどスピーディーに平常心を取り戻していく。
ああ、愛おしい。
どうしようもなくお前が好きで好きで。
彼女と出会ってからの自分は可笑しい。
熱に浮かされたように頭からは彼女の存在が離れない。
心は何処までも彼女に支配されれば奥底へと沈み込んでいく。
だがそんな自分さえ、彼女のためなら例え可笑しくなってもいいとさえ思ってしまう。
妖力を放ち彼女の体をそっと包み込めば、傷つけてしまった傷は塞がりやがて綺麗に癒えていく。
「白夜様」
「ん?」
時雨は気まずそうに顔をあげた。
「あ、あの、私もごめんなさい。大嫌いだなんて、本当は思ってもないのに」
俺を見つめる彼女は酷く後悔した顔で落ち込んでいた。
「私も先走ったことを言って白夜様を傷つけてしまいました。本当は貴方に会いたくて堪らなかったのは私の方なのに…」
「…時雨」
「ですからこれで仲直りです!大好きです、白夜様」
そう言うと彼女は明るく微笑んだ。
俺はその言葉で顔をほころばせれば、その印にそっと彼女の口へ優しくキスを落とした。
ーー時雨殿!
その声は暗い森の中にこだまする。
辺りを見渡せばその場には私しかおらず、いつの間にか男性も姿を消してしまった。
まるでさっきまでの出来事が噓のような静けさだ。
声がした方に目を向ければ、向こうからは青龍さんが駆けてくるのが見える。
「青龍さん…」
「時雨殿、ご無事で⁈今、そちらに行き「時雨ーー!!」!」
そんな青龍さんの声を遮ぎると、私に向かって突進してきたのは白い大きな塊。
「時雨!やっと見つけた!!」
「白夜様⁉」
白夜様は寸前のところで青龍さんを横へと押し切れば、目にも止まらぬ速さで私の元に駆け込んだ。
「大丈夫か⁈怪我はないか⁈どっか痛ぇとことか、ぶつけたとことか…」
息を切らし、慌てた様子で次々に質問攻めをしてくる様子の彼を何とか落ち着かせる。
「大丈夫です。どこも怪我はしていません」
「本当か⁈はぁ、ならよかった。何かあったらどうしよかと」
白夜様はその一言でホッと息をつくと次に頭を下げてくる。
「白夜様?」
「ごめん、ホントにごめんな!!全部俺のせいなんだ。俺が変な誤解を生んだせいでお前をここまで傷つけた」
自分がしでかした散々な失態と誤解のせいで彼女を追い込んでしまった。
怖がらせてしまった。
泣きはらした目で俺を見つめたあの顔が今でも忘れられない。白夜は酷く落ち込んだ悲しげな顔をすれば必死に謝った。
「俺がもっとちゃんと話を聞いていれば、こんなことにはならなかったのに。ただお前に会いたい一心で頑張っていたはずなのに…」
「…」
「それなのに神獣の正体にも気づけず、だたお前を問い詰めて。結果怖がらせて。自分が情けなくて仕方ねぇ」
「白夜様…」
この時、白夜は怖くて堪らなかったのだ。
目の前から彼女が走り去った時、心の中は絶望でどうにかなりそうだった。
もしも自分のせいで彼女の身に何か起こっていたら?
もしも取り返しのつかない事件に巻き込まれていたら?
そう思い必死に探そうにも、不運なことに屋敷から消えた彼女の気配と重なれば気が狂いそうになった。
「許してくれだなんて言わねぇ。怖がられても、二度とお前に触れられなくなっても構わない。でも頼むから、俺の側から離れることだけはしないでくれ」
「!」
「愛してるんだ。だから俺から離れないでくれ」
懇願するように時雨を見つめれば、白夜の頬には一粒の涙が伝った。
「え、白夜様⁈なんで泣いて」
「怖いんだ」
「!」
「どんなに約束や契約を取り付けたって。いつかお前が俺の側からいなくなっちまいそうな気がして。先の恐怖で押しつぶされそうで、俺にはそれが堪らなく耐えられない」
「…白夜様」
見ればその体は心なしか震えているようにも見えた。
ああ、こんなにも私のことを心配して…
私は彼に近づくとギュッとその身を強く抱きしめた。
「ッ、時雨?」
「離れませんよ」
私は震える彼の体を必死に抱きしめた。
「離れません。約束したではありませんか、どんなことがあろうと私は貴方のお側にいると。約束は守ります。私は貴方だけのものです。ですから怖がらないで下さい」
震える頭を撫でてあげれば、私より二回りも大きいその体からは力が抜けていくのを感じ取る。
威圧感溢れるいつもの様子とは違う。
今の彼は弱り切った大きな幼子のようだ。
「時雨…好き、好きだよ?」
「はい。私も好きですよ、白夜様」
その言葉に白夜は心底嬉しそうな顔で時雨を見つめれば抱きしめ返した。二人は互いに抱きしめ合えば、暫くの余韻に浸っていた。
「(ああ、やっと。やっとお前に触れることができた)」
白夜は嬉しくて仕方なかった。
彼女に拒絶され、もう二度とその身に触れることは叶わなくなると覚悟していたから。
彼女が触れてくれた時、壊れかけた心には再び光が差し込んだ。気持ちは驚くほどスピーディーに平常心を取り戻していく。
ああ、愛おしい。
どうしようもなくお前が好きで好きで。
彼女と出会ってからの自分は可笑しい。
熱に浮かされたように頭からは彼女の存在が離れない。
心は何処までも彼女に支配されれば奥底へと沈み込んでいく。
だがそんな自分さえ、彼女のためなら例え可笑しくなってもいいとさえ思ってしまう。
妖力を放ち彼女の体をそっと包み込めば、傷つけてしまった傷は塞がりやがて綺麗に癒えていく。
「白夜様」
「ん?」
時雨は気まずそうに顔をあげた。
「あ、あの、私もごめんなさい。大嫌いだなんて、本当は思ってもないのに」
俺を見つめる彼女は酷く後悔した顔で落ち込んでいた。
「私も先走ったことを言って白夜様を傷つけてしまいました。本当は貴方に会いたくて堪らなかったのは私の方なのに…」
「…時雨」
「ですからこれで仲直りです!大好きです、白夜様」
そう言うと彼女は明るく微笑んだ。
俺はその言葉で顔をほころばせれば、その印にそっと彼女の口へ優しくキスを落とした。