誰もが憧れる長身。
一見すると細く見える体も、脱げば無駄に脂肪のない均整のとれた肉体が顔を覗かせる。顔は言うまでもなく、百人すれ違えば百人が振り返るほどの超がつく美貌。そんな完璧な容姿だけでは飽き足らず、その身には膨大な量の妖力を宿し相手を圧巻。天は二物どころではない与え方をした。
「…ま、これで性格さえ良ければの話なんですが、、」
「なんか言ったか?」
「いえ。ここで油を売ってる暇はありません。早く行きますよ」
「まあ待て。そう急がずとも折角来たんだから、お前もちっとは楽しめよ」
「(全く…この人は、、)」
店内の商品を物色すれば、も~手がつけられない。
駄々をこねれば床に転がる幼児となんら変わらないこの成妖児は不自然なほどこの空間に馴染んでいない。早々に店を出る気が失せたのか、もうコッチの話に聞く耳すら持たず一人楽しんでいた。
「若、商談が残っております」
「あ?そうだっけ?」
「ええ、なので急ぎませんと。時間も押してますし。先方もお待ちしております」
「かまうなかまうな。ど~せ細客だろ。コッチが面倒見るまでもなく潰れるよ」
そうは言うも相手はあの有名な一流企業・故夏家から紹介された企業だ。妖都に最も近い近隣の地を治める鬼頭家では住まう妖の集中率と経済力の高さから普段からこうした一流企業との接触も後を絶たない。所詮は王家の親戚家系。実力も地位も折り紙つきな鬼頭家と繋がりを持てれば企業の株も上がる。故夏家もその一つだ。
「故夏家とは旧友の縁らしく、企業の水準も近年では増加傾向にあります。なんでも絶滅危惧種・錦蛇から採れた虹色鱗を使った陶器・ガラス細工が注目され、ここ数年で一流企業まで上り詰めたようです」
「ふ~ん」
「親会社の故夏家からすれば自身の分家とも言える子会社を鬼頭家に結びつけることさえできれば、経済力アップはまず間違いないかと。妖達の信頼度も高い。こちらとしても悪い話ではないですよ」
「なあ撤夜、お前って妹いたよな?」
「いますけど…なぜです?」
今の話を聞いていなかったのか、白夜は不意に妙なことを聞いてくる。
「これを色違いでってよりかは同じデザインの方がいいか」
「なんの話です?」
「指輪のペアルックだよ。女性はペアルックが好きなんだろ?お前の妹が婚約した時、婚約指輪をペアルックにしたって聞いてさ。やっぱ色違いとかにしたのかな?」
「どこからその情報を…というか、私は仕事の話を、」
「それよりも買い物が先!可愛い俺の婚約者に送ってやんの。だから少し待て。あ、なんならこれ持ってて」
知らぬまにこんなに!?
白夜はいつ購入したのか分からないギフトバックを大量に取り出せば撤夜に押しつけてくる。見るとブランドのロゴが入ったここらでも有名な店の数々で中には服、靴、バッグに香水と女性ものの商品が包装されていた。
まさかこの男…仕事=買い物と勘違いしているのではないか?
「我々は仕事に来たんですよ」
「おう」
「では貴方にとって仕事とは?」
「お得にクーポン消費だぜ!ってな」
「ふざけてるんですか?」
何を言っているんだ。
なんだか段々イライラしてきた。
手に持つバインダーからはヒビの入る音が聞こえた。
「べ~つに~?つーか、お前はビシッとしすぎ。ちっとは気抜けよ。そんなんじゃいずれ神経質すぎてハゲんぞ?確か鬼灯家って代々ハゲ多かったよな。あれストレスじゃね?」
「遺伝です」
「え、マジ?じゃあオマエ、、、」
「父親似の相伝であって私は母似です。父はまだ健在なのでご安心を。ですがそうですね、受け持ちの上司がこうも不真面目ともなれば優秀な部下がハゲる未来もそう遠くないかと」
「え、つまり俺のせい?毛根が死ぬなんて妖の恥だぞ⁈でもよ~く考えてみろ。実際仕事もせず金が入ってくんなら誰もこんな馬鹿正直な労働なん選ばねえよ」
白夜は視線を外すことなく指輪を凝視すれば溜息をつく。
「そう考えればクーポンてのはよくできてる。割引や優待券。つまり店の商品やサービスを安く買って楽しく買い物する。これは金融機関でいうとこの利息。コッチが金を貸す代わりに元本と上乗せして貰える対価。概ね企業側の考えはこうだ。錦蛇を使い新しく新事業を計画する手前、そこには効率良く調達できる資金が必要。先行投資に銀行から借用するよか、債券発行して鬼頭家みたいな妖家から直接大金を借りる方がいい。なんせ妖家との結びつきは隠世では名誉も同然。銀行なんて所詮は名ばかりで実質の長は妖家。株式みたいに法人等記されてるわけでもない。まあ妖家がそれに乗るかは別だけど」
「ならばいっそう、我々のような存在は喉から手が出るほど渇望しておられるでしょう。デフォルトによる業績悪化さえ起きなければ確実にインカムゲインは約束されますがね。故夏家は親会社としてバックの責任も負うでしょうし」
つまりそれだけ一流企業からの先行投資が効けばコチラも分がいい。
それもこれも上手く事業が軌道に乗れば故夏家との繋がりも相まって、鬼頭家にはそれなりの利益を齎す。
「そこまで分かっていて細客ですか。若も欲張りですね。彼らはここらでも有名な一流企業。妖都のものにはやや劣りますが、それでも田舎に近いこの場所でよくやってる側ですよ」
「だからこそ臭いんだよ。細客なのも頷ける」
「どういう意味です?」
白夜はチラリと撤夜を見ればバインダーから覗く書類に目をやる。
「そこに書いてある通り、元はといえば妖都の地を半ば追放された身。上には上がいるのお手本になっただけあってか、上を追いかける選択を捨て上から下を見下ろす選択を選んだ。故にそれほどの力だったということ。鬼頭家が債券を買うまでもなく潰れることは目に見えている。一度ついた癖は治らない」
「しかし錦蛇とはまた稀少も稀少。鱗一枚で平民の一年分の給金が飛ぶほどの価値ですよ」
「だからやべぇんだろうが。所詮は絶滅危惧種。数が最初から少ないとこきて繫殖技術を持たない錦蛇を狩るだけ狩れば絶滅なんて直ぐ。陶器一つに鱗がいくつ必要になると思ってんだ。注文が殺到すれば材料費もかさばる。でも問題の原料は何処にもない。一夜の夢に酔いしれたと同時に自らの手で原料を絶滅させたんだ。タンポの補充先となる故夏家からしても使えない分家に用はない」
つまるとこ数年で業績を著しく延ばしたとて、所詮は絶滅危惧種に手を付けてしまったことによる材料の入手困難なのが響いていずれは商品製作も不可能となる。故夏家は力ある企業に親として裏で手を回す反面、衰退すれば切り捨ても早く、早々に自身の企業に損害を出さぬよう上手く免れる。親会社という名目上、腐っても共同事業が響く限り、収入の一部は懐に入る。そうやって甘い言葉で共同事業だと誘惑しときながら、今までにも多くの企業を侮蔑してきたのだろう。白夜はその裏事情まで読み解き、わざと泳がせていたというのか。
「だからわざわざ鬼頭家が手を貸して債券を買うまでもないんだよ。故夏家は使えるウチは生かす。だがもしもの時があれば…」
「若…」
「まあ、今はまだいいさ。いずれ嫌でも分かるってもんだ。俺の眼は騙せないからな」
アメジストの瞳は何を見たのか。
白夜は数年先の未来でも予測するかのように早々に仕事への興味も薄れたのか、今回の商談は行かなくても却下になることは間違いない。
「足らない知識をすり減らしてまで馬鹿な事業に打ち込む暇あんなら、お得にクーポン貰って低コストで利益回収する方が早いっていうのはこのことだ」
「お、これいいね!」などと言ってこちらに顔を向けるもことなく、商品と睨めっこを再開する白夜。撤夜は精神の限界を感じた。自分の手元に残る分厚い書類の数々とタブレット。他の者ならとっくに悲鳴をあげて逃げ出している頃だろう。
鬼頭白夜は頭が切れる。
だがそれ故に多くを語らない。
分かっていた。
無駄な仕事に費やす無駄な時間があるのなら、少ない労働で多くの経済を動かす。
できることならとっくにやってる。
だが万年人手不足なのだ。
この唯我独尊破天荒問題児についていける者がおらず、半年も経たないうちに皆やめてしまう。今までも数名補佐を雇ったが一か月と持たず逃げていく。一方これを撤夜は胃薬だけで長年対処していた。むしろ災難すぎるほど有能すぎたのだ。
「貴方がまともな仕事をしないニート気質だということは分かりました」
「ヒモよりマシだろうが」
「ですがこの案件、私一人で抱えるには荷が大きすぎます。却下するならするでも構いませんから。断りぐらいご自身の足で出向かれて下さい」
一見すると細く見える体も、脱げば無駄に脂肪のない均整のとれた肉体が顔を覗かせる。顔は言うまでもなく、百人すれ違えば百人が振り返るほどの超がつく美貌。そんな完璧な容姿だけでは飽き足らず、その身には膨大な量の妖力を宿し相手を圧巻。天は二物どころではない与え方をした。
「…ま、これで性格さえ良ければの話なんですが、、」
「なんか言ったか?」
「いえ。ここで油を売ってる暇はありません。早く行きますよ」
「まあ待て。そう急がずとも折角来たんだから、お前もちっとは楽しめよ」
「(全く…この人は、、)」
店内の商品を物色すれば、も~手がつけられない。
駄々をこねれば床に転がる幼児となんら変わらないこの成妖児は不自然なほどこの空間に馴染んでいない。早々に店を出る気が失せたのか、もうコッチの話に聞く耳すら持たず一人楽しんでいた。
「若、商談が残っております」
「あ?そうだっけ?」
「ええ、なので急ぎませんと。時間も押してますし。先方もお待ちしております」
「かまうなかまうな。ど~せ細客だろ。コッチが面倒見るまでもなく潰れるよ」
そうは言うも相手はあの有名な一流企業・故夏家から紹介された企業だ。妖都に最も近い近隣の地を治める鬼頭家では住まう妖の集中率と経済力の高さから普段からこうした一流企業との接触も後を絶たない。所詮は王家の親戚家系。実力も地位も折り紙つきな鬼頭家と繋がりを持てれば企業の株も上がる。故夏家もその一つだ。
「故夏家とは旧友の縁らしく、企業の水準も近年では増加傾向にあります。なんでも絶滅危惧種・錦蛇から採れた虹色鱗を使った陶器・ガラス細工が注目され、ここ数年で一流企業まで上り詰めたようです」
「ふ~ん」
「親会社の故夏家からすれば自身の分家とも言える子会社を鬼頭家に結びつけることさえできれば、経済力アップはまず間違いないかと。妖達の信頼度も高い。こちらとしても悪い話ではないですよ」
「なあ撤夜、お前って妹いたよな?」
「いますけど…なぜです?」
今の話を聞いていなかったのか、白夜は不意に妙なことを聞いてくる。
「これを色違いでってよりかは同じデザインの方がいいか」
「なんの話です?」
「指輪のペアルックだよ。女性はペアルックが好きなんだろ?お前の妹が婚約した時、婚約指輪をペアルックにしたって聞いてさ。やっぱ色違いとかにしたのかな?」
「どこからその情報を…というか、私は仕事の話を、」
「それよりも買い物が先!可愛い俺の婚約者に送ってやんの。だから少し待て。あ、なんならこれ持ってて」
知らぬまにこんなに!?
白夜はいつ購入したのか分からないギフトバックを大量に取り出せば撤夜に押しつけてくる。見るとブランドのロゴが入ったここらでも有名な店の数々で中には服、靴、バッグに香水と女性ものの商品が包装されていた。
まさかこの男…仕事=買い物と勘違いしているのではないか?
「我々は仕事に来たんですよ」
「おう」
「では貴方にとって仕事とは?」
「お得にクーポン消費だぜ!ってな」
「ふざけてるんですか?」
何を言っているんだ。
なんだか段々イライラしてきた。
手に持つバインダーからはヒビの入る音が聞こえた。
「べ~つに~?つーか、お前はビシッとしすぎ。ちっとは気抜けよ。そんなんじゃいずれ神経質すぎてハゲんぞ?確か鬼灯家って代々ハゲ多かったよな。あれストレスじゃね?」
「遺伝です」
「え、マジ?じゃあオマエ、、、」
「父親似の相伝であって私は母似です。父はまだ健在なのでご安心を。ですがそうですね、受け持ちの上司がこうも不真面目ともなれば優秀な部下がハゲる未来もそう遠くないかと」
「え、つまり俺のせい?毛根が死ぬなんて妖の恥だぞ⁈でもよ~く考えてみろ。実際仕事もせず金が入ってくんなら誰もこんな馬鹿正直な労働なん選ばねえよ」
白夜は視線を外すことなく指輪を凝視すれば溜息をつく。
「そう考えればクーポンてのはよくできてる。割引や優待券。つまり店の商品やサービスを安く買って楽しく買い物する。これは金融機関でいうとこの利息。コッチが金を貸す代わりに元本と上乗せして貰える対価。概ね企業側の考えはこうだ。錦蛇を使い新しく新事業を計画する手前、そこには効率良く調達できる資金が必要。先行投資に銀行から借用するよか、債券発行して鬼頭家みたいな妖家から直接大金を借りる方がいい。なんせ妖家との結びつきは隠世では名誉も同然。銀行なんて所詮は名ばかりで実質の長は妖家。株式みたいに法人等記されてるわけでもない。まあ妖家がそれに乗るかは別だけど」
「ならばいっそう、我々のような存在は喉から手が出るほど渇望しておられるでしょう。デフォルトによる業績悪化さえ起きなければ確実にインカムゲインは約束されますがね。故夏家は親会社としてバックの責任も負うでしょうし」
つまりそれだけ一流企業からの先行投資が効けばコチラも分がいい。
それもこれも上手く事業が軌道に乗れば故夏家との繋がりも相まって、鬼頭家にはそれなりの利益を齎す。
「そこまで分かっていて細客ですか。若も欲張りですね。彼らはここらでも有名な一流企業。妖都のものにはやや劣りますが、それでも田舎に近いこの場所でよくやってる側ですよ」
「だからこそ臭いんだよ。細客なのも頷ける」
「どういう意味です?」
白夜はチラリと撤夜を見ればバインダーから覗く書類に目をやる。
「そこに書いてある通り、元はといえば妖都の地を半ば追放された身。上には上がいるのお手本になっただけあってか、上を追いかける選択を捨て上から下を見下ろす選択を選んだ。故にそれほどの力だったということ。鬼頭家が債券を買うまでもなく潰れることは目に見えている。一度ついた癖は治らない」
「しかし錦蛇とはまた稀少も稀少。鱗一枚で平民の一年分の給金が飛ぶほどの価値ですよ」
「だからやべぇんだろうが。所詮は絶滅危惧種。数が最初から少ないとこきて繫殖技術を持たない錦蛇を狩るだけ狩れば絶滅なんて直ぐ。陶器一つに鱗がいくつ必要になると思ってんだ。注文が殺到すれば材料費もかさばる。でも問題の原料は何処にもない。一夜の夢に酔いしれたと同時に自らの手で原料を絶滅させたんだ。タンポの補充先となる故夏家からしても使えない分家に用はない」
つまるとこ数年で業績を著しく延ばしたとて、所詮は絶滅危惧種に手を付けてしまったことによる材料の入手困難なのが響いていずれは商品製作も不可能となる。故夏家は力ある企業に親として裏で手を回す反面、衰退すれば切り捨ても早く、早々に自身の企業に損害を出さぬよう上手く免れる。親会社という名目上、腐っても共同事業が響く限り、収入の一部は懐に入る。そうやって甘い言葉で共同事業だと誘惑しときながら、今までにも多くの企業を侮蔑してきたのだろう。白夜はその裏事情まで読み解き、わざと泳がせていたというのか。
「だからわざわざ鬼頭家が手を貸して債券を買うまでもないんだよ。故夏家は使えるウチは生かす。だがもしもの時があれば…」
「若…」
「まあ、今はまだいいさ。いずれ嫌でも分かるってもんだ。俺の眼は騙せないからな」
アメジストの瞳は何を見たのか。
白夜は数年先の未来でも予測するかのように早々に仕事への興味も薄れたのか、今回の商談は行かなくても却下になることは間違いない。
「足らない知識をすり減らしてまで馬鹿な事業に打ち込む暇あんなら、お得にクーポン貰って低コストで利益回収する方が早いっていうのはこのことだ」
「お、これいいね!」などと言ってこちらに顔を向けるもことなく、商品と睨めっこを再開する白夜。撤夜は精神の限界を感じた。自分の手元に残る分厚い書類の数々とタブレット。他の者ならとっくに悲鳴をあげて逃げ出している頃だろう。
鬼頭白夜は頭が切れる。
だがそれ故に多くを語らない。
分かっていた。
無駄な仕事に費やす無駄な時間があるのなら、少ない労働で多くの経済を動かす。
できることならとっくにやってる。
だが万年人手不足なのだ。
この唯我独尊破天荒問題児についていける者がおらず、半年も経たないうちに皆やめてしまう。今までも数名補佐を雇ったが一か月と持たず逃げていく。一方これを撤夜は胃薬だけで長年対処していた。むしろ災難すぎるほど有能すぎたのだ。
「貴方がまともな仕事をしないニート気質だということは分かりました」
「ヒモよりマシだろうが」
「ですがこの案件、私一人で抱えるには荷が大きすぎます。却下するならするでも構いませんから。断りぐらいご自身の足で出向かれて下さい」



