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気がつけば日はすっかり落ちかけている。
明かりの灯り始める、ある商店街の通りには白夜と撤夜の姿があった。
「…以上が今回の業務内容となります」
「…」
「若、聞いておられますか?」
自分の問いかけに一切答えない彼を不思議に思い、撤夜が隣を見てみればそこに白夜の姿はない。
気になってキョロキョロと辺りを見回せば、お目当ての彼は数店舗先に構える店の一角に入って行くのが確認できて思わず舌打ちをしてしまう。
「…まだ仕事があるというのに、全くあの人は」
撤夜はこれに溜息をつけば、主人の入って行った店に向かって歩き始める。
先ほどまでいくつかの商談を掛け持ちし、やっとひと段落ついたばかりであってまだ終わりではない。
にも関わらず、自由奔放にふらりと消える彼の態度には毎度ながら手を焼くばかりだ。
ここは鬼頭家から少し離れた場所に位置する、ある商店街通りだった。
仕事の関係上、鬼頭家の管理下ともなるこの土地には普段から立ち寄る機会も多い。
今日は昼から外部での訪問と視察におわれていた。
進み具合によっては最悪外泊となるケースも高くなってきたところだったのだ。
「まあ、それもこれも全てはあの人次第ですがね」
店までやって来れば彼にしては珍しい、そこは普段から多くの女性客で賑わう人気のアクセサリー品店だった。
「ああ、そう言えばこの店。以前開店するにあたってうちが商談の依頼を引き受けたとこだったな」
鬼頭家の財力と権力は日々目まぐるしく変動している。
屋敷に籠るだけが仕事ではない、多くの広い土地を所有し管理もする。
多くの店とも日々取引を行い、異常がないかのチェックも仕事のうちだ。
上から任される仕事も回ってくるとこきて、最近では面倒ごとが近日中に控えているせいか余計に休めない。そんな緊迫した状況下の中、我が主人は何を考えているのやら。
「はあ。後で薬局に行って胃薬を買っておかないと」
ドアを開ければカランコロンと音のいい鈴の音色が聞こえ、同時に「いらっしゃいませ~」と声が聞こえてきた。
「まあ、鬼灯補佐官!ようこそおいで下さいました」
中に入れば、西洋風の雰囲気が漂う可愛らしい内装と多くの来客人で賑わっていた。
店員の一人が私に気が付くと慌てた様子で早足にこちらへと向かって来る。
「鬼頭様にはいつもお世話になっております。それで今日はどういったご用件でしょうか?」
「ああ、急に押しかけてしまってすまない。今日は仕事で立ち寄った訳ではない。主人を迎えにきたんだがいるかな?」
「ああ!若様でしたら先ほどあちらの方に。どうぞご案内致します」
店員の後に続き店内を進んでいく。
すると目の前にはアクセサリーブースが置かれた空間の中、人目を気にせず熱心な目でそれらを見つめ続ける主人の姿があった。私は店員を下がらせると大きく溜息をついて彼へと近づく。
「一体、ここで何をなさっているのですか?」
「ん~?お、撤夜じゃん」
「撤夜ですけど。で、仕事もせずここで一体何をなさっているのですか?」
ブースにはネックレスやブレスレットといったものが多く立ち並び、そのどれもが一級品。
ここでは外部から取り寄せた特別な宝石もいくつか所有しているため、女性客には特に人気の装飾品店として巷では有名にもなっている。
だが逆の意味で、この男がその身にそれをつけるにはここにある宝石達はあまりにも不釣り合いではないのか。