白鬼の封印師 二

「時雨殿、起きてください」

ポスポスと肩を叩く音に目を開ければ、視界に移った青龍の姿。さっきの衝撃で気を失ってしまったらしく、体を起こしてみれば自分は青龍の膝上で眠っていたよう。

「ごめん!重かったよね、、」

慌てて飛び起きれば恥ずかしくて仕方ない。

「いえ、こうして我が主を膝上に乗せる日が来ようとは。なんとも機嫌のいいものですね。俺の膝上…気持ち良く寝られましたか?」
「え、えと、、」
「可愛らしかったです」
「////」

それには顔がカッと赤くなる。
神獣とはいえ彼は男だ。
マスク越しでも分かる整った顔に不思議な気配を放つ大人のオーラ。時おり子供っぽく、いたずらな笑みで微笑む姿が目に毒にもなる。こんなの恥ずかしがらない女が何処にいる。

「おや?さては時雨殿、照れてますね」
「て、照れてなんかないもん!」
「ふはっ、もんって。なんとも可愛いらしい」

吹き出した青龍についムッと反抗的な顔を向けてやれば、顔に伸びてきた白い手。するりと撫でる手はひんやりしてて気持ち良い。気づくと青龍の顔は正面にきていた。
互いに見つめ合うこと数秒。
青龍は目を細めれば静かに頬から手を離す。

「ダメですよ。そんな顔を見せては」
「え」
「俺も眷属であると同時に一応男なので」

どういう事だろう。
言葉の意味を言及しようにも青龍は立ち上がると向こう岸を見つめる。
差し出された手を取れば立ち上がった。
なんて不思議な場所なんだろう。
鬼頭家と何ら変わりないようにも見えるこの場所は空が虹色にひかり、景色は何処までも続いていて先が見えない。蓮池にかかる橋の先に見える一件の古い建物屋敷。

「見たところ、ここは鬼頭家当主が形成する特殊な精神領域のようですね」
「精神領域?」
「妖が自身の精神に妖力を注ぎ込むことで展開させる独自の空間領域です。ここでは時間も止まっています」

確かにそう言われてみれば妙に周りが静かだ。
長く続く奥行きの長廊下を進んでいく。
蓮池には鯉が優雅に泳ぎ、水面から顔を出せば虹色の鱗を輝かせて空に浮遊していく。

「うわぁ!見て青龍!鯉が空を飛んでる」
「空魚です。妖の世界では割と多いんですよ」
「綺麗な場所だね」
「時雨殿、お目当ての当主は恐らくあそこの屋敷にいるかと」

青龍が指差す方向先、ひっそりと構えた御殿が一つ。
部屋に続く石階段を時雨は緊張の足どりで登っていく。

「来たか。入りなさい」
「失礼します。お久しぶりでございます、ご当主様」

中には茶室に腰を下ろした深夜が待ち構えていた。