白鬼の封印師 二

外に出ればすっかり暗くなっていた。
とはいえ繫華街は夜でも明るく多くの妖達で賑わっていたため、夜の暗さを微塵も感じない。側では客を呼び止める声が聞こえてくれば酒場からは盛り上がる音も響いてくる。

「ざっとこんなもんか。後は帰れるだけだな」

手に持ついっぱいの荷物を満足そうに見れば白夜は歩き出す。
この三日間は白夜にとっては地獄のような時間だった。
鬼頭家当主である父親の代理を務めるにあたって、今までの業務に加えて増えていく外部での調査も致し方無いことであるが。それでも愛する時雨との時間が取れないでいるのはなんとも耐え難い苦痛。契約して気配を見守ることはできたが側にいれないと実際に危ない目に遭っていないか心配で堪らなかった。
早く帰ってこの腕で抱きしめてやりたい。
今まで会えなかった分を、今日こそは何としても。
たくさん話をして一緒の布団で眠りたい。
プレゼントにどんな反応を見せるだろう。
アイツは贅沢を好まないからビックリするだろうか。
彼女の驚く顔を想像すれば口角が上がる。
吞気にそんなことを考えつつ、白夜はご機嫌に帰路を急いでいた。

「きゃあああ!!」

突如、前方からは悲鳴のような声が聞こえてきた。
通りの向こう側、道の真ん中にはなんだなんだと人だかりが出来ている。

「あ?なんだあれ」

正直早く帰りたいところだったが、通り道ともあってか行かざる負えない。仕方なくそちらへ足を運べば側にいた一人に声をかける。

「おい、これは一体何の騒ぎだ」
「こ、これは鬼頭の若様!?いけませんここは危険です。早くお逃げ下さい!!!」
「は?何言って…」

白夜の姿に慌てる妖を差し置いて身を乗り出せば、そこに映る光景に目を疑った。信じられないものが映っていたからだ。

「ア゛ァ…、、グルル、、ァ゛?」

一人の妖が苦しそうにすれば体が変色し、黒いオーラに包まれていく。その瞬間、それはバケモノのような見た目に変貌すれば近くにいた女性に襲い掛かろうとしていた。
血走った眼光。
体からは黒い瘴気を放ち、息するのも苦しそうで獣のような唸り声をあげている。意識は朦朧として正気を失っているのか、女性がしきりに声をかけるもそれが届くことはなかった。

「妖魔だ!妖魔が出たぞ!!」

客の一言で他の妖達は一斉に悲鳴をあげる。
白夜は訳が分からず呆然と立ち尽くす。

「若様!お逃げ下さい!妖魔です!」
「は?妖魔って…。じゃあまさか、、」

妖が邪気に耐え切れず憔悴化した姿。
妖力と比例して邪気を生み出せば、その邪気に体を支配されバケモノに成り果てる。それが妖魔だ。邪気は妖にとって最も有害で危険なもの。耐性が効かねば体は朽ち、やがては死に至る。そんな中でも一番厄介なのは死にきれず妖魔になれば屍のような生きを辿るパターン。

「…噓だろ。妖が化け物になりやがった」

白夜がその姿を見たのは初めてのことだった。
醜いその姿から目を離すことができない。
花嫁との契約後、妖魔は出ないんじゃなかったのか?
隠世の妖が邪気に侵される日が来ようとは。
そんなの今までの隠世なら絶対に有り得ないことだというのに。

「あぁ、いや。誰か、、誰か助けて」

女は目の前の妖魔にすっかり怯え切ってしまえば座り込んだ姿勢のまま動けないでいた。恐らく妖魔は彼女の夫だった者だろう。それでも彼女の呼び止める声に応じることなく食い殺そうと近づく。必死に助けを求めるも、周りは妖魔の姿に恐れを成して逃げるか遠くから見守ることしかできないでいた。
何より…妖魔から漏れ出る濃い邪気の臭いに鼻を抑えていた。

「ったく…面倒ごとを増やしやがって」
「若様?」
「おい、これ持ってろ」

白夜は側にいた客に荷物を預ければ、ずかずかと妖魔のいる間へ突き進んでいく。突然現れた鬼頭白夜に妖達はどよめきを隠せずにいた。

『鬼神様⁈』
『鬼頭家の若様がなぜここに⁈』

妖達の声には耳を傾けることなく、白夜は妖魔となった妖の元まで近寄る。

「おいテメェ、勝手な真似してんじゃねぇぞ」
「ア゛ァ…き、鬼神、、、」
「へぇ…妖魔になっても俺のことは分かるみてぇだな」

白夜が半ば挑発気味に妖魔に話しかければ、向こうは女性から白夜へターゲットを変え低い声で唸り始めた。息を吐き出すごとに黒い邪気を漏らせば、その酷く悪臭染みた臭いに白夜も顔をしかめる。