「お許しください!!」
「時雨殿⁈」
私はとうとう耐え切れなくなると、慌ててご当主様へと頭を深く下げた。そんな私の様子に青龍さんは驚いた様子でこちらを見つめた。
「今回、久野家のしでかした不始末につきましては全て私の責任。仰る通り、私には異能がありません。鬼頭家との約束を破り、無能の身でありながらこの世界に渡ったことに関しましては、弁解の余地もございません」
「…ほお、やはり異能はなかったか」
確信をついたかのように言い放たれた冷たい言葉に震えが止まらなかった。
とても怖い。
白夜様の時とはまた違う。
なんとも強い妖力への気配に体は硬直するばかりで動くことができない。
ピリリと辺りに走る緊張感と威圧感。
これが鬼頭家トップを誇る黒鬼の妖。
「異能がない身で一度は諦めたこの人生。ですが白夜様は、そんな私に生きる大切さを教えて下さいました。無能であるというならば、せめて悔いのない生き方をここでしてみせると。私はあの日、彼と約束をしたのです」
「時雨殿…」
「…」
異能がなくとて恥じぬ行いをしてみせる。
彼とそう約束したのだ。
いずれはこうしてバレるのも時間の問題だった。
ならば精一杯、後はくらいついてみせるだけだ。
自分のためにも、今ここで諦める訳にはいかないのだ。
「勿論、今回の件を見過ごして頂こうなどとは微塵も考えておりません。いかなる罰も覚悟しているつもりです。ですがどうかお願いです。彼の元を離れることだけは!」
「…異能を持たない。そんなただの人間であるそなたを息子の妻にせよと?」
「貴様!!」
青龍さんは再び怒りを露にすれば、刀剣をご当主様の首元へと強く押し当てた。
「異能がなくとて関係ない。大事なのは、自分が置かれたその立場において自分はどう生きられるかだ。そう白夜様は私に言って下さいました。異能が無いのを受け入れ、それでも私を側に置くことを認めて下さったのです。私は彼に命を救われました。今度は私が必ずやその期待に。彼の隣に相応しい人材になります。いいえ、してみせます!」
私は頭を上げると、一瞬たりともご当主様から目を逸らすことなくそう告げた。
もう恐れない。
彼と一緒にいられるというのなら。
この先、どんなに辛いことが待ち受けていようが乗り越えていく。そんな強い覚悟を胸にご当主様を見れば、彼はただ静かに私を静観していた。
「…はは。やはりアイツの言っていた通りだったな」
「…え?」
ご当主様はさっきまでの怒りの表情とは一変、いつも浮かべている穏やかな表情に顔を戻せば静かに笑い始めた。
私は何が何だか分からず思わず困惑してしまう。
「いや、すまぬ。実はそなたの事は前々から白夜には色々と聞かされておったのだ。異能がないことも既に知っていた。だが何事にも決して動じない心の強い持ち主であると。ならばこの際、それを試してみようと思ってな」
「は、はあ」
え、、、。
つまりさっきまでのものは全てご当主様のお芝居で、私が本当に白夜様の言っていた通りの人材なのかを試していたということ??
「はは、すまぬな。本当はここまでするつもりはなかったのだが、少々怖がらせてしまったようだ。彼の反応が面白くてつい熱を入れすぎてしまったのだ」
ご当主様はそう言い顔を上げれば、そこに佇む青龍さんを見つめた。
彼は先ほどと同じ体勢を保ったまま、ご当主様を強い眼差しで威圧している。
「己の主人を守ろうとする神獣の忠誠ぶりには驚かされた。だが怒りに身を任せるだけが正解とは限らんぞ」
「ッ、貴様~!!」
青龍さんはその言葉にブルブルと体を震わせれば刀剣を持った腕を上へと振り上げた。
そして今度こそ、その腕を勢いよく下に振り下ろした。
だが肝心のご当主様はそこを動こうとしない。
「ちょ、青龍さん!ストップ!!」
これに焦ったのは私の方だ。
間一髪で二人の間に体を割り入れると、腕を広げてご当主様を攻撃から守った。
「時雨殿⁈」
私はとうとう耐え切れなくなると、慌ててご当主様へと頭を深く下げた。そんな私の様子に青龍さんは驚いた様子でこちらを見つめた。
「今回、久野家のしでかした不始末につきましては全て私の責任。仰る通り、私には異能がありません。鬼頭家との約束を破り、無能の身でありながらこの世界に渡ったことに関しましては、弁解の余地もございません」
「…ほお、やはり異能はなかったか」
確信をついたかのように言い放たれた冷たい言葉に震えが止まらなかった。
とても怖い。
白夜様の時とはまた違う。
なんとも強い妖力への気配に体は硬直するばかりで動くことができない。
ピリリと辺りに走る緊張感と威圧感。
これが鬼頭家トップを誇る黒鬼の妖。
「異能がない身で一度は諦めたこの人生。ですが白夜様は、そんな私に生きる大切さを教えて下さいました。無能であるというならば、せめて悔いのない生き方をここでしてみせると。私はあの日、彼と約束をしたのです」
「時雨殿…」
「…」
異能がなくとて恥じぬ行いをしてみせる。
彼とそう約束したのだ。
いずれはこうしてバレるのも時間の問題だった。
ならば精一杯、後はくらいついてみせるだけだ。
自分のためにも、今ここで諦める訳にはいかないのだ。
「勿論、今回の件を見過ごして頂こうなどとは微塵も考えておりません。いかなる罰も覚悟しているつもりです。ですがどうかお願いです。彼の元を離れることだけは!」
「…異能を持たない。そんなただの人間であるそなたを息子の妻にせよと?」
「貴様!!」
青龍さんは再び怒りを露にすれば、刀剣をご当主様の首元へと強く押し当てた。
「異能がなくとて関係ない。大事なのは、自分が置かれたその立場において自分はどう生きられるかだ。そう白夜様は私に言って下さいました。異能が無いのを受け入れ、それでも私を側に置くことを認めて下さったのです。私は彼に命を救われました。今度は私が必ずやその期待に。彼の隣に相応しい人材になります。いいえ、してみせます!」
私は頭を上げると、一瞬たりともご当主様から目を逸らすことなくそう告げた。
もう恐れない。
彼と一緒にいられるというのなら。
この先、どんなに辛いことが待ち受けていようが乗り越えていく。そんな強い覚悟を胸にご当主様を見れば、彼はただ静かに私を静観していた。
「…はは。やはりアイツの言っていた通りだったな」
「…え?」
ご当主様はさっきまでの怒りの表情とは一変、いつも浮かべている穏やかな表情に顔を戻せば静かに笑い始めた。
私は何が何だか分からず思わず困惑してしまう。
「いや、すまぬ。実はそなたの事は前々から白夜には色々と聞かされておったのだ。異能がないことも既に知っていた。だが何事にも決して動じない心の強い持ち主であると。ならばこの際、それを試してみようと思ってな」
「は、はあ」
え、、、。
つまりさっきまでのものは全てご当主様のお芝居で、私が本当に白夜様の言っていた通りの人材なのかを試していたということ??
「はは、すまぬな。本当はここまでするつもりはなかったのだが、少々怖がらせてしまったようだ。彼の反応が面白くてつい熱を入れすぎてしまったのだ」
ご当主様はそう言い顔を上げれば、そこに佇む青龍さんを見つめた。
彼は先ほどと同じ体勢を保ったまま、ご当主様を強い眼差しで威圧している。
「己の主人を守ろうとする神獣の忠誠ぶりには驚かされた。だが怒りに身を任せるだけが正解とは限らんぞ」
「ッ、貴様~!!」
青龍さんはその言葉にブルブルと体を震わせれば刀剣を持った腕を上へと振り上げた。
そして今度こそ、その腕を勢いよく下に振り下ろした。
だが肝心のご当主様はそこを動こうとしない。
「ちょ、青龍さん!ストップ!!」
これに焦ったのは私の方だ。
間一髪で二人の間に体を割り入れると、腕を広げてご当主様を攻撃から守った。