そうして彼は手を前で交差させると何やら術を唱え始める。すると向こう側では壊れた式神の残骸が奇妙な音を立て始めた。
それと同時に彼の足元には正面の結界とはまた違った、新たな羅針盤状の模様が浮かび上がると白い光を放ち始めた。

————シュウウウウ、、、

「あ、あれは!」
見るとそこには、さっきまで怪物によって胴体をバラバラにかみ砕かれてしまったであろう式神が、まか不思議なことに無傷の形を保ったままの状態で浮かび上がっていた。
私はさっきまで音がしていた方を慌てて見た。
なんと既にそこには式神の残骸は残っていなかった。
「ほぉ…」
怪物はこの一連の操作を興味深そうに観察していた。
男性は向き直った姿勢のまま、今度は中指と人差し指を立てて合わせれば意識をそこへと集中させる。
呪禁(じゅごん)
彼の呟き声と同時に式神達がその場から姿を消した。
だが次の瞬間、私の目へと映ったのは式神の神器によってその体を串刺しに貫かれた怪物の姿だった。
「オォ゛??アァァーーー!!」
『ーーー』
『ーーー』
一体は頭部、もう一体は腹部をめがけ目にも止まらぬ速さで近づき神器で貫通させれば、怪物は低い唸り声とともに黒い吐しゃ物を口から吐き出した。
「オ゛ォォェ~…ア゛?ァァ……」
『ーー!』
『ーー!』
神器による攻撃に怪物は苦しそうに押されていたようにも見えたが、直後として損傷部位の傷口を瞬時に塞いでしまえば何度も受ける式神達からの強い攻撃を防いでしまう。
攻撃されたそばから傷口を修復すればあっという間に体を完治させてしまう姿には、攻撃は一向に効く素振りがない。
「…ああ、忌々しい。たかが式神フゼイに何ガデキル」
『!!』
『ーー!!』
突如、怪物はニタリと笑えば式神の一体を鷲掴みにした。そうして抵抗できなくなった姿を前に更に強く抑え込めば勢いよく食いちぎったのだ。

ーーバリバリ!!

「弱い…弱いぞーー!!ガハハハッ」
次の瞬間には二体目の式神を鷲掴みにしてしまえば、勢いよく引きちぎった。
二体の式神は戦力を失うと無惨にもバラバラに捻り潰してしまい、怪物の足元には彼らの残骸だけが飛び散れば跡形もなく姿を消してしまったのだ。
「そ、そんな…優秀な式神が二体も破壊されてしまうだなんて」
「…」
予想もしなかった事態に私の心は絶望に染まった。
彼らは式神としてその実力は修行仕立ての陰陽師でさえ、使役には困難を極めたとされた悪行罰示神だ。そんな彼らをこの怪物は難なく破壊してしまったのだ。
そんな事実に私は恐怖で体が震え出した。
「クク、どうだ二ンゲン。大事な式神を破壊された気分は?」
怪物は残骸を蹴散らし、挑発な態度でこちらの様子を伺う。
「貴様も陰陽師とは言え、ここにいたんでは力も無意味。いつの日か貴様ら二ンゲンをグらい、再び我ラの時代が訪れる未来も遠くはないダロウ」
怪物は勝ち誇った様子で空を見上げれば、僅かに足元へ残り散らばる式神の残骸を踏みつぶした。
「ふーむ。ここにきてそれ壊しちゃうか~」
男性は腕を組んだまま首を捻った。
なぜそうも余裕そうな顔ができるのか、今の私にはサッパリだった。
「ケケケ、随分余裕なようだが…貴様もこれで終わりだ。まずは貴様ガラ殺す。次にそこの女だ、二ンゲンの娘の二グは美味い」
「ッ、」
怪物は私に向かって舌なめずりをする。
一体どうすればいいの…
どうしたらあの怪物を退治できるのか。
だが惜しいことに私には異能力もなければ力もない。
助けを求めるように男性を見るも、彼は黙ったまま口を開く気配がない。
目からは再び涙が零れ落ちれば頬を伝った。
これが恐怖から来るものなのか。
はたまた何もできない自身への無力さから来る悔しさなのかは定かではなかった。
だが体は一歩も動かず、私は無気力のまま彼らの動向を見守ることしかできなかった。
「終わりだ二ンゲン共。今宵、貴様らは我にその命を奪われる!!」
そう叫ぶと、怪物は攻撃を仕掛けてきた。
私は恐怖で咄嗟に目をつぶれば体を縮めた。
「…はは、ご忠告ありがとう。だが今宵、勝つのは君じゃない。…僕だ」
「ア?…!!アァァ…ギャァァァーーー!!!」
「え?」
次の瞬間、私の耳に聞こえてきたのは怪物の唸り声だった。
ゆっくり目を開ければ、目の前に佇む彼がニヤリと笑ったのが見えた。
怪物は今までの余裕気だった顔とは一変、体中からは大量の瘴気を流せば口からも瘴気を吐き出した。苦しそうに呼吸を荒くさせればその場へ倒れ込んでしまった。