襖は開かれており、中には声がかかるとご当主様の姿が確認できた。彼は奥側に設置された縁側に腰掛けており、私達の来た気配に気がつくと姿勢を正してこちらへと体を向けた。
「よく来たな。さあ入りなさい」
「はい、失礼致します」
促されるまま、奥座敷へと入っていく。
中は比較的物が少なく、サッパリとした空間で構成されていた。
ふと、縁側へと目を向ければ不思議なことに外は夜になっていて、苔で覆われた石の池には竹で造られた角状の照明から漏れ出る灯りも相まって鯉が優雅に泳いでいるのが確認できる。
側には真っ赤に色づいた紅葉の木々が枝垂れかかっており、はらりとその葉を池の中へと落としていく光景が何とも幻想的であった。
「久しいな。あれから変わりはないか?」
「はい、邪気への影響もさほど受けておりません。白夜様や皆様のお陰で今ではとても快適に過ごさせて頂いております」
「そうか。して、その後ろに控えるのは…」
ご当主様の側に控えた私の後ろには、少し離れた場所から立ったままの状態でこちらの様子をジッと観察する青龍さんの姿が。
ご当主様が目を向ければ、彼は怪訝そうな顔で警戒モードに入ってしまう。
「なんとも警戒心の強い奴じゃ。こうして近づくこともせず、私を険悪そうな目で見つめておる」
ご当主様はそれに怒ることをせずそう言えば、面白そうに青龍さんを観察した。
青龍さんはその様子に更に警戒心を強めると、今度はご当主様を睨み付けていた。
私はこれに慌てると彼を何とか落ち着かせようとする。
「彼は私の神獣です。普段は私を邪気から守ってくれています。ご当主様にはもっと早くにお伝えするべきでした。遅れてしまい申し訳ありません」
「よい。白夜から大まかな話は聞いておる。なんでも契約をしたと聞くが?」
「彼を見つけたその日、契約と称して加護を受けました。契約により、これで私の体は邪気による被害を受けずとも済むようになりましたので、彼には感謝しています」
「そうか。神獣の加護があるならば、そなたはもう安心じゃろ。…例えその身に異能がなくとて」
ハッとその言葉に驚き、ご当主様を見た。
見れば彼は冷ややかな瞳で私を見つめていた。
「(そうか!私に異能が無いのは一部の人しか知らない。もしもここに連れて来られた理由がそれだったとしたら?)」
「私が久野家から要求したのは、封印の異能を色濃く受け継いだ娘であったはずだが?」
「ご、ご当主様…。わ、私は」
放たれた強い怒りの籠る妖力への気配。
鬼頭家との約束を久野家が破り、八雲家での一件で私に異能が無いのを聞きつけたのだろう。
今までなんとかバレずに過ごしてきたせいか、ご当主様に本来の姿を伝えることが疎かになっていたのだ。
知られてしまった以上、白夜様がいなければ今の私にはどうすることもできない。
私はブルブルと震え出した。
「…貴様、殺されたいのか?」
「!」
突如、頭上からは声がかかれば、私の直ぐわきには青龍さんの姿があった。どこから取り出したのか、その右手には青く光る刀剣を持っている。
体からは青い光のオーラを放ち、ご当主様を威嚇すれば刀の矛先をその首元へと向けた。
「主君に手を出してみろ。貴様をここで殺してやる」
「ほお、鬼頭家当主であるこの私にそれを向けるか」
青龍さんの言葉にご当主様は臆することもせず、落ち着いていた。
「貴様の意思など関係ない。俺は時雨殿を御守りする以外にこの世界に用などない。例え貴様が妖家のトップとて、妖が四神であるこの俺に勝てるとでも本気で思っているのか?」
青龍さんは本気で怒っていた。
マスク越しに伝わる瞳は殺気を帯び、今なら本当にご当主様を殺してしまいそうな勢いだ。
鬼族のトップと四神の神獣がにらみ合う。
逼迫したこの状況はまさにカオスとも言えた。
「よく来たな。さあ入りなさい」
「はい、失礼致します」
促されるまま、奥座敷へと入っていく。
中は比較的物が少なく、サッパリとした空間で構成されていた。
ふと、縁側へと目を向ければ不思議なことに外は夜になっていて、苔で覆われた石の池には竹で造られた角状の照明から漏れ出る灯りも相まって鯉が優雅に泳いでいるのが確認できる。
側には真っ赤に色づいた紅葉の木々が枝垂れかかっており、はらりとその葉を池の中へと落としていく光景が何とも幻想的であった。
「久しいな。あれから変わりはないか?」
「はい、邪気への影響もさほど受けておりません。白夜様や皆様のお陰で今ではとても快適に過ごさせて頂いております」
「そうか。して、その後ろに控えるのは…」
ご当主様の側に控えた私の後ろには、少し離れた場所から立ったままの状態でこちらの様子をジッと観察する青龍さんの姿が。
ご当主様が目を向ければ、彼は怪訝そうな顔で警戒モードに入ってしまう。
「なんとも警戒心の強い奴じゃ。こうして近づくこともせず、私を険悪そうな目で見つめておる」
ご当主様はそれに怒ることをせずそう言えば、面白そうに青龍さんを観察した。
青龍さんはその様子に更に警戒心を強めると、今度はご当主様を睨み付けていた。
私はこれに慌てると彼を何とか落ち着かせようとする。
「彼は私の神獣です。普段は私を邪気から守ってくれています。ご当主様にはもっと早くにお伝えするべきでした。遅れてしまい申し訳ありません」
「よい。白夜から大まかな話は聞いておる。なんでも契約をしたと聞くが?」
「彼を見つけたその日、契約と称して加護を受けました。契約により、これで私の体は邪気による被害を受けずとも済むようになりましたので、彼には感謝しています」
「そうか。神獣の加護があるならば、そなたはもう安心じゃろ。…例えその身に異能がなくとて」
ハッとその言葉に驚き、ご当主様を見た。
見れば彼は冷ややかな瞳で私を見つめていた。
「(そうか!私に異能が無いのは一部の人しか知らない。もしもここに連れて来られた理由がそれだったとしたら?)」
「私が久野家から要求したのは、封印の異能を色濃く受け継いだ娘であったはずだが?」
「ご、ご当主様…。わ、私は」
放たれた強い怒りの籠る妖力への気配。
鬼頭家との約束を久野家が破り、八雲家での一件で私に異能が無いのを聞きつけたのだろう。
今までなんとかバレずに過ごしてきたせいか、ご当主様に本来の姿を伝えることが疎かになっていたのだ。
知られてしまった以上、白夜様がいなければ今の私にはどうすることもできない。
私はブルブルと震え出した。
「…貴様、殺されたいのか?」
「!」
突如、頭上からは声がかかれば、私の直ぐわきには青龍さんの姿があった。どこから取り出したのか、その右手には青く光る刀剣を持っている。
体からは青い光のオーラを放ち、ご当主様を威嚇すれば刀の矛先をその首元へと向けた。
「主君に手を出してみろ。貴様をここで殺してやる」
「ほお、鬼頭家当主であるこの私にそれを向けるか」
青龍さんの言葉にご当主様は臆することもせず、落ち着いていた。
「貴様の意思など関係ない。俺は時雨殿を御守りする以外にこの世界に用などない。例え貴様が妖家のトップとて、妖が四神であるこの俺に勝てるとでも本気で思っているのか?」
青龍さんは本気で怒っていた。
マスク越しに伝わる瞳は殺気を帯び、今なら本当にご当主様を殺してしまいそうな勢いだ。
鬼族のトップと四神の神獣がにらみ合う。
逼迫したこの状況はまさにカオスとも言えた。