「ではこれで業務内容は以上になるというわけですが…」
「あ、そう?ならここで解散でもいいぞ?お前のことだ、定時退社は鉄則だろ?」
確かに定時退社には心掛けてはいるが。
ここまで時間を引きずって最近では満足に寝ることもできていない。明日は前々から有休をとっていたからのんびりしようと思っていたところだった。
正直今日で終わったのは奇跡だ。
でなければこの男のせいで、有休もパーになっていたとこだから。
「そう仰るのでしたらお先に失礼しますが。若はどうするおつもりですか?」
「俺はもう少しこの街に残る。アレ使えば鬼頭家まで飛べるし。残りの買い物がまだ残ってるから」
「…買い物ですか」
「そ、つってもアイツへの手土産だけど。あれから三日も経ったんだ。久々に帰れるつーのに手持ち無沙汰じゃ割に合わねぇしな」
なるほど。
先程から多くの人気小物店に立ち寄っては熱心に商品と睨めっこしていたのはそのためか。
彼女のためにお土産を買って帰るつもりなのだろう。
あの日からだいぶ落ち込んでいたのか、この三日間まともに仕事に身が入らずズルズルとここまで引きずってしまった。
だが逆を返せば、こうしてお土産を買う時間を確保していた可能性も。その気になれば、彼の力なら外泊などせずとも鬼頭家に飛ぶことなど可能。
文句を言いつつも仕事内容はキッチリこなし、相手に少しの隙も見せることはなかった。それでも帰ることをせずに、渋々ここまで残っていたのはこの日のためか。
「…もしやそれ、全て彼女にですか?」
「まあな。三日も会えてねぇとこきて、朝の一件から蟠りが生じたままだったし。仲直りもしてーし、早くアイツに触れてぇんだ。俺さ…」
「?」
「…こう見えて結構参ってんの」
そう言い振り返った顔に撤夜はピクリと反応した。
なんとも無邪気でどこか困ったように微笑むその顔。
冷酷な顔と佇まいで相手を見下ろし、感情が揺らぐことさえない。
そんな普段の彼からはとても考えられなかった。
彼女の存在はこうも彼を変えてしまうのか。
「楽しそうですね」
「お、分かる?愛する女に向けてやる行為なら何をしても俺には嬉しいみたいなんだよね。懐財布もこの通りゆるゆるだし」
「はぁ…あまり羽目を外しすぎないように。それと帰りの道中は十分にお気を付け下さい」
「へいへい。お前は心配しすぎ」
「貴方様だからです。そのご身分と力ならば、寄って来る者の範囲も多岐に渡るでしょうから」
「では私はこれで」と、撤夜は白夜へ一礼するとその場を離れて行く。
ひらひらと後ろ手に撤夜を見送った白夜は、数あるアクセサリーの中から自分が最も一押しだと感じたものを手に取った。
「ふ、似合いそ。これならあの綺麗な肌にも映えるな。…早くお前の顔が見てぇよ、時雨」
愛する彼女の名を呟けばその顔を思い出す。
会えていなかった分への苦痛が絶えないのか、ハッキリ思い出してからは早くその身に触れたくて仕方がない。
無自覚にもうっとりと顔を綻ばせれば立ち上がる。
そのままスマートな足取りで会計売り場まで足を運んだ。
白夜が店内を歩くごとに女性客からの熱い視線が多くなる。見とれてしまい、彼からは目が離せなくなっているようだ。中には遠目越しから見ていても、その容姿にのぼせ上がり倒れ込む者さえいる。
だが白夜はそんな店にいるどの客にもなびくことはなかった。
彼の存在を知る者は恐縮し一礼する。
会計する時でさえ、並んでいた客達は彼の来る気配に気付くや否や、恐れを成して直ぐにその場を譲れば離れていく。そんな妖達には気にも留めず、会計を済ませた白夜はご機嫌な様子で購入後の商品を見れば軽やかに店を出た。
「あ、そう?ならここで解散でもいいぞ?お前のことだ、定時退社は鉄則だろ?」
確かに定時退社には心掛けてはいるが。
ここまで時間を引きずって最近では満足に寝ることもできていない。明日は前々から有休をとっていたからのんびりしようと思っていたところだった。
正直今日で終わったのは奇跡だ。
でなければこの男のせいで、有休もパーになっていたとこだから。
「そう仰るのでしたらお先に失礼しますが。若はどうするおつもりですか?」
「俺はもう少しこの街に残る。アレ使えば鬼頭家まで飛べるし。残りの買い物がまだ残ってるから」
「…買い物ですか」
「そ、つってもアイツへの手土産だけど。あれから三日も経ったんだ。久々に帰れるつーのに手持ち無沙汰じゃ割に合わねぇしな」
なるほど。
先程から多くの人気小物店に立ち寄っては熱心に商品と睨めっこしていたのはそのためか。
彼女のためにお土産を買って帰るつもりなのだろう。
あの日からだいぶ落ち込んでいたのか、この三日間まともに仕事に身が入らずズルズルとここまで引きずってしまった。
だが逆を返せば、こうしてお土産を買う時間を確保していた可能性も。その気になれば、彼の力なら外泊などせずとも鬼頭家に飛ぶことなど可能。
文句を言いつつも仕事内容はキッチリこなし、相手に少しの隙も見せることはなかった。それでも帰ることをせずに、渋々ここまで残っていたのはこの日のためか。
「…もしやそれ、全て彼女にですか?」
「まあな。三日も会えてねぇとこきて、朝の一件から蟠りが生じたままだったし。仲直りもしてーし、早くアイツに触れてぇんだ。俺さ…」
「?」
「…こう見えて結構参ってんの」
そう言い振り返った顔に撤夜はピクリと反応した。
なんとも無邪気でどこか困ったように微笑むその顔。
冷酷な顔と佇まいで相手を見下ろし、感情が揺らぐことさえない。
そんな普段の彼からはとても考えられなかった。
彼女の存在はこうも彼を変えてしまうのか。
「楽しそうですね」
「お、分かる?愛する女に向けてやる行為なら何をしても俺には嬉しいみたいなんだよね。懐財布もこの通りゆるゆるだし」
「はぁ…あまり羽目を外しすぎないように。それと帰りの道中は十分にお気を付け下さい」
「へいへい。お前は心配しすぎ」
「貴方様だからです。そのご身分と力ならば、寄って来る者の範囲も多岐に渡るでしょうから」
「では私はこれで」と、撤夜は白夜へ一礼するとその場を離れて行く。
ひらひらと後ろ手に撤夜を見送った白夜は、数あるアクセサリーの中から自分が最も一押しだと感じたものを手に取った。
「ふ、似合いそ。これならあの綺麗な肌にも映えるな。…早くお前の顔が見てぇよ、時雨」
愛する彼女の名を呟けばその顔を思い出す。
会えていなかった分への苦痛が絶えないのか、ハッキリ思い出してからは早くその身に触れたくて仕方がない。
無自覚にもうっとりと顔を綻ばせれば立ち上がる。
そのままスマートな足取りで会計売り場まで足を運んだ。
白夜が店内を歩くごとに女性客からの熱い視線が多くなる。見とれてしまい、彼からは目が離せなくなっているようだ。中には遠目越しから見ていても、その容姿にのぼせ上がり倒れ込む者さえいる。
だが白夜はそんな店にいるどの客にもなびくことはなかった。
彼の存在を知る者は恐縮し一礼する。
会計する時でさえ、並んでいた客達は彼の来る気配に気付くや否や、恐れを成して直ぐにその場を譲れば離れていく。そんな妖達には気にも留めず、会計を済ませた白夜はご機嫌な様子で購入後の商品を見れば軽やかに店を出た。