◯◯◯
可笑しい。
一体、あの鬼は彼女を何処に連れていったというのだ。
あれからというもの、青龍は一人鬼頭家の屋敷を駆け回れば主人の行方を血眼になって探していた。
「チッ。鬼め、俺からあの方をかっさらいやがった」
俺は舌打ちをこぼすと夜の廊下を進んでいく。
その間にもすれ違う使用人一人一人に声をかけて聞いてみるも、誰一人として彼女の姿は見ていないと言う。
「屋敷の構造はここに来た当初から全て理解している。だというのに、ここからは彼女の気配一つ感じられねぇ」
鬼に部屋から連れ去られて時間はさほど経過していない。せっかくの彼女との一時を邪魔された挙句、無理やり何処かへと連れて行かれてしまったことに俺の苛立ちは治まらない。
直ぐに取り返そうと彼女の気配を探ろうにも何も感じ取ることができない。
「…クソ。さてはアイツ、俺に見つからないよう結界を張りやがったな」
彼ほどの力があれば、人一人視界から隠すことなど容易い。
だが間違えても自分は四神なのだ。
そんな自分を差し置いて、こうも高度な術をかけられたとなると腹が立ってしょうがない。
「クソ、鬼め。次に会った時は覚えとけよ」
「おい、テメェ!!」
「!!」
突如、後ろから聞こえた声に振り返ればそこにはお目当ての彼が。見れば怒りの隠し切れない顔でずかずかと俺の元までやって来る。
そんな姿を俺は冷ややかな目で見つめた。
「(チッ)」
鬼の一匹や二匹、神獣の身なら消すことも容易い。
だが変にここで争って、後々彼女に怒られるのだけは一番避けておきたい。
俺は心の中で舌打ちをすれば平然を装う。
「はい、何かご用でしょうか?」
偽りの笑みを浮かべて鬼を見れば、彼は声をかけたきり。俺をジッと観察すればその場を動かない。
「…お前」
「?」
「…あー、まじか。そういうことかよー」
白夜はうげっと顔を歪ませれば盛大に溜息をついた。
時雨を捜す途中、思いがけず彼の姿を目にすれば自分の中には再び怒りが沸き上がった。
直ぐにでも殺してやろうかと詰め寄るも、そのマスクから垂れ下がる布紙に目がいく。
書かれた二つの文字に気づき、その意味を理解すれば自分のしでかした失態に思わず顔を手で覆った。
「なあ、お前ってもしや例の神獣?」
「ええ、今は青龍ですが」
白夜はこれに全てを理解すれば深く溜息を付いた。
「まあ確かに、言われてみりゃお前からは神力の匂いがする。しくったわー、全部俺のせいじゃねぇかよ」
ガシガシと頭をかく白夜を青龍は黙って見つめた。
だが青龍はふと眉をひそめた。
「(おい、まさかコイツ…。今の今まで、この俺の正体に全く気が付かなかったのか?)」
確かに以前の頃とはだいぶ姿は変わったが。
だが仮にもコイツは鬼神だ。
認めたくはないが、神の血ともなれば神獣の俺とも同類のようなもの。
だからこそ、こんな小さな変化の一つや二つ、分かっていて当然のはずだと思っていたのに。
「僕を誰かと勘違いでもしましたか?」
「いや、別にそんなんじゃ。ただ結局は俺の生んだ誤解がアイツを悲しませたことに変わりはない」
瞬間、俺の心にはピキリと亀裂の入ったような音がした。
「…は?」
気がつくと自分でもビックリするぐらい低い声が出ていた。
彼女を悲しませた、だと?
俺の中には怒りがあふれ出れば苛立ちが募る。
鬼を見れば、奴は心底驚いた顔で俺を見つめていた。
「は?なあ、お前…」
「…ああ、なるほど。そういうことですか」
その瞬間、俺は全てを理解した。
つまりコイツの様子から察するに、コイツは彼女といた俺の存在をどっかの男が浮気でもしているのだと勘違いしたのだ。俺の正体に気づくことさえままならず、感情のまま彼女を問いつめればそこでは何らかの誤解を更に生み出したわけか。
ようはコイツは彼女に嫌われたということだ。
「(は、だっせ)」
「あ゛?おいテメェ…今なんつった?」
あ、やべぇ、心を読まれたか?
鬼を見れば、瞳は獲物を射貫くかの如く強い眼差しで俺を睨みつけている。
よく見ると瞳が明るく光り輝いていた。
つまりはそういうことだ。
「はぁ、めんどくせ」
「…」
上手く隠してきたつもりだったのに。
彼女を怖がらせないよう、今後も紳士を装い続けるつもりだった。だがここまできたら、正直それもどうでも良くなってしまった。
「勝手に俺を誤解して、勝手に彼女を傷つけて。大好きな彼女に嫌われた感想はいかがですか?」
「は、やっぱりな。そっちがテメェの本性かよ。この猫かぶり野郎め」
白夜はイラついた様子で青龍を睨めば妖力で威嚇した。
だが負けじと青龍も体からは神力を放てば白夜を威嚇する。互いに睨みをきかせ合えば、辺りには強い衝撃が生まれた。
誰にも止められない。
そんな逼迫した状況の中、最初に口を開いたのは青龍の方だった。
可笑しい。
一体、あの鬼は彼女を何処に連れていったというのだ。
あれからというもの、青龍は一人鬼頭家の屋敷を駆け回れば主人の行方を血眼になって探していた。
「チッ。鬼め、俺からあの方をかっさらいやがった」
俺は舌打ちをこぼすと夜の廊下を進んでいく。
その間にもすれ違う使用人一人一人に声をかけて聞いてみるも、誰一人として彼女の姿は見ていないと言う。
「屋敷の構造はここに来た当初から全て理解している。だというのに、ここからは彼女の気配一つ感じられねぇ」
鬼に部屋から連れ去られて時間はさほど経過していない。せっかくの彼女との一時を邪魔された挙句、無理やり何処かへと連れて行かれてしまったことに俺の苛立ちは治まらない。
直ぐに取り返そうと彼女の気配を探ろうにも何も感じ取ることができない。
「…クソ。さてはアイツ、俺に見つからないよう結界を張りやがったな」
彼ほどの力があれば、人一人視界から隠すことなど容易い。
だが間違えても自分は四神なのだ。
そんな自分を差し置いて、こうも高度な術をかけられたとなると腹が立ってしょうがない。
「クソ、鬼め。次に会った時は覚えとけよ」
「おい、テメェ!!」
「!!」
突如、後ろから聞こえた声に振り返ればそこにはお目当ての彼が。見れば怒りの隠し切れない顔でずかずかと俺の元までやって来る。
そんな姿を俺は冷ややかな目で見つめた。
「(チッ)」
鬼の一匹や二匹、神獣の身なら消すことも容易い。
だが変にここで争って、後々彼女に怒られるのだけは一番避けておきたい。
俺は心の中で舌打ちをすれば平然を装う。
「はい、何かご用でしょうか?」
偽りの笑みを浮かべて鬼を見れば、彼は声をかけたきり。俺をジッと観察すればその場を動かない。
「…お前」
「?」
「…あー、まじか。そういうことかよー」
白夜はうげっと顔を歪ませれば盛大に溜息をついた。
時雨を捜す途中、思いがけず彼の姿を目にすれば自分の中には再び怒りが沸き上がった。
直ぐにでも殺してやろうかと詰め寄るも、そのマスクから垂れ下がる布紙に目がいく。
書かれた二つの文字に気づき、その意味を理解すれば自分のしでかした失態に思わず顔を手で覆った。
「なあ、お前ってもしや例の神獣?」
「ええ、今は青龍ですが」
白夜はこれに全てを理解すれば深く溜息を付いた。
「まあ確かに、言われてみりゃお前からは神力の匂いがする。しくったわー、全部俺のせいじゃねぇかよ」
ガシガシと頭をかく白夜を青龍は黙って見つめた。
だが青龍はふと眉をひそめた。
「(おい、まさかコイツ…。今の今まで、この俺の正体に全く気が付かなかったのか?)」
確かに以前の頃とはだいぶ姿は変わったが。
だが仮にもコイツは鬼神だ。
認めたくはないが、神の血ともなれば神獣の俺とも同類のようなもの。
だからこそ、こんな小さな変化の一つや二つ、分かっていて当然のはずだと思っていたのに。
「僕を誰かと勘違いでもしましたか?」
「いや、別にそんなんじゃ。ただ結局は俺の生んだ誤解がアイツを悲しませたことに変わりはない」
瞬間、俺の心にはピキリと亀裂の入ったような音がした。
「…は?」
気がつくと自分でもビックリするぐらい低い声が出ていた。
彼女を悲しませた、だと?
俺の中には怒りがあふれ出れば苛立ちが募る。
鬼を見れば、奴は心底驚いた顔で俺を見つめていた。
「は?なあ、お前…」
「…ああ、なるほど。そういうことですか」
その瞬間、俺は全てを理解した。
つまりコイツの様子から察するに、コイツは彼女といた俺の存在をどっかの男が浮気でもしているのだと勘違いしたのだ。俺の正体に気づくことさえままならず、感情のまま彼女を問いつめればそこでは何らかの誤解を更に生み出したわけか。
ようはコイツは彼女に嫌われたということだ。
「(は、だっせ)」
「あ゛?おいテメェ…今なんつった?」
あ、やべぇ、心を読まれたか?
鬼を見れば、瞳は獲物を射貫くかの如く強い眼差しで俺を睨みつけている。
よく見ると瞳が明るく光り輝いていた。
つまりはそういうことだ。
「はぁ、めんどくせ」
「…」
上手く隠してきたつもりだったのに。
彼女を怖がらせないよう、今後も紳士を装い続けるつもりだった。だがここまできたら、正直それもどうでも良くなってしまった。
「勝手に俺を誤解して、勝手に彼女を傷つけて。大好きな彼女に嫌われた感想はいかがですか?」
「は、やっぱりな。そっちがテメェの本性かよ。この猫かぶり野郎め」
白夜はイラついた様子で青龍を睨めば妖力で威嚇した。
だが負けじと青龍も体からは神力を放てば白夜を威嚇する。互いに睨みをきかせ合えば、辺りには強い衝撃が生まれた。
誰にも止められない。
そんな逼迫した状況の中、最初に口を開いたのは青龍の方だった。